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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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69/105

押しかけお嬢……その4?

 私とお嬢との買い物は、滞りなく終わった。お嬢はお惣菜やら試食やらに興味津々で、初めて子供を連れてスーパーに来た母親の気持ちはこんな感じなんじゃないかな、なんて思ったりした。

 楽しい部分も、大変だった部分も。だって試食とお惣菜の区別がなかなかつかなかったり、切り身じゃない魚を見て「生きた魚が売られていますわ」なんて驚いたり。いや、死んでるってもう。ほんと大変だったんだからね。

 けど、終わってしまうとちょっぴり寂しさを感じるのは、なんだかんだ楽しめた証拠でもあって、今日一日が終わって、明日になってお嬢を見送ったら、今以上の寂しさを感じてしまうんだろうな。

 と、そんなことを思いながら自宅への道を歩いているのだけど……。

「お嬢大丈夫?」

 私は道を振り返った。車が行きかう道路の脇、赤い色の付いた歩道を歩く私とお嬢なんだけど、その距離がちょっと、いや、かなりかな、離れていた。だいたい、四、五メートルくらいかな。

 私は今、右手にビニール袋を持っている。もちろん、買い物の成果だ。ただ、袋は小さめで、そんなに重たいものも入っていない。

 で、お嬢はと言えば、両手で二つのビニール袋を持っている。飲み物とか重たい野菜とかが入っている、めちゃくちゃ重たいのを二つ。

「だ、大丈夫ですわ、こ、これくらい……日頃から重たい衣服を着て修行するのと大差ありませんもの……」

「天と地ほどの差があると思うよそれっ!」

 スーパーを出るとき、お嬢は自分から言ったのだ。「私が荷物を持たなくてはいけません。それが一宿一飯の恩義にあずかる身としての当然の礼儀ですわ」なんて。

 お嬢のことだから、軽いのを持たせた方がいいかな、と思ったんだけど頑として重そうなのを持つ、私が二つを持って叶恵さんが一つにしましょう、と譲らなかった。

 そして、今のこの状況。お嬢は背を丸めて袋は地面すれすれ。どう考えたって無謀なことをさせているようにしか見えなかった。まるでどこぞの古代文明の奴隷が働いているような姿だ。

 少し立ち止まって、お嬢を待った。

「私が一つ持つよ、私ばっかり一つだけじゃやっぱり不公平だし」

「か、構いませんわ。わたくしがおよばれするのですもの。なんでもかんでもしていただいては失礼ですもの。ぬぎぎ……」

 ぬぎぎ、って。お嬢様が言っちゃいけないでしょそんな言葉。

「苦しそうなのに……じゃ、もうちょっとで交代しようよ。あそこの電柱まで……」

と私は歩道の先を指した。もう少しで電柱がある。その電柱は一つの小さなビルの角に掛かるように伸びている。ビルはちょうど歩道に面した通りに突き当たる、一本の脇道との角にある。そこを曲がれば、私の自宅、賃貸マンションへの通り道だ。

そこまでたどり着けば交代。そうすればお嬢の負担も減る。かわりばんこもまた子供の遊びみたいで、お嬢も楽しめるかな、なんて思っての提案だった。

そうだったんだけど、お嬢が顔を上げて電柱を見た時、予想だにしない出来事に遭遇した。

「……あ」

 思わず、声を出してしまった。

 私たちが曲がるつもりの、ビルに隠れて今は見えない脇道から、見慣れた三人組がひょっこりと出てきた。

「げぇ、なんで土曜までテメぇと顔合わせなくちゃなんねーんだよぉ……」

 と言ったのは、眼帯で土曜日にも関わらず学ラン姿の泥沼だ。目を丸くして、意外なことに遭遇したと思っているのは、彼だけでなく、後ろに従う細身の海鞘蕗とドでかい相撲取りみたいな体型の殿面も同じみたいだった。

「文句言われても困るんだけど……ただの偶然じゃん」

 なぜかげんなりとして非難の言葉を浴びせる泥沼に、私がぼやくと、

「やぁ、こんにちわです」

「……うぬ」

 と海鞘蕗と殿面が挨拶をした。殿面のは挨拶なのかどうか分かんないけど。

「おやおや、そちらの方は……」

 海鞘蕗が顎に手を当てて、私からお嬢に視線を移した。

 ぎょろぎょろっと眼鏡の奥の目を動かして、上から下まで舐めるように……って、何やってんのこの人!

