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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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このみちゃんの……呼び出し?

 放課後になった途端、

「ねえちょっと顔貸してくれるかしら?」

 とこのみちゃんに言われた。

 うん、言葉が酷く物々しい。でも、昔みたいにこれから何か悪い事ずるぞって感じのとげとげしさはなくって、ただ単にちょっと話があるけどいいかな、って感じの日常的な柔らかさがある。もうちょっと言い方あるんじゃないかな。

 そうは思っても、とりあえず私はこのみちゃんについていった。このみちゃんに連れられて来たのは廊下。簡単に言えば、廊下に連れ出されただけだね。

「ねぇ、最近さぁ、懸に何があったか知らない?」

 不愉快そうに睨みながらこのみちゃんが言った。

 何があったか、と言われても……いつも何かがある気がする。

「最近ね、あいつなぁんか行動がヘンなのよ」

「……いつもヘンな気がするけど……」

「いつも以上にヘンなのよ」

「どんなところがヘンなの?」

「頻繁に話しかけてくるんだけど、自分から話しかけておいてすぐにはぐらかすのよ。ちょっと用がある。何よ。その、えっと、なんていうか……みたいな感じ」

 途中、懸さんっぽく演技をしながら、具体的に教えてもらえた。

 ヘンと言えばヘンだけど……。何か、懸さんからこのみちゃんに話したいけれど、なかなか本題に入れないような、遠慮しちゃうようなことってあったかなぁ……。

 ……あ、アレか! このみちゃんが自殺しちゃうかもって大慌てしてた。

 懸さんにこのみちゃんに直接訊いてみればって言ったはず。もう二、三日前のことだったし、未だにこのみちゃんも自殺はしていないから、やっぱり懸さんの勘違いだったんだな、と私は思っていたんだけど、それで決着してると思っていたんだけど、懸さんはまだ気にしているみたいだ。

「アイツが何したいのか、さっぱりわかんないのよ。あれ、どういうことなの?」

「ど、どうして私に訊くのかなぁ?」

 懸さんの謎行動に悩み、相談されるのはともかく、このみちゃんは懸さんの行動の裏に私の影があると見抜いているみたいに、確信を持って訊いている。うん、その通りなんだけどね。

 もちろん知っているよ、どうして懸さんがこのみちゃんに話しかけてその先を言えないのかはね……って本当は言うべきなんだろうけど、言えないよなぁ。

 このみちゃんが自殺をするかどうか、とかメールの真相くらいは訊いてみてもいいと思うんだけど、どちらにせよ、懸さんがこのみちゃんのことをどう言っていたの、どう思っていたの、なんて尋ねられそうだ。そこばかりは絶対に言えない。言う訳にはいかない。

「なんか知ってると思ったのよ。何も知らないの?」

 ……どうしよ。

「知ってると言えば知ってるし、知らないと言えば知らないかなぁ」

「アンタまで懸みたいにはぐらかさないでよ。怪しいわねぇ……」

 ヤバい、怪しまれた……。

 暫くこのみちゃんに睨みつけられる。背中に嫌な汗が流れる。どうしよう、問い詰められたら全部言っちゃうかも。全部言ったら……懸さんの勘違いが現実の物に……。

「まぁ、いいわ。なんかあったって言っても、別にアンタと懸の関係が変ったってわけじゃなさそうだもの」

 ほっと胸を撫でおろす。良かった。このみちゃんはそっちを気にしていたんだね。私と懸さんがどうのこうのって。それは絶対にあり得ないから大丈夫。ごめん、懸さん。絶対にあり得ないんだ。

「でも、本当にどうしちゃったのかしらねぇ」

「どうしたんだろうねぇ」

「知ってるくせに」

「あ、あはは……」

 笑ってごまかす位しかできないや。

「このみちゃんには何か心当たりとかない?」

 そうだ、このみちゃんに訊けば、自分から思い当たるかもしれない。ヘンなメール送っちゃったとか。

「そうねぇ……まさか」

 このみちゃんがハッとした。もしや、メールのことを思い出して……。

「もしかして、アイツの気が変ったってこと?」

 なかったぁ~~~~~。

「それどういう意味?」

 尋ねると、このいみちゃんがちょっともじもじと照れくさそうにして、

「そりゃあ、その……アンタからアタシに、ね?」

 ああ、そういう。

「私はそうあって欲しいんだけど、多分ナイと思うなぁ」

「無いってどういう意味よ。アタシに見込みがないって言いたいわけ?」

 あ、しまった。

「いやいや、別にそういう意味じゃなくって……」

 実際問題、このみちゃんにとってはそれが一番の悩みで一番大きな壁かも。懸さんも大事な親友だ! って断定しちゃってるからなぁ。

「じゃあ、どういう意味?」

 ヤバい、興味向けられちゃった。

「ええと、そのう……ちょ、ちょっと待って、返答に困って……」

「困るってことは間違いないわよね。はぁ、もう最悪」

 あー、このみちゃんが悪い方向に考え始めちゃった。むすっとして壁に寄りかかってるぅ……。

「い、いや、別にこのみちゃんと懸さんが、その、というか、懸さんとこのみちゃんがそういう関係になれるかどうかとか、そういうことじゃなくって、ええと、えっと……」

 何をどう言えばいいか分かんないよお。

「やっぱアンタに訊いておくわ。ねぇ、懸に何があったの? 知ってるんでしょ?」

「あ、いやね、ええとね、うんと……」

 ヤバい、どうしよう。このままじゃ、普通にこのみちゃんに、何があったかを言ってしまいそうだ。と、特に問題はないと思うんだけど! なんか不味い!!

