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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
PR
70/105

お嬢の……告白?

「まぁ、ここが叶恵さんのお屋敷ですの」

 お嬢に振り回されて、これでもかという程のお友達紹介も終わり、やっとのことで私の家の前に着いた。長かったなぁ。

「いやいや、お屋敷とは言わないよこれは。賃貸マンションの一室だもん」

「ふむふむ、なるほど。これは」

「どしたの、お嬢」

 お嬢がどこぞの探偵ドラマの主役のように、ドアや窓を観察している。彼女にとっては、こういったものも物珍しいもので……。

「漫画の主人公がよく住んでいるお屋敷に似ていますわ。何かが起こりそうな予感がします!」

 彼女の思考の方がよっぽど珍しいんじゃないかな。こうもなんでも漫画に例えるなんて。

「何も起こらないよ……ただいま」

 わくわくしているお嬢には悪いけど、期待に応えられるようなことは起きないよ。

 ドアを開けると、ちょうどお母さんが玄関から見える位置、奥のリビングに続く開けっ放しのドアの先、ソファの横に立っていた。多分、そろそろかな、と思って待っていたんだと思う。

 外に出る準備も終えているみたいだ。ふだん着ないような服を着て、メイクも濃いめ。これはアレだね。例の会社の同級生とデートに行くんだね、今日は。あはは、一目見て丸わかりだよ。

「おかえり~。そっちがお友達?」

 気付いたお母さんが、ぱたぱたと走ってくる。急いで親戚の子に近寄るおばちゃんみたい。折角若作りしているんだから、仕草ももっと若々しくしていればいいのに。

「はい、はじめまして」

 ぺこり、とお嬢がお辞儀をする。仕草はお嬢らしいのに、もっとしゃべることをお嬢様っぽくすればいいのに。

「どうも、はじめまして。うちの子をよろしくお願いね」

「いえいえ、いつもこちらがお世話になっていますよ。叶恵さんは仲良くしてくれて、今日もこんな急なことに対応して頂いて。お母様にもご迷惑をおかけします」

 お、お嬢がまともな事をしゃべっている。大丈夫? 何か嫌な事しちゃった、私?

「いいのいいの。こんくらい迷惑でもなんでもないわよ。叶恵をよろしくね。じゃ、お母さんはそろそろ出かけるから。帰るの夜遅くになると思うから、起こしたらごめんね~」

 靴を履いたお母さんが家を出て、私たちは入れ違いに部屋に入った。

「うん。いってらっしゃい」

 手を振ると、お母さんは鍵を出した。はいはい、お母さんが鍵締めるから内側からは何もしなくていいってことね。

 ドアを閉めるときにも、お母さんはにやっと笑っていた。楽しんでね、と顔が語っている。私だって楽しむよ。お母さんも楽しみなよ、と私も笑顔を帰した。

 かちゃり、と錠が落ちる音がして、

「ふぅ、やっぱ“血”かなぁ」

 とお母さんが呟いた声が聞こえた。

「お母さん、何か言ったー?」

「んーん、何にもー! って、近所迷惑だから大声出さないのよー」

 響く靴音が離れていく。お母さんの足音の方がうるさいよ。

「さて、二人っきりになりましたわね、叶恵さん」

「そだね。さっそく料理しちゃおっか」

「はい! ご教授お願いしますわ」

 まだ何もしていないのに、楽しそうなお嬢を連れて、私は台所へ向かった。


 料理は簡単な物で済ませることにした。お嬢に教えなくちゃいけないし、私が作ったこともないような手間のかかるものだと、晩御飯を食べるのがいつになるのか分からなくなっちゃう。

 短い時間でできるように工夫した煮魚、サラダ、それから味噌汁。今になって作ったものを挙げてみると、なんだか質素なメニューだ。

「ごちそうさまでした。ふふ、自分達で作った料理は逸品ですわね」

 普段食べているものとは雲泥の差があるだろう。それでもお嬢は美味しそうに食べていた。途中で苦そうな顔をしていたけど、それは自分のせい、だなんておどけて笑っていた。

 一緒に料理を作ったのは正解だったね。ちょっと口に合わなくても、自分の失敗、二人の失敗で決着が付くんだもん。おいしいって言ってくれるのは素直に嬉しいけど、その喜びも分かち合えている。

「お嬢も満足そうで、私も嬉しいよ」

 喜びこそは分かち合えたんだけど、実を言うと味わうことはあまりできていなかった。

 だって、料理中は大失敗をしないように味見ばかりをしていたし、食べている最中はお嬢の行儀のいい、お手本みたいなマナーの食事作法を見て、私もそうやって食べなくちゃいけないんじゃないかな、なんて思ったせいで、妙に緊張してしまった。

 そんなこんなで、お腹は大分埋まっていたし、美味しさも良く分かんなかった。

 喜んでもらえたってことが私にとっては何よりもおいしいものだったけどね。

「あ!」

 お嬢が突然、しまった、という顔をした。

「ど、どうしたのお嬢、急に声あげて」

「こういう時は、ごちそうさまではいけませんわね」

 え、何を言い出すの?

