夜中の……出会い?
少し出てくる。
そう言って一和が出てから、どれだけの時間が経っただろう。スマホの充電も切れ、あの部屋には時計も無かったから、今の時間が良く分からない。
日はとうの昔に落ちていた。後はより深まっていくばかりだろう。街の明かりが一つ消え、二つ消え、いずれ数えるほどの明かりだけが残り、静かな深夜を迎えるだろう。
そして、深夜の町はいずれ朝を迎える。いつも通りに、平和な朝を。
自分は違うと、一和は思った。
また戻るのだろう。一和に助っ人を頼んだ連中の小さくて粗末で汚いアジトに。
アジトなどとは言い過ぎか。ただのアパートの一室、誰かの借りている部屋か、あるいは勝手に居ついている部屋か。
どちらにしろ、男ばかりがたむろするには狭く、人いきれが激しくて休めた物ではなかった。あと臭い。
悪くなる一方の気分を少しでも改善させるため、一和はふらりと外に出た。
ただそれだけのこと。
外の綺麗は部屋と比べると遥かにきれいで、一呼吸で肺に貯まった嫌な臭いが洗浄されるようだった。
街の活気はまだ残っている。一和が足を踏み入れたのは繁華街。飲み屋や店屋が並び、この街では一番明るい場所だった。
人もたくさんいる。しかし、部屋よりははるかに、落ち着くはずだった。
知っている人もいない。顔を合わせても興味のない人間がたくさんいる。
だから、落ち着くと思っていた。
落ち着かない。胸の奥がざわざわとしている。
なぜ……喧嘩らしい喧嘩はできた。懸と少しだけやりあった。あれが自分の望んでいた出来事だったはず。
なぜ……。明かりがほんのりと照らすアスファルトに落とした視線に、一瞬風景が見えた気がした。
いいや、見えた。
これまでの日々だった。
誰かがいて、小さな問題があって、何か感情があって……。
一和は目を閉じ、一度前を向いた。
そして目を開いて、また歩き出す。一和に自覚は無かったが、歩みの早さがさっきよりも速くなっていた。まるで、少しでも遠くに行こうとしているかのように、逃げるかのように、早く。
途中、ぴたりと立ち止まった。
辺りに人はいなかった。繁華街とはいえ、歩きや自転車で移動する人間の数は少なかった。
しかし、一和の前には一人の男が立っていた。
ガタイが良く、ライダージャケットを着た男。いかつい顔の三白眼が一和を睨みつけていた。
「竜美の野郎は幅聞かせてるらしいじゃねえか。お前はどうだ?」
構わず、一和は歩き出す。
「おいおい、後輩に目をかけてやってるってのに」
横を通り過ぎようとする一和に、男は話しかけた。口元に笑みを湛えているのに、目は全く笑っていない。無表情でもなく、睨みつけるような目が、未だに一和を捕えていた。
隣に立ち、一和は再度立ち止まった。
「敗走したヤツに興味はない」
一和はやっと睨み返した。
知っている顔だ。懐かしい顔だ。
去年、懸の仲間たちに倒されて学校を去っていた男、名前は覚えていないが、当時は番長と呼ばれていた男だった。今でも昔でも、一和はこいつに負ける気はしていない。
番長は嬉しそうに鼻を鳴らした。
「言ってくれるじゃねえか。竜美の奴に言っておいてくれや。いつかオトシマエつけてやるからな」
お互いにもうこれ以上話すことはないと言うように、前を向いて歩き出した。
十秒ほど歩いた。まだ、お互いに大きく離れてはいなかった。
「おお、そうだ」
一声挙げて、元番長は振り向いた。
「大神、お前の仲間連中に挨拶してきたぜ?」
一和に聞こえるような大きな声で言う。一和は振り返った。
仲間?
……元番長が歩いて来た方角は、今一和が向かっている先にあるのは……。
あの連中のアジト。
一和は気が付くと、走り出していた。
かかか、と笑い声が聞こえた。
一和の姿をこんなところで見かけるとは思わなかった。
特に関係があるわけでもないが、なんとなく気になって追いかけていたのは、金髪を逆立てた背の低い男、下中順一だった。
思わず、ぶるりと背中が震えた。
まさか、元番長がこの町にまだ残っていたなんて。
一和が走り去って笑い声をあげる姿は、学校で見た支配的な笑いで、不愉快だ。
そんな相手と一和が何やら言葉を交わしていた。
仲間が……なんとかって。後をっていたものの、距離があったせいかいまいちよく聞こえなかった。
一和。元番長。仲間……ま、まさか……。
順一の脳裏に一つの予感が浮かんだ。それは強烈な印象をもたらし、なかなか拭い去ることができないでいた。
と、そのとき。
にやりと笑う元番長の三白眼とばっちりと目が合ってしまった。
やばい……。
順一は急いで踵を返し……。
……。
…………。
ども、作者です。
もう、最終話を期日までに仕上げられないかもしれませんね。その時は何とか調整してみます。




