押しかけお嬢……その3?
このみちゃんたちと分かれて、お店を出てもう一度駅前まで戻ってきた。
「さぁ、次はどちらにまいりましょう? 叶恵さんのお友達はみないい方ばかりで、早くお話したいですわ」
「あ、あはは……」
お嬢が喜んでもらえているならば結構ことだ。もっともっといろんな人に会わせたいところなんだけど、もう既にどうにもならない問題に直面していた。
連絡して居場所を知れそうな人は、もう全員会ってしまったことだ。そういうと、私の友達が少ないって言っているようで、なんとも言えない寂しさにさいなまれてしまうんだけど。
でも、それは紛れもない事実で……どうしたものだろうか。
一応、連絡がつきそうな人はいるにはいるのだけれど、真虎君だからなぁ。真虎には……会わせていいものかかなり悩む。
お嬢と会わせても意気投合する感じはなさそうだし、真虎自体が人見知りするかもしれない。容易に想像できる。
ということで、除外。
はーあ、他に知っている人がいればなぁ。連絡できただろうに。お嬢に会わせることができただろうに。
もう、手打ちだった。
「一旦、お買い物しない? 今会える人がいなくって……」
とりあえずの作戦は、誤魔化すこと。
「お、お買いものですの!?」
ぱーん、とお嬢が手を叩く。驚きというよりは、喜びの顔をしている。まるで、鼻の先に餌を持ってこられたときの猫のような表情だった。
「嫌かな?」
一応、尋ねてみる。
「そんなことありませんわっ! お友達とお買いもの……これも鉄板ですわ、女同士の青春ですわねっ」
「女同士の青春って言われてもピンとは来ないけど……」
恍惚に話すお嬢はひとまずは私の友達に会うことを忘れてくれたようだ。
若干、懸さんみたいなことを言い出していて不安なんだけど。
「買い物もスーパーで夕飯に使う材料を買うだけだよ。ショッピング、とかじゃないから、あんまり期待しないでね」
「スーパー! スーパーマーケットですのね!! あの、あの!!」
「スーパーでそんなオーバーなリアクションって……やっぱり行ったことない?」
「もちろんですわ」
さすがはお嬢様だ。
ん? 買い物をしたことないってことは、もしや。
「じゃあ、今晩お嬢と一緒に料理しようかなって思ってるんだけど、料理もやっぱり?」
「初めてですわ! 初めて尽くしですわ! ああ、叶恵さんはわたくしにたくさんの初めてを教えてくださいますわ……いいお友達を持って、嬉しいですことよ!」
「そんなオーバーな……。料理を一緒に作るのは私も楽しみなんだけどね」
「まぁ! 二人で楽しみましょう、叶恵さん」
見るからにお嬢がうきうきと浮かれ気分で声を弾ませる。
私も楽しみだ。お嬢が初めてだから、ちょっとだけ不安もある。一緒に料理をするなら、何がいいかな。どうせなら、ちょっと豪華な物とかもいいかも。
何はともあれ、希望を訊くがいいだろう。
「うん。あ、でも、何作ろうか」
「ふふ、叶恵さんの得意料理でお願いしますわ」
「ええぇ~? 得意料理かぁ……。私の得意料理なんて、すぐに出来て日持ちして、とりあえず食べられるくらいなもんだよ? どうせなら、普段は作らないようなのにしようかなって思ってたんだけど……」
早くも計画が崩れ去る。
「いいえ。叶恵さんの作り易いものがいいですわ。わたくしと一緒に作るのならなおさらですわよ。普段料理はしませんから、叶恵さんの足を引っ張ってはいけませんもの。それに、わたくしは普段から叶恵さんが食べているものに興味がありますもの」
「ほんとに? 多分簡単な和食っぽくなると思うけど、口に合わないかもしんない よ?」
「口に合わないなんてありえませんわ。和食ならなおさらです。うちは普段から和食ですもの」
「そうなの? 洋食、っていうか、毎日ステーキとか食べてない?」
「それこそ、漫画の中のお嬢様だけですわ」
ずっと、お嬢はそんなイメージだと思ってた。お嬢そのものが浮世離れしちゃってるもんだから、食生活とか普段の生活とかもそんな気がしてたんだけどなぁ。
「でも、味付けとかは、お嬢の家のシェフとかには及ばないと思うけど……」
「ふふ。うちにシェフはいませんわよ。料理をしてくれるのは若い衆ですから、むしろ、味付けはそんなに凝っていないはずですわ」
「若い衆?」
若い衆って何? めちゃくちゃ気になる。
尋ねると、お嬢はしまったと言いそうな、はっとした顔をした。
思わず口元に手を当ててしまっている。
「あ……おほほ、その話は、また後でしますわ。それよりも! どんなお料理を作るのか、わたくしに教えて頂けませんか? ああ、一緒にお料理をするのが楽しみですわ。これもまた、女同士の青春……」
明らかにはぐらかされている。話を聞きながら胸の内がもやもやっとしていると……。
遠くから、ボロロロロ、とエンジン音が聞こえてきた。
あれ、これってもしかして……。
「あ、青春……まさか!?」
私は急いで、音の聞こえる方に見た。
公道を一台の原付が走っている。案の定、私の記憶にもよぉく刻み込まれているシルエット。これって、いつものパターン?
