たまには……私から?
人間の足は心臓のポンプになっている、なんてことを昔テレビで見たことがある。今、私はあるけば歩くほどに心臓がどくん、と跳ねあがるような感覚に囚われている。
向かうは体育館裏。昼休みに入っているから、ワンちゃんはそこにいるはずだ。もう、教室にはいなかったもん。
校舎を出て、体育館にまで続く通路を渡る。もう少し、もう少しだ。
長袖に風が当たる。防がれているはずが、寒さは布を通り越して、肌に骨に伝わってくる。もう少し。秋の訪れは冬の足音を引き連れていて、一年の終わりを予感させてくれる。
もう一年が終わって、次の一年が始まる。昨晩にお母さんと話したときに聞いた、学校生活の終わりも近づいている証拠。
同じように思ったこと。今のうちにできることをやりたいってこと。
それをするために、陽射しにも温められない風を浴びながら、体育館の横を歩く。ここの景色も、初めてきたときと比べると緑が減って、赤と黄に色を変えた葉がはらはらと宙に舞っていたりと変りつつある。私も、変っているらしい。
でもそれは私一人の力では叶わなかった。ワンちゃんがいて、懸さんがいて、このみちゃんがいて、真虎君がいて、泥沼たちもいて、多くの人達が力を貸してくれたおかげで、その人達の働きのおかげで変わることができているんだと思う。それこそ、空気の変化や水の違いのおかげで姿を変える木々のように。別の何かの働きのおかげで今の私がいるんだ。
今の私なら、勇気を持てるはず。私だけが変っていたって、それだけじゃ物足りないの。
私も変えたいことがある。私が働きかけて、今とは違う、これまでとは違う変化をもたらしたい。木々が葉を落として来年にまた青い葉を実らせるように、次に繋げるために。
だから、私は体育館裏にまでやってきた。ワンちゃんは今日も、パックのコーヒーを飲みながら、澄ました顔で座っている。私は彼の隣に座った。
ワンちゃんは私が来ても気に留めていない風にクールに風邪を浴びている。長くて量のある髪をたなびかせている。今日こそは変えてやるんだ、このクールに澄ました、かっこよくてもちょっといけ好かない顔を。
「ねぇ、ワンちゃん。今日は甘えないの?」
「……甘えてない」
そんなことを言って。私だって鈍感じゃないんだから、昨日ワンちゃんがここに私を引っ張り出してきた理由も、そこで手を置いた理由もなんとなぁくは分かっているんだから。
まぁ、それはさておき。ワンちゃんが来てくれないって言うのなら。
私は彼の傍によって、横に倒れるように体重をかけて、ぽん、とワンちゃんの肩に頭を乗せた。
「今日は私から、ね?」
なんて上目使いでいいながらも、内心心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていた。ワンちゃんは断る様子も無く、相変わらずすまし顔でそっぽ向いた。
きっと、照れているんだ。うん、そうに違いない。違わないよね、そうだよね、きっと。ええと、なんか心配になってきた。
その心配をあざ笑うかのように、強い風がびゅーっと吹いた。寒い。なんか、寒いダジャレを言った後にスベったときの演出みたいでヤダなぁ。
そう思っていたら、ワンちゃんの手が肩に当たった。その腕は私の頭を乗せている肩の方の腕で、私の反対側の肩に腕が回されているみたいだった。少し、抱き寄せるみたいにワンちゃんの腕に力が籠められる。またも上目使いでワンちゃんの表情を見てみようとしたけれど、相変わらずそっぽを向いてる。
そっか、やっぱり照れているんだ。
えへへ。これはこれで結構いいかも。なんだったらこの前みたいなことをしてくれてもよかったんだけど、もうしばらくはこのまま肩を抱かれたままでいていいかな。
本当はもうちょっと進んでも欲しい。だってもう一歩分は先のことを勝手にされちゃったんだよ? だったら今更って感じ。だから妙なもどかしさがあるんだけど……まぁ、これ以上欲張ったって仕方ないか。ワンちゃんにも私が何か影響を与えられたのかもしれない。きっともうちょっとで、もっと大きく変ってくれるんじゃないかな。
それまでは、肩を抱かれて、頭をよせている今のまんまでも満足、かな?
ども、作者です。
相変わらずこう言うお話を書くときは恥ずかしくなります。




