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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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私の……将来?

 マンションのドアの前に立って、ドアノブに手をかける。毎日この瞬間になると、今日もいろいろあったなぁ、とつい思い返してしまう。

 特に今日は濃かった。濃いのはたった一日だけじゃなくって、この町に帰って来てから毎日が濃いのだけど。

 ここ最近は、この瞬間が訪れるのが早くなってきた気がする。初めてあの学校に行った帰りなんか、やっと帰ってきたって、山から下山したときみたいなことを思ったのに、今ではもう、となんだか物足りない気分になる。

 私、学校生活を楽しんでいるみたい。だって、物足りないって感じるのはその証拠でしょう? 

「ただいま」

 ドアを開けて部屋に入る。ちょっと退屈だけど、落ち着ける私の家。今日は家から良い匂いがしている。

「お帰りなっさ~い」

 居間からお母さんがちらりと姿を覗かせる。滅多に付けることのないエプロンをしていた。

「どうしたの、お母さん。まさか料理なんかしてるんじゃないでしょうね?」

「そんなお母さんが悪い事をしてるみたいに言わないでちょうだいよ」

 居間に来て、キッチンを見ると案の定料理の準備ができていた。鍋が火に掛かっていて、野菜が切られていて。

「お母さんどうしたの? 料理なんて何年もしてないくせに。今日は私の誕生日でもなんでもないでしょ?」

「何も特別な事情なんてありゃしないわよ。今日は料理をしたいってそんな気分なだけ。大丈夫、味見はちゃんとしてるから」

 ……ほんとかなぁ。お母さんと私の味覚って全然違うから、あまり信用できないんだよねぇ。

 まぁ、それはいいとして。

「何か手伝おうか?」

「いいわよ~。あんたはゆっくり休んで……」

「私のために手伝うの。お母さんに全部まかせっきりって訳にはいかないよ」

 はいはい、としぶしぶながらもお母さんは私が手伝うことを承諾してくれた。

 私も荷物を部屋に置いてすぐに料理の手伝いを始めた。

「お母さん、みりんは最後でいいんだって」

 お母さんってば、たいして料理もしたことないくせに。

「そうなの? へぇ~、勉強になったわ~」

「……お母さん、これからも料理する気なの?」

 お皿を取り出しながら、お母さんに尋ねる。

「お母さんが料理するのはヘン?」

「ヘンっていうか、何か裏がありそう」

 私が言うと、お母さんは少し間を置いて、

「お母さんね、結婚しようかなって思ってるの」

 と言った。

「へぇ、あの会社の社長の人? よかったじゃん」

「良かったって……あなた反応薄くないかしら?」

「そうかなぁ。まだお母さんが結婚してないから、実感がわかないのかも」

「そうじゃなくって、お父さんの気持ちはどうなるの、とかそんなこと言わないの?」

 お母さんは何を不安に思っていたのやら。

「別に思わないよ。お母さんにとって嬉しい事でしょ? だったら私にだって嬉しい事だよ。お父さんはお父さん」

 もう死んじゃってるし、小さい頃の思い出もほとんどないしで、他の事情のある子と違って、私は別に何とも思わない。離婚したならしたで、もう別の生き方を選んだわけだから、再婚したってヘンなことじゃないもん。

「お父さんのことは良く覚えてないし、お母さんが幸せになれれば、私はそれでいいなって思うな」

「わが娘ながら、親のしがいがないことを言うわねぇ。いったいいつの間にそんな大人じみたことを言うようになったんでしょ」

「私だって大人に近づいている証拠。成長してるって喜んでよ。それに綿Sには仕事をした経験だってあるんだもん」

「バイトでしょ?」

「バイトでも、仕事は仕事だもん」

 お母さんが鍋にかけていた火を切って、小皿にちょっと注いで味見をした。

「うん。悪くないわ」

「私にも味見させてよ。将来のお義父さんになるかもしれない人に、ヘンな料理は食べさせられないよ」

「もう、アンタはほんと、子供らしくないんだから……」

 お母さんはちょっと寂しげに、けれど嬉しそうに呟いた。

 お母さんの料理はとりあえずは食べられる味をしていた。もちろん、私が鉄だったから、なんて言うとお母さんはまた文句を言いそうだから、とりあえず褒めておいた。褒めれば伸びる人だろうからね、私に似て。

 そして、食後にお母さんがこう尋ねた。

「アンタ、高校出たらどうするの?」

「その質問早くない? あと一年と半分くらいは残ってるのに」

「一年と半分しか残ってないのよ。これから先は酷く早く毎日が過ぎて行っちゃうわよ」

 もうすでに時間が早くなっていると感じているよ。

 この調子で時間が過ぎていけば本当にあっという間に過ぎて去ってしまうだろう。私なんかが思うのよりもずっとずっと早くに。

 そうなったら私は気が付いた時には卒業しているかもしれない。

 卒業はもう来年なんだな、と妙に実感を覚えてくる。そして、それは同時にもう一年が経つことも私に教えてくれている。それだけの時間があったんだから、私も変わったと言われるわけだ。

 そして、必然的に変らなくちゃいけない時期にもなる。高校生からその次のステップにに。

「将来かぁ」

 思わず声に出していた。お母さんには分かっているんだ。早くなんかない、もう将来を考えなくちゃならない時期なんだって。

 でも、私は何をしたい? 何になりたい?

 具体的なものはちっとも、思い浮かばない。だって、あまり考えたことがないんだもん。思いついたとしても、それはただの一時的な思い過ごしになってしまうかもしれないし、自分の将来だからもっともっと、考えておきたい。

 でも、だからこそ今の私は、今の私ができることをやっておきたいなってそれだけははっきりと思う。

「どう? 具体的なことはなにかある?」

「ぜーんぜん」

「大学にくらいは生きなさいよ。高卒よりは仕事があるから」

 お母さんが言うとちょっと説得力がある。お母さんは高卒で、お父さんを失って苦労したから。普通の苦労だけじゃなくって、病気での苦労まで。

「でも、私に行ける大学ってどれくらいあるのかなぁ」

 正直、あんまり勉強はできない。それに今通ってる高校は進学校でもないし、今の時点で勉強もあんまりしていないわけで……。

「それなりにあるわよ」

 お母さんは他人事のように言う。勉強をしたり大学を探したりは私の仕事だけど、それだけじゃ大学には行けないよね。

 私の学力で行ける大学に、国公立なんてないから、必然的に私立になる。私立になると嫌が応にもお金がかかってしまう。

「大丈夫、お金のことは心配しなくっていいから」

 心配するなって言われても、うちの経済状況なら……あ、もしかして……。

「あなたが卒業するまでには、再婚するから」

 お母さんはちゃめっけたっぷりにウィンクをした。

 確かに、お金には困らなくなると思うけど、それはそれで酷くないかな?

ども、作者です。今年中の完結は難しい模様です。

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