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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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82/105

新しい……先生?


 授業は滞りなく進んだ。滞りなくと言いつつ、私は大概の事を理解できないままに授業の時間がひたすらに進んで行くばかりで、気が付いたらお昼になっていたって感じだ。

 いつものようにいつもの場所に行く。冬になったから、寒くて仕方がないのだけど、暖かいコーヒーを購買付近の自動販売機で買って向かう。購買もいつも通りの無駄な騒がしさだった。

 そして、無事に体育館裏に到着して腰を落ち着ける。雪が降ったらどうなるのだろう、一面雪景色になるのかな? そうなったら、ここで座れないかも。

 などと思う私は、この場に一人きりだった。

 ワンちゃんがいない。ちょうど三日前から彼の姿を見ていなかった。別に対して大きな問題じゃないと私は思っていた。学校を休むことなんて、風邪でも怪我でもなんでもあると思う(それはそれで心配だけど)し、良くはないけどサボりもある。実際にワンちゃんが学校を時折休むのも、珍しい事じゃなかった。朝はいなくても、昼ごろにふらっと来ることもあった。本人に理由を尋ねても教えてくれなかったけど、姉の千和さんに聞いたら、ペットを病院に連れて行っていたということもあった。

 だから、ここ最近の休みもそのうちのどれかが理由なんだろうと、対して気にはしていない。

 でも、さすがに三日目ともなると……風邪が長引いたりでもしているのかなぁ。

 今日あたりにお見舞いにでも行ってみようかなぁ。

 そう思いながら、一人での食事を終えた。

 午後一の授業は数学だった。もともとは若槻先生が受け持っていた授業。だから多分、新しい先生が来るのだろう。

 ちなみに、若槻先生が授業をしていたころは、誰もかれもがノートを取っていなかった死、先生も時折子供の話をし始めて授業時間の半分が潰れたり、不真面目な生徒に向けてチョークが映画の銃弾みたいに飛んで来たり、と一言で言えばカオスな時間だった。

 授業が始まる前の教室では、若槻先生が産休したから、もうチョークが飛んでこないと分かるや否や、真面目に授業を受ける気のない、だらけた態度を取る人ばかりになっていた。

 チャイムが鳴って、十数秒経ってからドアが開いた。

 入って来たのは男の人。真面目な教師らしいスーツ姿で、年はだいたい四十代かそれよりも少し若いかというくらい。

 顔を見た時、私は思わず立ち上がってしまいそうになった。

 驚いた。そして、教壇に立って名前を言ったときにまたさらに驚かされた。

「はじめまして。大神志波です。どうぞよろしく」

 顔立ちは強面で、ワンちゃんにすごくよく似ている。ちょうど、ワンちゃんが老けたらこんな感じになるだろう、という顔だ。髪は短くて、ところどころに白髪がある。本当にワンちゃんの未来の姿を見ている感じがする。

 もしかして、ワンちゃんのお父さん? 苗字も、同じだし、ここまで似ているし……。

 そんな気持ちを抱えながらの授業は、全く頭にはいらなかった。授業自体は至って普通で、教え方も多分丁寧だったと思う。いかんせん私には理解をするための頭が働かなかったから。クラスのみんなもいつも通り。むしろ、若槻先生の頃とは違って、相当に不真面目になっている感じだ。スマホとかもしょっちゅう鳴ってたし。

 ことが起こったのは、授業が終わった直後だ。

「ええと休憩に入る前に一つ……ノートを集めさせてもらおうか」

 大神先生がそう言うと、教室中が一気にざわついた。

「別に評価を下そうって訳じゃない。ただ、分ろうと努力しなければ分かるはずもない。その努力をしているかどうかを確かめさせてもらうだけだ。ならいいだろう?」 

 先生の説明は、全くみんなに届いていなかった。

「ノートなんて取ってねえよ!」

「そんな小学生にするみたいなこと止めてくれない?」

 特に下中君とこのみちゃんからは非難ごうごうだった。まぁ、みんなノートを取っているようには見えなかったしね。私も……板書はしていたけど、それだけだしなぁ。

「そんな真面目ちゃんみたいなことするやつぁ、ここにはいねえよ!」

「アンタ、どの学校に来たのか分かってんの!?」

 非難の声がどんどん上がって行く。特に下中君とこのみちゃんの声が良く響く。二人以外にも非難の声はあって、先生は攻撃されているような感じだった。ちょっと、気の毒に思う。

 一斉に非難を受ける身になった先生は、はぁ、と一つため息をついてから、頭に手をやった。オールバックにした髪を撫でつけるようにそのまま手を動かして、教台に軽く両手をついた。

 そして、

「いいから、もってこい」

 酷く低い、いわゆるどすを利かせた声でそう言った。ギロリと教室中を一睨みする。

 しーん、と教室中が静まり返った。凄みを利かせた先生に、全員が蛇ににらまれたカエルになっていた。もちろん、私も。どうしてこうも、この学校の先生は恐怖で黙らせようとする人が多いのだろう。そうしなくちゃ誰も黙らないからか。

「成果を求める訳じゃない。君たちの姿勢を見せてもらうだけさ。気軽にもってこいよ」

 落ち着きを取り戻したように、先生が元の温厚そうな声で言う。それが余計に怖くって、誰もがみんな先生の言うことに従った。

 なんだかんだで、取ってはいないけれどノート自体は持っているらしく、そこそこの数のノートが重ねられていた。中には分厚いノートもあった。取るつもりもないのになんで分厚いのを買ったんだろう、持ってきた人。

