不明な……心情?
あっという間のできごとだった。
ワンちゃんの連れの柄の悪い人達が、スーツ姿の純君に容赦なく襲いかかっていく。大体五人くらいが殴りかかろうとするのを、純君はたった一人で全員倒してしまった。もう何があったのか分からない。気が付いたらみんな倒れていたって感じだった。純君も純君で、めちゃくちゃ喧嘩が強いみたい。息も上げずに、落ち着いた表情でワンちゃんを見る。
私もワンちゃんに目を向ける。ワンちゃんは純君を睨みつけていた。
「お……おい……」
倒れた内の一人が、掠れた声を出す。視線の先にはワンちゃんがいて、彼に何かを求めている。
何を、と思っているとワンちゃんが一歩前に出た。
ワンちゃんは純君を睨み、純君も睨み返す。
「アンタ、お嬢の友達の連れだろう? こいつらに肩入れする理由はないと思うが?」
止めるように純君が言う。
でも、それを聞いてもワンちゃんは止まらなかった。
右手を握って、それを純君に向けて振るう。
それを純君はひらりと避ける。二人の間の空気がガラッと変わった。
「ワンちゃん!」
止めて! と言おうと思ったのだけれど、
「離れてろ」
と純君に遮られてしまった。また、ワンちゃんが殴ろうとする。
私は思わず、その場から後ずさった。
私には見守ることしかできなかった。何度か殴ろうとしたり、蹴ろうとしたり、純君とワンちゃんの攻防が始まった。私が見ている限りでは多分、互角。お互いに全くクリーンヒットしない感じだった。
でも、その内に。
純君が右足で蹴ろうとしたのを、ワンちゃんが避けてカウンターを決めるような形で、ついにワンちゃんの左の拳が純君の頬の辺りに突き刺さった。
どすん、とアスファルトの上に純君が倒れる。
ワンちゃんは倒れた純君に近寄って行き、足を引く。
まさか、と思うと私の口はすぐに動いた。
「止めてよ! ワンちゃん!!」
サッカーボールでも蹴るみたいに足を引いたワンちゃんの動きが一瞬止まった。
やっと、やっと声が届いた。
そう思っていたけれど、足を止めたワンちゃんは今度は身をかがめて、右手の握りこぶしを振り上げていた。
どうして。どうして止めてくれないの?
何だか、ヘンだよ。いつものワンちゃんじゃない。おかしいよ。
止めてよ。いつもはそんなことしないでしょ?
なんで。やめて、やめてよぉ……。
「やめてええええええええ!!」
叫び声を上げた、その直後。
「ようワン公。喧嘩する相手はちょっと考えた方がいいんじゃないか?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
ワンちゃんのことをワン公だなんて呼ぶのは一人しかいない。
振り返るとそこに、懸さんがいた。
「ちっ……」
ワンちゃんは舌打ちをして、手を下げて立ち上がる。
「お前もちょっとは賢い奴だと思ってたんだがなぁ……」
「止めるのか?」
お互いに近づき、二人が対峙する。
「おう、叶恵ちゃんが止めて欲しそうなんでね」
くるりと首を回して、懸さんが私の方を見る。
任せて、と言わんばかりにウィンクをした。おちゃらけた行動のように見えるけど、それでも頼もしかった。
「邪魔だ!」
ワンちゃんは間髪入れずに、懸さんを殴りつけようとする。
「おっと。いきなりかよ」
よそ見していたのに、懸さんはワンちゃんのパンチを受け止めて、
「オラッ!!」
と反撃をした。懸さんのパンチが、ワンちゃんの顎の下をアッパーで救い上げる。
「……ぐ」
ワンちゃんはその場で倒れて、すぐに起き上った。
「なぁ、叶恵ちゃん」
それを見て、懸さんが私に声をかけた。
「な、なに?」
「ちったぁ、この場から離れて欲しいんだ。見守られながら闘うのも青春でいいんだがなぁ……ワン公相手だといい格好できそうにねえんだ」
「で、でも……」
「まぁ、この場は任せてくれってことで。頼むよ」
そう言った懸さんの目は真剣そのものだった。
やっとワンちゃんに会えたのに……。でも、私がここにいても役になんて立てないし、ワンちゃんを止められもしなかったし……。
ここは、懸さんに任せよう。
私は急いで、純君の傍に駆け寄った。純君も体を起こして、二人を見ていた。
「ねぇ、純君。行こう、お嬢の家に連れてって」
「いいのか?」
「うん。ここは懸さんに任せればいいから」
「……分かった」
私は純君に連れられて、車に乗り込んだ。
車に乗って、ドアを締めてもらう前に、私は外を見ながら、
「懸さん! お願い、ワンちゃんのこと頼んだから! あと、純君も悪い人じゃないから、私も大丈夫!」
と懸さんに向けて言った。
「おう、叶恵ちゃんの言うことはなんでも信じるぜ!」
懸さんは威勢よく答えてくれた。ドアが閉まるとすぐにエンジンがかかって、車は発進した。
私は何もできなかった。言うことも訊いてくれなかったし、ワンちゃんに何があったのかも聞き出せなかった……私、本当に無力だ。
「おい、ワン公。俺は叶恵ちゃんのいうことは新辞典だ。お前はどうだ?」
残った懸と一和が対峙している。まさに一触即発、いつ殴り合いが再開してもおかしくはない、びりびりとした空気が当たりに漂う。
一和は答えない。
信じているのか? 信じていないのか?
聞いていたのか? 聞いていなかったのか?
もう、そんなこともどうでも良かった。
一和にとって、もう叶恵たちと一緒にいた日々は遠い別世界のものだと、考えていたから。
ども、作者です。投稿する前に次は何話を更新すればいいのかを確認するのですが、ストック的にかなりギリギリのラインに来ていたことに更新直前に気が付きました。
とりあえずはまた2か月分はストックは貯められているのですが、書き上げられたのも今週中だったので、いやぁ~やばかったですね~。




