過去の……こと?
連れられて到着したお嬢の自宅は、まさに和風のお屋敷と言った感じの家だった。大きな木製の頑丈そうないかめしい門があって、そこを通してもらってやっと玄関だった。
「お帰りなさい、純。ようこそ叶恵さん。お待ちしていましたわ」
入ってすぐにお嬢が出迎えてくれた。
「純、どうしましたの? 顔を怪我しているみたいですけど……」
お嬢が純君の顔の跡に気が付いた。ワンちゃんに殴られてできた怪我だろう。純君は頬に手を当てて、
「なんでもない。気にするな」
とだけ言った。
ワンちゃんに殴られた、とか私の知り合いに……なんて言わない辺りに、随分と気を使ってもらっている感じがする。隠してくれてありがとう、と私は純君に目を合わせた。
純君はどうってことないとでも言うように、手を払って見せる。
「? まぁ、なんでもないならそれでいいですけど……それよりも、おじい様がお待ちですわ」
お嬢は私を奥の部屋まで連れていった。廊下を渡ってやってきたのは、襖がいくつもある大きな和室、ちょうど大河ドラマか何かで見るような、豪華な部屋だ。
「おじい様、連れて来ましたわ」
その部屋の一番奥。そこに座布団を敷いて座っているお爺さんが一人。いかつい顔をしているのに、近くに漫画雑誌と単行本がたくさん置かれている。なんでだろう。
お嬢が先に正座して、私も続いて座る。
「おお、来てくれたか。いつもうちの雅が世話になっているのう」
とても優しそうに笑って、お爺さんは言った。
「いえいえ。そんな……」
むしろお世話になっているのは私の方で……、といおうとするも急にギロリと睨まれていたことに気が付いた。
その目は本当に怖くて……今までの人生で会ったことのないような恐ろしい目。不良が睨むのも子供がカエルや虫に対して調子に乗っているだけのようだったのだと思わせる程、桁違いの恐ろしさ。や、やっぱり来るのは間違っていたのかな。
私は緊張でがちがちになって、言葉を失って、これからどうすればいいかと困惑しきっていた。
そのときに、やっと厳しい睨み目がやんわりと細められた。
そして、ふぅ、とお爺さんは一息ついた、安心したのともため息とも全く違うため息だった。
「やれやれ。よう似とるわい」
「にて……る?」
なんだか、ちょっと前にも言われたような……。
「お前さんの親父によう似とる……親子じゃから当たり前かのう」
私はまたも言葉を失ってしまった。
お父さんと? また言われた。お父さんと、知り合いなの?
しゃべろうとしても、口をパクパクとさせるだけで喉から言葉が出てこない。
「ああ、そうじゃ。お前さんは知らんだろうが、ワシと君とは大叔父に当たる親戚でもあるんじゃ」
「親戚ッ!?」
じゃ、じゃあ、お嬢とも?
ちらり、とお嬢を横目で見る。
「わたくしもついこの間知らされたばかりなんですの。驚きましたわ」
ふふふ、とお嬢はリラックスして笑う。さすがは家族、緊張感なんてものは欠片も感じない。
っていうか、そんなことよりも、お嬢のお爺さんがお父さんのことを知っていて、私と大叔父で……ああ、もう。お父さんのこと何にも知らなかったけど、どういう人間関係してたのあの人!
「君のお父さんは、わしの甥じゃったな。そして……ワシの息子、雅の父とはお互いの関係も知らない、親友同士じゃった……のう、叶恵ちゃん?」
「は、はい?」
「ちょいと長話になると思うが、聞いてくれんかな? 君のお父さんとワシの息子との話……君にとって知りたくないこともあると思うが……」
「知りたくない話?」
「聞けば分かるが……どうかの?」
お爺さんはこの上なくもったいぶる。教えてくれなきゃ聞きたいかどうかも判断し辛いんだけど……。
だけど……私は……。
「お願いします。聞かせてください」
私自身にもいろいろとたくさん問題を抱えてる。ワンちゃんのこともある。でも、今はお爺さんの話に耳を傾けよう。
そう思って、私はお爺さんが思い出話のように語るその話に聞き入った。
ども、作者です。
続きを引く感じで終わりましたけども、一段落です。




