押しかけお嬢……その2?
ワンちゃんの家を出た私たちは、次の目的地に向かった。
と言っても、駅前に戻って、それからファーストフード店に入っただけ、なんだけどね。
あれから、私のスマホに一通だけ返信が来ていた。
「今は駅前のファーストフード店にいる。他のみんなとも一緒」というその変身を頼りに、お嬢を引き連れて来たのだった。
「はじめまして、よろしくお願いいたしますわ」
ぺこり、とお嬢がお辞儀をする。六人掛けのテーブル席は結構狭苦しい。鼻にむん、と通ってくる脂っぽさと塩っぽさが入り混じった臭いも相まって、室内の温度が妙に高くなっているようにも感じた。
さて、そんなファーストフード店にいたのは。
「ねぇ、叶恵、この子何?」
「お嬢」
「答えになってないでしょそれ……」
はぁ、とため息を吐くこのみちゃん。そう、連絡をくれたのはこのみちゃんだったのだ。さすがは私の数少ない女友達。というか、ワンちゃんとこのみちゃん以外で連絡付く人はなさそうだからね。ワンちゃんは連絡くれなかったし。ある意味では最初で最後の希望でもあったのだ。
「おいしいですわ~。わたくしジャンクフードを食べるの初めてですの」
お嬢がハンバーガーをほおばって、うっとりと、それこそ初めて世界三大珍味を口にしてこんなに世の中に美味しい物があったのか、と感想を言っているテレビの芸人さんみたいだった。要するに大げさ。
「本当にお嬢様なの」
「え~、じゃ~これも初めてさ~?」
「これ、なんですの? ドリンク、おのみものですか?」
「まぁまぁ、口にねー、してみてねー」
「はい! わたくし、初挑戦してみますわ! 何事も恐れずに挑戦すること、それが生きる上で大切だと漫画に書いてありましたものっ!」
そして、このみちゃんと仲良しの三人もいる。話していた順に、アズちゃん、サミちゃん、フーミン。なんだか久しぶりだ。
彼女らに促されて、お嬢がコップの蓋に差し込まれたストローに口を付ける。ちゅーちゅーと吸い始めた。吸っているときの顔は、口をすぼめていて、変な感じだ。が、すぐに口を離して怪訝そうな顔をする。
「まぁ! 全然飲めませんわ! これはまさか、罠っ!! 変な顔をしてしまいましたわ。そうするためにお店が用意した……」
「もうちょい飲んでみるといいの」
「もう少し? で、ではもう一度……」
お嬢はちゅーちゅー、さらにちゅうっと吸う。それでやっと、ぱあ、と顔を輝かせた。
「まぁまぁまあ! お飲物かと思ったらアイスクリームじゃありませんの! アイスを飲むだなんて……こ、こ……」
「こ?」
「こんなに数奇な体験が出来るなんてっ!! 素晴らしいですわ! お屋敷と学校を行き来しているだけでは体験できないことですわっ!!」
要するに、シェイクを初めて飲んだってわけだね。
「……叶恵、この子ヘンじゃない?」
隣に座るこのみちゃんが、私に耳打ちする。
「それは否定しないけどね……でも、悪い子じゃないよ。ほら、三人とも仲良くなってるし」
お嬢とこのみちゃんたちとでは、相性は良くないんじゃないか、と少し心配していたんだけど、それは杞憂に終わってくれたらしい。三人とお嬢は適度に話し、適度に笑い合っている。うんうん、仲良きことは美しきかな、だっけ?