 そう思ったときだった。

 どたどたどた! と音を立てて何かが走ってきた。

 何か、いや、誰か。

 その人は他でもない渦中の人物、懸さんだった。

「か、懸さん!」

「えっ、懸!?」

「うおおおおおおお!!」

 廊下を走りながら、懸さんが叫ぶ。凄くうるさい。他の人にとっては大迷惑だろう。

 懸さんはなぜ走っているんだろう。

 一直線に、私たちの方へと進んでいる。もしや、これは……。

「こ、このみぃ~~~!!」

 懸さんがこのみちゃんの名を叫ぶ。やっぱり、このみちゃんに用があるんだ。その用はきっと、このみちゃんの自殺云々を問いただすためだ。自殺するかどうかは勘違いと考えて間違いないだろうけど、ここで懸さんが来たのは好都合だ。

 懸さんの口から自殺するんじゃないか、とか言ってくれればこのみちゃんが私にかけている容疑は取り払われるはずだ。

 懸さんが全力で走って来て、このみちゃんの前で立ち止まった。

「こ、この……」

 ばちーん!!

 何の音?

 私の目の前で繰り広げられたのは、あまりにも予想外のことだった。

 このみちゃんが、懸さんに思いっきりビンタをしたのだった。

「なんでッ!!?」

 ビンタをした後、このみちゃんは私たちに顔を見せずに走り去っていく。

「……な、なんでだ?」

 懸さんが鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。正しくは唐突に意味が分からずビンタされたような顔。

 もちろん、なんでかは私にもさっぱりわからない。

「さ、さぁ……そ、それよりもこのみちゃんを追いかけようよ」

 いったいぜんたい何があってこのみちゃんは懸さんにビンタをしたのだろう。

 もういろいろと訳が分からないよ。とにかく追いかけて、真実を明らかにしないと。

 懸さんも同意してくれて、私たちはこのみちゃんを追いかけた。

 とにかく追いかけた。幸い、このみちゃんの後姿はぎりぎり視界の端に捕えることができた。

 廊下から階段に入り、スカートを翻しながら、上段の踊り場からさらに上の階へ。このみちゃんはひたすらに上へ上へと向かっている。私たちも追いかけて上へ上へ。

 唐突に姿を見失ったのは階段の集着地点を、そこへ続く最後の階段の下から見上げたときだった。

「屋上のドアが開かれてる……」

 私が言った。

「屋上に続くドアは、ちゃんと鍵が掛けられていたはずだ。ま、まさか……このみの奴、蹴破ったんじゃないか!」

 え? 蹴破る!?

 いやいやそれはさておき、このみちゃんが屋上に出たのは間違いないと思う。

「このみちゃん、どうして屋上に……」

「まさか、このみのやつ! 屋上から飛び降り自殺をするんじゃないかッ!!! な、なんてことだあッ!!!」

 いやいや、ないから。それは無いから。

「うおおおおおおおおおお!! このみぃいいいいいい!! 死ぬななあああああ! それは青春じゃねえええええ!!」

 あ、懸さんが全力で階段を駆けあがり始めた!

「ま、待ってええええ」

 私も全力で追いかける。

 そして、二人揃って屋上に飛び出した。

 学校の屋上に来るのは初めてだ。良くテレビドラマに出てくるようなフェンスのある屋上じゃなくって、フェンスが無く、冬場に使うストーブの煙を出すための煙突がある、見栄えのしない普通の屋上だった。

 その屋上のど真ん中にこのみちゃんがいた。

 ど真ん中じゃん。これなら自殺しないよきっと。

「このみいいい! 早まるなあああああ!!」

 なんでぇええええ!! 

