第15話 待機室
待機室に通され、扉が閉まる。
リリスはその場に立ち尽くし、ちらりと隣に立つ少女に視線を向けた。
濡れ羽色の黒髪を軽く払い、彼女は堂々とした態度でソファに座る。
「あんた、いつまでそこでぼーっとしてるつもり?さっさと座りなさいよ。」
リリスはその言葉通り、彼女の向かい側に腰を下ろした。
少女はその様子を見て少し首を傾げる。
「あんた、名前は?」
「・・・リリス。リリス・デュポワ。」
本来ならば、相手の名前を聞く時は先に自分の名前を名乗るべきなのだ。
しかし、少女はそんなことはお構いなしといったふうに瞳を輝かせて少し身を乗り出す。
とはいえ、そのことを指摘しないリリスもリリスである。
「ああ、あの『人形姫』か!」
そう言って納得したようにそうつぶやく。
リリスは以前にも、一度だけその呼び名を聞いたことがある気がした。
しばらく考えても思い出す気配はなく、首を傾げる。
「え、知らない?」
少女は困ったように眉を寄せながらも、口を開く。
「そう、それなら・・・。」
そうして語られたのは、リリスにとってつらいであろう現実。
リリスが叔母の家にいたときの出来事に起因するものであった。
リリスの叔母は、頻繁に茶会を開いていた。
そして、必ずリリスも出席させていたのだ。
その理由は、自分のアピール。
忙しいリリスの親の代わりに、自分がリリスを立派に育ててやっているんだ、ということを貴族の奥様方に見せつけていたのだ。
さらに、自分と似たデザインの服を着せて仲の良さをアピールしていたのだ。
しかし、お茶会でも全く表情を動かさず、一言も話さない。
そんなリリスを見た奥様方の話は、やがて社交界にも広がり始める。
そうして、ついた名が『人形姫』。
これはリリスの母親――セレストが叔母の悪行に気付くきっかけにもなったのだ。
そうして、今に至る。
叔母は今までリリスにした仕打ちが社交界中に広まった上、色々あって修道院送りとなった。
そして、リリスは今幸せに暮らしているにもかかわらず、いまだに哀れまれ、こう呼ばれるのだ。
『人形姫』と。
そこまで聞いたリリスの顔に浮かんでいたのは、『無』。
しかし、何も思っていないわけではなく、心の中では涙を流していた。
ごめんなさい、お母様、お父様。
私がそう思われていたら、肩身が狭いはず。
ごめんなさい・・・。
そして、少し顔を伏せるリリス。
それを見ていた少女は、何とも言えない表情を浮かべ、口を閉じていた。