「遊んであげてるだけよ。アンタが連れてきた子だし。フーミンもアズもサミちゃんも物好きね。アタシは上手くできそうにないわ」
このみちゃんが椅子にもたれかかり、胸の前で腕を組む。
「なんで? アタシみたいに仲良くできると思うよ。お嬢とも相性悪そうじゃないし」
「止めてよ。ボケに突っ込むの疲れるのよ。アンタの相手だけで手一杯」
「ええ? 私そんなボケたりしてないって」
「してるわよ。天然ねぇ」
「天然って初めて言われたかも……そんなつもりないんだけどな」
「自覚が無いからこその天然よ」
そんな、私って天然かなぁ。しっかりしているつもりはないんだけど、それでも、天然とは違う気がするんだけど。
「まあ! お二人で仲良くお話なんてずるいですわよ、叶恵さん」
お嬢の興味が、他の三人から私とこのみちゃんに移ったらしい。
「お嬢、良かったぁ~いいところに来てくれたよ~。私って天然?」
「まぁ! そうでしたの?」
と、お嬢が聞き返す。
「いやいや、私が尋ねてるんだから真に受けて驚かないでよ。私が天然だって、このみちゃんが言うんだよ」
このみちゃんの方を見ながら言うと、お嬢はこのみちゃんに視線を移し、手を口元に当てた。
「まぁ! そちらがこのみさんですのね! でしたら間違いありませんわ。叶恵さんは天然です」
「ちょ! なんでそうなんのよっ!」
と、このみちゃん。
「だって、このみさんは叶恵さんの一番のお友達だっていつもメールでわたくしに言っているじゃないですの。一番の友達は一番自分のことを知ってくれているかけがいのない人のこと。そのような方がおっしゃるのでしたら、間違いありません。叶恵さんは天然ですわ」
「ちょ、ちょっと、違うよ~。それも漫画で見たこと? 天然かどうかはそんなことじゃわかんないって、ねぇ、このみちゃん」
このみちゃんは、眉間に深いしわを刻みながら、じっとりとした目で私を見ていた。
「どっちも天然よ……ったく」
そして、ぷい、とそっぽを向く。
「どうしたの、このみちゃん」
「どーもしてないわよー」
明らかにどーかしてる。ちょっと不機嫌そうな様子で、このみちゃんはドリンクに口を付けた。
「きっと照れているのですわ!」
「ぶふぅっ!」
お嬢の一言に、このみちゃんがドリンクを吐き出した。相当、意外な一言だったらしい。
「うわっ! このみん汚ーい」
「大丈夫?」
このみちゃんの友達二人が、このみちゃんを心配して、手拭をこのみちゃんに渡す。このみちゃんはそれを受け取って、しばしごほごほと急き込んでいた。
しばらくして落ち着いたらしく、このみちゃんが話しだす。
「はぁ~、鼻に入った……へ、ヘンなこと言わないでよアンタ……」
ぎろり、とこのみちゃんがお嬢を睨みつけた。
睨みつけられたお嬢はと言えば、きょとんと何を言っているのでしょうかさっぱり分かりませんわ、とでも言いたそうな顔をしていた。
「もしかして、違いましたの? てっきり、叶恵さんがわたくしにこのみさんがいつも一番のお友達とメールで伝えている、と言ったことが図星だったのだと思っていましたのに……」
「げほっ!」
またも、このみちゃんが噴き出す。今回は酷い咳をするような感じだった。
「図星なの」
「図星だね~」
「図星さ図星さ~」
と、このみちゃんの友達三人が、茶化すように続けて言った。
「アンタたちもうっさいっ!!」
このみちゃんがわーきゃー、と叫ぶ。
あはは、今日も元気だなぁ。このみちゃんは。いつも通りツッコミがキレにキレまくってるよ。
「それにしても似ていますわね、このみさん」
お嬢が手をぱん、と叩く。
「何によ」
「わたくしがいつも読んでいるケータイ小説の主人公にですわ!」
「がはっ!!!」
このみちゃんの三度目の吹き出しは、まるで血の塊を喉の奥から吐き出す様な感じだった。
「今度はどうしたの!?」
私はこのみちゃんの背中をさする。大丈夫、かな?
その間にも、お嬢はうっとりとした様子で言葉を続けた。
「照れ屋さんなところ、照れ隠しが苦手なところ、ちょっと不器用なところ、でも、友達に対する思いやりは人一倍で……」
「止めて! 止めなさい!!」
このみちゃんが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。言われてみれば、あの小説に登場する主人公は、このみちゃんそのままって感じだ。不思議なくらい似ているなぁ。
「だいたいあってるね~」
「うん。まるでこのみんそのものなの」
「それって何って小説なのさ~?」
興味津々にこのみちゃんの友達がお嬢に尋ねる。
「訊くなっ!! いい! 言うんじゃないわよ! 絶対に言わないでよ!」
「はい! タイトルは……」
「だから言うなって言ってんでしょ!!!」
「フリじゃないんですの!?」
「ンなわけあるかー!! 日常的にフリとかするやついないわよっ!!」
大分騒がしくなってきた。これはこれで、友達同士のやりとりっぽくていい感じかな。
「……ははは、結構いい感じ……かも?」
ちょっと、このみちゃんが怒っているみたいだけど、大丈夫でしょ、きっと。
ども、作者です。その2です。