「誰かが俺を、呼んでいるっ!! 青春と言えば、この俺だああああああああああ!!」
原付が私たちの横で急停止した。
ヘルメットを外せば、見慣れた坊主頭。懸さんがどこからともなくやってきた。っていうか、青春って聞こえたの!? それで飛んできたっていうの!?
「よっ、叶恵ちゃん、呼んだか?」
「いやいや、呼んではないっていうか、私が言ったわけじゃないし、青春って聞いてそんな反応するうっ!?」
「はっはっは! 青春と言えば俺じゃないか」
「代名詞的なものだと思うけどさぁ……」
青春って聞いてあっちこっち言ってたら身が持たないよ。甲子園の季節とかどうするの。毎日のように青春青春言われちゃうじゃん。毎日呼ばれ放題じゃん。
良くも悪くも、懸さんは相変わらず不可解で、あっはっは、と愉快そうに笑っている。
「まぁ、こちらも叶恵さんのお友達ですの?」
お嬢が落ち着いた口調で尋ねてくる。懸さんの謎理論での突拍子もない到来には一ミリも触れていないあたり、お嬢はやっぱり浮世離れしている感じがする。
「うん、友達だよ」
と、私は素直に答えた。
「ぐはっ……友達、分かってはいてもその言葉は、俺の胸に……刺さる……」
あ……。懸さんが何故か苦しんでいる。
って、そういえばそうなのだった。この前、懸さんをフったばかりだったんだ。古傷をえぐっちゃった、かも。
うーん、でも友達は友達だし。そう答える以外に何って言えばいいか分からないしなぁ。
訂正した方がいいかな、と思ったときには、
「いやいや、俺はまだ諦めないぜ、俺の青春はまだ終わっちゃいない! 俺は諦めないぜ!」
と、無事にいつも通りの青春に熱い懸さんに元通りだった。
良かった、落ち込んだままだったらどうしようかと思った。主に、私のせいみたいなんだけど。
「何を諦めないのですか?」
「あ、ちょ、それは……」
訊かない方がいいと思うよ、懸さんの心情的にも、私的にも……。
と、止めようと思ったのだけど、無理だった。
「もちろん、叶恵ちゃんのことさっ! 俺は今でも君のことが……」
「わー! わー!」
恥ずかしいってぇえぇぇええ!! お嬢に知られることもだけど、ここ、駅前! 人! たくさんいる! 場所!
「まぁ! あなたは叶恵さんの事が好きなのですねっ!」
「思わぬ伏兵っ!? お嬢がが大声で言っちゃう!?」
しかも、もうお嬢には完璧に伝わっちゃてるみたいだし!!
「ああ、なんて素晴らしい青春でしょう。叶恵さんから伝え聞くには、叶恵さんには思い人がもう既にいらっしゃる。それなのに、いや、それだからこそ、諦めず、一途に、思い続けるなんて、なんて素晴らしい青春ですことっ!」
「あ、あんた、分かってくれるのか、俺の青春をっ!」
「もちろんです! 男も女も関係ない、人が生きていく中で欠かすことのできない青春、恋!」
「そうっ! 俺は、猛烈に恋をしているんだあああああ! 青春なんだあああああ!!」
以上のことを、お嬢と懸さんは大声で叫び合っていた。
「……恥ずかしぃ……」
もう、滅茶苦茶通る人達に見られていた。はぁ、路上でなんで青春ドラマのワンシーンにも満たない茶番劇を始めちゃんだよこの二人ぃ……。
穴があったら入りたい、っていうか、今すぐ懸さんの原付で走って逃げてしまいたい。
「って、懸さんその格好……また出前中じゃないの?」
よくよく見てみれば、懸さんはライダースーツでもなく、実家のラーメン屋の服装。そして、原付の後部には銀色の箱が……。
「あ、いけねっ! 青春に浸りすぎて忘れてたっ! じゃーな! 叶恵ちゃん、それに俺の青春の理解者っ! またな!」
「はい! またお会いしましょう!」
急いで走り去っていく原付に、お嬢が手を振って返す。懸さん、出前忘れちゃうってどうなのよ。
しかし、なんてとんでもない二人の組み合わせだったことだろう。
「はぁ、この二人をまた会わせるのは止めよう。絶対に」
予定外で異質な組み合わせだったけど、とんでもなく波長が合ってしまった。もう二度と、この二人を鉢合わせて、巻き込まれたくない。
はぁ、今日で一番、疲れたよ……。
ども、作者です。
相変わらずの便利キャラ。