「なんだ。ノートだけはちゃんと持って来ているじゃないか……しかし、量が多いな」

 大神先生がノートを見て呟き、一応ある学級日誌を開いた。

「ええと、クラス委員は……咲宮、さんかな?」

 片眉を上げて教室を見渡す。

「はい。私です」

 手を挙げて答えると、先生はちょっと意外そうな顔をした。

「じゃあ、教務室まで持っていくの手伝ってもらうよ」

 そう言った先生の顔は、さっきまでとは打って変わってかなり優しそうだった。

 集まったノートの束の三分の一くらいを抱え、私は残りを持っている先生の隣を歩いて、教務室へと向かう。

 その際中、

「最近の子も昔の子も変らないね。先生も高校生の頃は勉強なんてさっぱりしなかったもんだよ。勉強をしたくない気持ちも良く分かる」

 ずっと先生はしゃべっていた。

「でも、勉強を全くしないのはいただけないね。こういうことを言うと決まって勉強よりも大切亜ことがあるなんて言う大人がいるせいで、勉強とそれ以外の二項対立で考える子供が増えてしまったんだ。勉強が一番、だから遊びは疎かにする。遊びが一番、だから勉強はしない。なんて言い分が出来てしまうんだ。本当のベストはどちらもそこそこやることなんだけどなぁ」

 そう言った直後に、先生は私の顔を伺った。

 そして、あははと何がおかしいのか、急に笑い出した。

「いやあ、悪いね。先生、若い子と離すのなんて十年ぶり奈揉んで、つい勝手にしゃべりすぎちゃったよ」

 私が気を使って黙って話を聞いている、そう思ったのだろうか。もしくは先生と一緒にいることで緊張していると思われているとか。

「君はどう? 勉強は?」

 少し考えてから、先生が尋ねた。きっと、先生の方が気を使っていると思う。

「あんまり、得意じゃないです」

 私は正直に言ってから、

「でも、先生の言う通りだと思います。分かろうとしなくちゃ分からないって。私は授業に集中できないときも、先生が何を言っているのか、分らなくなる時もありますけど、まずは今分かることをとりあえず一つ、分かるように勤めて、ちょっとでも賢くなれればいいかなって、思うんです」

 ちょっとだけ、自分が勉強について思っていることを語った。

「そうか」

 先生は微笑んで、

「でも、君は真面目そうだから、もっとちゃんと遊ぶことも忘れないようにするんだよ」

 先生らしく言った。

「それは大丈夫です。友達もいますから」

 この一年は、勉強をした記憶が無いから、むしろ遊び過ぎで、勉強を頑張った方がいいかも。

 そう思っている間に、教務室までたどり着いた。

 見覚えのある先生の顔を少し見やってから、大神先生の後に続いて、彼の机まで歩く。

 ここに置いといてよ、と先生は椅子に座ってから言った。私は先生が置いたノートの束の隣に、私の持っていたノートを置いた。

「じゃあ、私はこれで」

 次の授業もあるから、早く教室に戻らないと。

 そう思って振り向いた時に、

「ああ、そうそう。咲宮さん」

 先生に声をかけられた。再び、先生を見る。

「はい?」

「君はお父さんとお母さんに良く似てるよ。話して見て良く分かった」

 一瞬、先生が何を言ったのか分からなかった。

 お父さん?

 お母さん?

 似てる? それって……。

「え、ええと……」

 なんと返事をしていいのか分からず、ついしどろもどろになる。傍目に見ても明らかに困惑しきっていたことだろう。

「もっと君が小さいときにもあったことがあったんだけど、覚えてないかな?」

 余計に頭の中が混乱してくる。

 もう、どういうことよ。何から何まで説明をしてほしかった。でも、一つだけ分かりそうなことがあった。

「もしかして、大神君の……お父さん?」

 昔、本当に小さな頃に何度か会ったことがある、ワンちゃんのお父さん。顔も名前も覚えていなかったせいか、目の前にいる先生は初めて会ったような気しかしない。

 でも、先生は酷りと頷いて肯定した。

「どうだよ。一和とは今も仲良くしてくれてるかな?」

 そう尋ねる先生の顔は、父親の顔だった。

「はい、それなりに……」

 それなりって。自分で答えておいて、苦笑してしまいそうだ。

「そうか。それは良かった。ところで、一和が君の家にお邪魔してないかな?」

「いいえ、来てないですけど」

「そうか」

 あまりにも自然なやり取りで、気付くのが少し遅れた。

 この質問は一体どういう意味なのだろう。

「ああ、気にしないでくれよ。ちょっとした家庭の問題だから」

「え? え?」

 私は、再度問いただそうかとも思った。けれど先生はノートを手に取って、そっちに視線を落としてしまったから、邪魔をするのも遠慮させられた。

 それに、これ以上訊いても、何も教えてはくれなさそう。家庭の問題って便利な言葉だ。

 一旦私は教務室を出てから、スマホを取り出して時間を気にする。

 まだ数分、休憩時間はある。

 私はいそいでスマホを打って、千和さんにメールを送った。

 ワンちゃんに何かあったか。そんな内容のメールを。

 すぐに返信が来た。

『お父さんに会ったの? 先生しているけど遠慮せずに教えるのがへたくそだったら、へたくそって言ってやってね。一和のことは大丈夫、叶恵ちゃんが気にすることじゃないから!』

 文面はこうだった。

 明らかに確信をはぐらかしている。というか、こんな内容じゃ明らかに何かあったことを肯定しているだけだ。

 ……ワンちゃんが家に来ているかどうかを尋ねられた。何かがあったのは間違いない。

 となると……私の乏しい想像力では、結論はたった一つしか思いつかなかった。

 ワンちゃんは学校にも来ていない。もしかして、いなくなった、家出しちゃった……とか?


ども、作者です。2017年最後の更新です。5月以降に定期更新が続けられていたようで、一安心です。また来年も、十一月の予定では持ちこさないつもりだったのですが、無理みたいなので、来年もよろしくお願いします。

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