 そう思っていると、お嬢は足を投げ出し、ソファの背に寄りかかって、

「ふぅー、くったくったー」

 と自分のお腹をぽんと叩いた。

「おじょーーー!!」

 私は大急ぎで彼女の隣に座る。

「それはダメ。さっきまで滅茶苦茶マナーとか良かったんだから、それをやっちゃ全てが台無しだよ。絶対人前でやっちゃダメなやつだよそれ」

 人差し指を立て、犬をしつけるように言い聞かせる。どう考えたって絶対にやっちゃいけないタイプのことだ。というか、どの漫画でそんな影響受けちゃったのこの子は!

「そうですの?」

「そうですの!」

「分かりましたわ。叶恵さんありがとうございます。あなたに訂正して頂かなくては、わたくし、またどこかで間違ったことをしてしまったかもしれませんわ」

 お嬢がお嬢様らしく凛とした姿勢に座り直す。これで一安心。

「また何かへんなことを言ってしまったり、やってしまったりしたときは、さっきのように遠慮なく止めて下さいまし」

「当たり前だよ。友達だもん」

「まぁ、そういって頂けるとうれしいですわ」

 お嬢は嬉しそうににこっと笑った。

 それから、私とお嬢で片づけを終えて。

 一大イベント終えたような疲れがどっと出てくる。食事会ならこれで終わりだけど、まだまだ続く。楽しみを控えているようでもあり、大変がすぐそこに迫ってきている感じだ。

 何が待っていようとも、とりあえず次に移らないと。時間がもったいないからね。結構、私って楽しんでるみたい。

「さ、これからどうしよっか。お風呂も湧いてるけど、先に入る?」

 お風呂はお母さんが湧かしていてくれたらしい。料理をする前に準備をしないと、と思って覗いてみたら、もうすっかり用意されていた。

「えっ?」

 お嬢が、口を開けた大型犬みたいな驚きとショックと入り混じった顔をする。

 なんで? なんで驚く?

「叶恵さん。一緒にお風呂に入ってはいただけないんですの?」

「ぶっ!! 一緒に入る気だったの!?」

 お嬢、何を考えているんだか。

「はい。だって、お泊りと言えば裸の付き合いが当たり前じゃありませんか」

 ははは、これも漫画の影響? 漫画がダメだっていう親の気持ちが分かってくるかも。お嬢の場合は純粋に影響を受け過ぎているから例外かもしれないけど。

「いやいや、当たり前じゃないと思うけどっ! そういうのは旅館とかに泊まった時の話じゃないかな」

「そうですの……一緒に入ってはくれませんの……」

 これ見よがしにお嬢ががっかりする。

「そんな残念そうな顔しないでよお嬢」

「わたくしは恥ずかしくはありませんわよ」

「わたしは恥ずかしいよ!」

「むぅ……」

 ここは引かないんだ。どんだけ一緒に入るのを楽しみにしていたんだよ。

 ちょっとむくれて、仕方ない、とでも言うみたいに目を閉じて口に貯めた息を吐き出した。

「分かりましたわ。一緒にお風呂に入るのは諦めます。でも、一緒に就寝するのはお許しくださいませ。同じ部屋で寝たいのです」

 一緒に寝るのなら、別に構わないかな。

「あー。それは大丈夫だよ。うん。ベッド一つしかないけど、お布団は呼びもあるし、私の部屋の片付けしなくっちゃいけなくなるけど。お嬢がお風呂に入っている間にできそうだし」

 確か、布団の予備は和室の押し入れにあったはず。線香の臭い、染みついちゃってないかなぁ。

「本当ですの! やった」

「あはは……」

 お嬢は表情をパァと明るくし、両手を胸の前で握って見るからに嬉しがる。

 喜んでくれてうれしい、かな。布団の準備もしなくちゃだけど、まずは部屋の掃除しなくっちゃ。お嬢がお風呂に入っている間に間に合うかなぁ。

 いやいや、DVDのケースは散らかしてないし、服も放り投げてはなかったはず。うん、制服は昨日クローゼットに入れておいたし、パジャマも……って、そうだ!

「お嬢。着替え服って持って着てる?」

 訊くとお嬢は首を振った

「いいえ」

「え?」

「叶恵さん、何かお召し物をお貸しして頂けますか?」

「え!?」


 お嬢の要求は意外だった。というか、お嬢が荷物を全く持っていなかったんだから、私もいつでも気付けたはずなのに。

 貸せる服はジャージしかなかった。ジャージを渡して、部屋の片づけをして、お嬢が上がってから私もすぐにお風呂に入った。

 ここ最近で一番疲れが取れた入浴だったかも。それだけ、疲れがたまっていたってこと。

お風呂に入ったまま寝てしまいたいな、と思うほど心地よかったけど、早めに切り上げた。お嬢を待たせすぎても悪いからね。

っていうか、お嬢を一人にしておいたけど、いったい何をして待っているんだろう?