 そんな海鞘蕗に、泥沼が肩を置いた。これは、失礼なことをしていることへの注意が・・・・・。

「おいおい、おめぇらよぉ、フツーに会話してんじゃねぇよ!! コイツは俺様たちとっちゃ、にっくき竜美や大神たちのボスなんだぞ!」

 違った。

「ちょ、違うって! なんでそんな話になってんの!?」

 もう、いつから私がそんな立場にされちゃってるの!? しかもいつの間にやらその話も学校中に知れ渡っているしさぁ……特にあのカラーボール戦争のせいで余計に名前が広まっちゃった感じもする。やだなぁ。

「だいたいね、私はそんな束ねてるとかそんなことはなくって……」

「分かってますよ。二人をはべらせているたけですよね」

 海鞘蕗がニタニタと笑いながら言う。

「そっちの方が酷くないっ!? 絶対ないからねそんなことはっ!」

 海鞘蕗酷い。そんなこと言うタイプだったけ、この人。っていうか。まさか、言いふらしちゃいないだろうね。この人達。

「とか言って今日に至っては……」

 と海鞘蕗が言葉を続けようとしたとき、

「まぁ、まぁ!!」

 お嬢が口元に手を当てて、嬉しそうな声を上げた。

 口に手を、当てる?

 直後に、ぼっとーん、とお嬢が持っていたはずのビニール袋が落下する音が聞こえた。

「わああああ!! お嬢何してんのっ!!」

 慌てて荷物を見る。割れるようなものは入れてなかったけど、確実に下に入れておいた野菜がひしゃげている。軽い物は自分で持っておいて良かったぁ……。

 一方、ビニールを盛大に落としたお嬢は、目をぱちくりとさせながら、泥沼のことを見ていた。どうしたのかな。

「……お嬢?」

「あァん? おいテメェ、俺様をじろじろ見てんじゃねぇぞコラ」

 がんを飛ばす泥沼。厳しい目つきでの詰め寄りは、初めてされたら思わず怯えてしまいそうな迫力がある。私は今はどうってことないんだけど。

 でも、お嬢の方も表情を変えずにずっと……ずっと泥沼の目を見ていた。もっと注意深く見ると、目は目でも……。

「が……」

 お嬢が言葉を発した。

「が?」

「眼帯ですわっ! 本物の眼帯ですわよ、叶恵さんっ!!」

「は?」

「こんなところでお目にかかれるだなんて、わたくし思いもよりませんでしたわっ! こちらの方も叶恵さんのお友達ですの?」

「え? あ、うん。一応友達、かな」

 いったい何を言い出すのかと思えば、お嬢は眼帯に興味津々だったらしい。そうだよね、珍しいものだもんね。私だって泥沼以外じゃ見たことないもん。

「はぁ!? 何言ってやがんだテメェ! やいお嬢様っぽいの! 違うぞ、俺様はだな……」

 泥沼が、多分私が友達だと言ったことを訂正しようとしゃべりだす。

「まぁ、やっぱりお友達でしたの! 叶恵さんのお友達にはとてもユニークな方がいらっしゃいますのね」

「おい、話を聞けやコラァ!!」

 完全にお嬢のペースだ。

「ところで、その眼帯はなんのコスプレですの?」

「テメェの耳はなんのためについてんだよ、人の話聞けよ、俺様が言ってる言葉が聞こえねぇのかテメェはよ!」

「海賊です」

「……海賊」

 海鞘蕗と殿面が言った。明らかな悪ノリ、お嬢のペースを利用して、泥沼で遊び始めているようだ。

「テメェらも悪ノリすんじゃねぇよ!!」

「海賊? はて、海賊にこのような眼帯をした方はいらっしゃったかしら。どちらかと言うとそうですわね……ボクシング漫画のセコンド!」

「チョイス渋くねぇかそれっ!! あーもう!! コイツに関わんのは止めだ! さっさと行くぞおめぇら!」

「……うぬ」

「はいはい。では……お気をつけて」

 海鞘蕗が忠告するように言う。なにを? と言う間もなく、三人は走って行ってしまった。

「あーん、お待ちになって~。まだ何のコスプレをしているかを聞いていませんわ~」

「いやいや、アレコスプレじゃないよ、コスプレじゃないのも問題だけど、違うからね」

「まぁ、そうなんですの? もう、紛らわしいですわね」

「お嬢にだけだよ紛らわされてるの」

 なんとも予想外の遭遇だったけど、お嬢も楽しそうだからいっか。

「ま、それより、早く帰ろうよ。もうすぐだよ」

「そうでしたの? では、わたくしも急いで荷物を持って……あ、に、荷物はどちらに? ま、まさかさっきの方々に持ち去られてしまったのですか!?」

 お嬢は自分の手を見て、走り去って行った泥沼たちの後姿を見て、視線をあっちこっちさせて、慌てたように言った。

「だから違うよ! そんなことしないって!」

 とりあえず、私はお嬢に、お嬢が自分で落としたことを説明した。一応は謝られ、その後重たい荷物をお嬢に一つだけ持たせることに決めた。

 もうすぐで家に着くのに、また落とされたらたまらないからね。








ども、作者です。


便利キャラは役に立ちますなぁ。

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