「え?」 

 振り返ったこのみちゃんも、この人一体何言ってるんだろうって顔をしている。

 そんなこのみちゃんの表情をこれっぽっちも意に介さず、彼女に走り寄った。

「何? 何よ? え?」

 このみちゃんはあたふたと困惑している。

 そして懸さんはこのみちゃんの肩を掴んだ。

「え!? えっ!? どういうこと、なんなのこれ、ねえ!!」

 お腹の空いた猫みたいな助けを乞うような目で私を見る。見られてもなぁ。懸さんの行動は予想がつかないし、私にも今は分からないんだもん。

「このみッ!! 聞いてくれッ!!」

 懸さんが叫んだ。びくっ、とこのみちゃんが背筋を伸ばす。

「な。何よ。そんな改まって……」

 このみちゃんの頬が紅潮していた。このみちゃんの考えていることは分かる。告白されるとかそう言ったことを思っているんだ、多分。そうだったら、いいんだけど……。

「頼む、頼むから……」

 懸さんが途中で切って、溜めて、溜めて、そして、

「自殺はしないでくれッ!!!」

 言い放った。思いっきり力強い、溜めに溜めたストレートみたいにこのみちゃんの心を揺さぶるような力強さで。

「……」

 うん。このみちゃんの心には全く響いていないみたいで、このみちゃんは無表情になっていた。きっとね、状況が全くよく分からないんだと思うの。私は懸さんが勘違いの果てに行動してるって分かっているけど、それでもこのみちゃんと似たような顔してるもん。

 懸さんは顔を俯かせていて、このみちゃんの表情には全く気付いていない。

「頼む、頼むよ……、俺にとって、このみは大事な存在なんだ、死なないでくれぇ……」

 叫びから絞り出すような声になる。

 懸さん……いいと思う。その気持ちはいいと思う。頼むから、その先は言わないで。

「死ぬってなによ」

 懸さんが続きを言う前に、このみちゃんが心底呆れた声で言った。

「へ?」

 顔追上げた懸さん。

「このみ、お前……どうしてそんな、かわいそうな人を見る目をしているんだ?」

「そりゃアンタが今かわいそうな人の代表になってるからよ」

 このみちゃん、手厳しい。

「アタシが自殺するなんてありえないでしょ。なにヘンなこと言ってんのよ」

「いや、だってこの前のメールで……」

「メール? どんな?」

 懸さんがスマホを取り出して、このみちゃんに見せる。

「……すぐに消しなさい、それ」

「え?」

「いいから消して。ただの間違いだから。なにかの間違いだから」

 このみちゃんが怒ったような声で言う。なにかの間違いって、送信したり書いたのはこのみちゃんなんじゃ……。

「で、でも、このメールは……」

「消しなさいッ!!!」

 このみちゃんが叫ぶと、懸さんは大慌てでスマホの操作をした。きっとメールを削除したのだろう。

「まったくぅ……ヘンな勘違いしないでよもう」

「か、勘違い?」

 懸さんが私の方を見た。私もその通りだと思うよ、と言うように頷いて見せる。

「そ、そうだったのか、俺の勘違いか……」

 懸さんが脱力したようで、ほっと息を吐き出した。

「そうよ。大げさなことしちゃってさ」

「ああ。でも、お前が自殺したら悲しむからな、なんてったって俺はお前の……」

 あ、ヤバい。その先は言っちゃ……。

「友達だから、でしょ?」

 先にこのみちゃんが言った。

「ああ、もちろんだとも!」

 懸さんが力強く肯定する。肯定したら不味いんじゃ……。

「まぁ、いいわ。どうせそんなことだろうと思ったし。でも、勘違いでも止めてくれて嬉しかったわよ。それだけは理解してあげる」

 このみちゃんはきっと十分に理解しているのだろう。懸さんがずっと友達としか見てくれていないって。それはそれで悲しいような気もするけど、彼女の今話している気持ちは紛れもない事実だ。

「そうだ。お前は俺にとって大切な、大切な友達だ!」

 肯定しちゃダメだって懸さんってばぁ。

 そんな懸さんのお腹をこのみちゃんが軽く小突く。

「でも、いつまでも友達友達って言われたら、さすがのアタシも傷つくわ。もうちょっと、先に進ませてくれてもいいんじゃないの?」

 へ? と何を言っているのか理解していないらしい懸さん。

 彼に。

 このみちゃんは最後に軽く抱きついた。

 こ、ここ、これは……このみちゃんから懸さんの、あ、アプローチ!?

 だ、抱き着くなんてだ、大胆かも……。

 そして、このみちゃんは離れてさっさと屋上から去って行ってしまった。

 残された懸さんは、しばらくぼーっとしてから私に、

「あれって、どういう意味?」

 と問いかけてきた。

「自分で考えて、気付いた方がいいと思うよ」

 私はそれだけ言って、何かに気付きかけている懸さんを置いて私も屋上から去って行った。

 ……でも、気になることが一つ残った。このみちゃんの送ったあのメールはいったいどういう意味なんだろう。

 あのメールっていったいなんだったの? と後日にこのみちゃんに聞いてみたら、

「忘れなさい、今すぐに」

 と、切れ長の目をさらに鋭くナイフみたいにして睨まれてしまった。

 結局、あのメールの真相は分からずじまい。

 でも、一つ気付いたことがあって、私がいつも読んでいたネットの小説に女の子が自殺をしようとして、それを意中の人が止めてっていう、このみちゃんの経験と全く同じものが掲載されていた。偶然、なのかな?


ども、作者です。


もうこの章も半分過ぎていたことに驚いています。

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