……なんだか、嫌な予感がした。

急いで上がって部屋へ戻る。

「ふぅ……って、お嬢何してるの?」

 ジャージ姿のお嬢が、私のベッドの下を、床に顔の横を付けて覗きながら、腕を差し込んでいる。

「いえ、自分のお部屋を持っている方はベッドの下にとても大切な本を隠しておいでと漫画で読みましたので」

「ないから! それは男の子だけだから!」

 っていうか、何勝手に人の部屋漁ってるのこの子。

「そうですの?」

 きょとん顔をされる。あー、この子自分がダメなことしてるって自覚ない奴だ。

「お嬢、勝手に部屋漁らないでよ。興味があってもね、それをされたら誰だって嫌なもんだよ。純君だって怒るよ」

「純には怒られましたけど、純も隠していたものを純のお母様に見せたらしかられてましたわよ」

 もう既に実行済み!?

「なんてことしでかしたの! お嬢、それはさすがに純君がかわいそう!」

「そうでしたの。後で謝らないといけませんわね。叶恵さんも申し訳ありません」

 お嬢が体を起こして、私の方へと向き直り、頭を下げた。

 ふぅ、やっとわかってくれた。まぁ、変なことを覚えるのと同じ位の吸収力で正しいことも覚えてくれるから、憎む気にも恨む気にもなれない。お嬢はかなり得をしている。

「私はいいよぉ。別に何も見られたくないものを見つけられたわけじゃないし」

 なんて、ちょっと甘いことを言っちゃっているかな、

 お嬢が立ち上がった。

「では、このお召し物も箪笥に戻しておきますわね」

 と言いながら、彼女がジャージのポケットから取り出したのは……。

 わ、私のし……って、なんでぇ!!?

「ちょ、ちょちょー! 何持ち出してるのー!!!」

「いえ、わたくしも下着をお借りしたいと思って見ていたのですが、このようなデザインの下着は実に素晴らしいと思いまして、どこで購入されたのか訊こうと」

「いやいやいや! 勝手に漁らないでってば! っていうか、どこで買ったかとか訊かないで、恥ずかしいからぁ!!」

 なんか、いろいろとあって買ってしまった、下着だった。しかも、結構、その、キワドイ奴。まったく、こんなのを一体どうやって見つけ出したのか。

 というか、探さないでよこんなの!


 その後も、お嬢はいろいろと漁ったり、疑問をぶつけていたり、私は答えたり、諭したり、たまに怒鳴ったり、となかなかに騒がしかった。騒音で苦情来ないかなぁ、大丈夫かなぁ。

 時間はすぐに去ってしまって、もうすっかり眠気に襲われてしまっていた。

 私はベッドに座りながら、床にぺたりと可愛らしく座るお嬢を見下ろす。

「そろそろ、寝ようか」

「……はい」

 お嬢も心なしか瞼が重たそうだった。でも、それだけじゃなくて、なんだか名残惜しそうな余韻のある返事をした。

「どうしたの? お嬢。何か……やり残したこととかあるの?」

 訊くと、お嬢が口元を上げるだけの、控えめな笑みを零した。

「……ありがとうございます。叶恵さん。あなたには何でもお見通し……いいえ。気付いていただけるのですね。優しい人ですわ」

「そ、そうかなぁ」

 いろいろと許したからそれだけ優しいとは自分でも思うけども。

「叶恵さん。今日はいろいろとご迷惑をかけてしまいました」

「気にしてないよ。そんな改まって言わなくったって」

「それは、わたくしとお友達だからですの?」

「うん。お嬢の友達だもん。ちょっと優し過ぎるかもしれないけど」

「ふふ。そうですわね。純みたいに怒ったりしませんもの」

「怒った方がいい?」

「叶恵さんはそのままがいいですわ。また迷惑をかけるかもしれませんが」

「そのときも、だいたいのことは許すかな」

 お嬢がすることなら、だいたい許せそうな気がする。そう思うのは私が特別優しいから、なんてうぬぼれるつもりはない。お嬢がそうさせるんだ。お嬢だから、許せる。彼女の不思議な魅力で、私がそれにもうからめ捕られてしまってるんだろう。

「ありがとうございます。……あの、叶恵さん」

「何?」

「私と、ずっと友達でいて下さいますか?」

「当たり前だよ」

 どうしてそんなことを尋ねるのだろう、と伺っていると、お嬢がぺたぺたと四つん這いで動いて近寄り、私を見上げた。

「何が、あっても?」

「え? どうしたのお嬢。話が見えてこないんだけど。そりゃあ、腹を立てたりすることもあるかもしんないけどさ」

「いいえ、そうではなくって……」

 続きをお嬢が言いよどむ。

 何かを言おうとしている。それはとても大切なこと。これまでにふざけ合って言っていた言葉の応酬じゃなく、真剣な何かを伝えようとしている。

 しばし黙り、意を決した様子で、お嬢が口を開く。

「あの、とても大事なことを聞いていただきたいんです。わたくしとずっと友達でいてほしい、あなただからこそ、聞いていただきたいことがあるんですの」



ども、作者です。


なんだか紛らわしいサブタイトル。

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