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コワモテ!  作者: リソタソ
再会と出会いの春先
7/105

一和と懸・・・・・・決闘!?

 緊張の糸が張りつめているぴりぴりとした空気が、教室を支配していた。

 私は相変わらず、水戸さんの取り巻き達に拘束されながら、二人を見ていた。すると、竜美さんがふと視線を逸らして、私の方を見た。

「あ! さっきの転校美少女!」

 緊張の糸が、一気にほぐれた。

「え!?」 

 一番驚いていたのは、水戸さんだった。

「なになに、なんで拘束されてんの。お前らも離してやれよ~、可哀そうだろ?」

「ちょ、ちょっと! 何言ってんの懸!」

「何って、解放してあげろって」

「解放してあげろじゃないでしょ! 私が折角こいつを……」

 続きを言いかけて、水戸さんは口を噤んだ。

「こいつを……」

 口をとがらせて、頬を赤らめている。

「み、ミトッチー。ここはさー、竜美さんもいるし、離してやってほうが良いよー」

 取り巻きの子がそう言って、私を離してくれた。

「良かったなー! 転校美少女!」

「ちぇ、転校生だからって……よりにもよってそいつに惚れなくたっていいでしょうに」

「なんか言ったか?」

「なんでもない!」

 なんだか、水戸さんと竜美さんって、ちょっと込み入った、関係?

「よーし! ここは転校美少女がいることだし! いっちょ気合入れてやるか!」

 竜美さんがワンちゃんの方に向き直る。

「って、なんで懸はこいつと喧嘩しようとしてんの!? もういいじゃん。アタシが殴られる原因はこいつを……」

 水戸さんがワンちゃんを指さして、私にいったん目線を向けてから、竜美さんに言う。

「そんな事情、どうでもいいだろ。お前がこの子になんかしようとして、それで理由は分からんが、大神がそれを助けようとして、お前に手を挙げようとした。そうだろ?」

「……うぅ」

 図星、と言わんばかりに眉を顰める水戸さん。

「ま、お前がやったことに対してどうこう言うのは後でもできるがよ。どんな理由があろうと、俺の仲間に手を挙げようとするやつは許さねぇ! 決闘だ、大神一和!」

 け、決闘って、つまり、喧嘩でしょ? ここで? 竜美さんも拳を握って構えてるし、それに答えるみたいに、ワンちゃんまで構えてる!

「……じゃ、さっさとかかってこいよ」

 ワンちゃんが竜美さんに向かって言った。でも……。

「なぁ、転校美少女。今のセリフ、青春っぽくてかっこよくなかったか?」

「えぇっ! いや、なんで今それを私に言うの!?」

 竜美さんは、私の方を見て嬉しそうに笑っていた。

「………………ふざけてんじゃ」

 ワンちゃんが駆けだした。

「ねぇぞおおおおおおお!!」

 ワンちゃんのパンチが、竜美さんに向けられる。

「いいねぇ。いいパンチだ」

 竜美さんは近づいてくるワンちゃんの拳を見てから、また簡単に掌で受け止めた。

「ちっ!」

 もう片方の拳も竜美さんに向けるワンちゃん。

「こっちのパンチは遅いんじゃないか?」

 しかし、それも竜美さんはやすやすと受け止めてしまった。

 両方の手を止められて、二人が顔を突き合わせる。ぷるぷると震える両者の腕を見ていると、お互いに力を籠めて押し合っているのが分かった。ワンちゃんは歯を食いしばって必死に押そうとしているけれど、相変わらず竜美さんはにやにやと笑って、余裕そうだった。

「強いなぁ、大神。どうだ、お前も俺の仲間になれよ。きっと楽しいぞ」

「……いやだね。……群れる奴らは……ふー……嫌いなんだ」

「そっか、じゃあ残念。怒りのままに、ぶちのめしてやるよ」

 竜美さんが、頭を引いた。そして、勢いをつけて、リーゼントの乗っかったおでこを思いっきりワンちゃんの顔の中央、鼻の辺りに打ち当てた。

 ごつん、と鈍い音が響く。竜美さんが手を離して、ワンちゃんが後ろに倒れて、並んだ机といすの上に倒れ込んだ。

 わ、ワンちゃん!? がらがらと盛大な音を立てる椅子と机に、私は心配になった。

「へへっ! どーだ! これが青春頭突きだ!」

「かっこいいっす、アニキ!」

 喚起に湧く男子たち。

 わ、ワンちゃん! 私は両手で口と鼻を覆う。駆け寄りたい。そう思ったとき、がらがらと音を立てて机といすを押しのけてワンちゃんが立ち上がった。

「おっ! さっすがタフだなぁ」

「ンなもじゃもじゃしたもんぶつけられても、痛くもかゆくもねぇんだよ」

 ワンちゃんの片方の鼻の穴から血が出ていた。ワンちゃんがそれを、制服の袖で拭う。痛くないわけなんかないのに、ワンちゃん、強がってる。

「さっさとやっちゃいなよ、懸」

「もっといたぶって下さいよ!!」

 歓声。それのすべてが、竜美さんに向けられている。ワンちゃんは、この場で一人、見方もなしで、相手に立ち向かっている。私のために。

 ワンちゃんが殴りかかろうとするが、明らかにさっきよりスピードが落ちていた。今度は受け止めるまでもないのか、竜美さんは避けて、お腹に一発パンチを入れる。

「どうだ、これでもう立てないだろ!」

 片膝をつくワンちゃん。でも、すぐに立ち上がった。

「そんなもんで倒れるわけねぇだろ、バカ」

 ワンちゃん、どうして、私のために、こんな……。もう、いいよ。こんな。私、坊主にだってなんでもなるから、そんなに痛々しい姿で立たないでよ……。

「けっ、強がりやがって。どうしてそこまで強がりやがんだぁ?」

「言うかよ、バカ」

「……あ! 分かった! お前、この転校美少女のことが好きなんだろ!!」

 しん、と教室中が静まり返った。

 ………………え?

「そっかそっか! なるほど! 惚れた女にいいとこ見せるためにいじめられる彼女を助けたんだ! そうだろ!! いやぁ、そうかぁ。お前もまた青春の甘い罠に捉えられた同士ってぇ訳かぁ。うんうん、その気持ち、すっごい分かるぞ! でも、それなら俺だって負けられねぇ。なぜなら、俺もその転校美少女のことが好きだからだ!!」

 ………………………え? えええええええええええ!!!?

 ちょ、こ、この人、いきなり何を言って!?

「ちょっと! 懸! あんた何血迷ってるのよ!!」

「血迷う? 確かに、恋は一時の血迷い事かもしれねぇ。だが、それでも、俺は全力で、この全身全霊を賭けて、あのたった一人の思い人にすべてをささげるんだぜぇえええ!!」

「あ、アニキ……さすがアニキっす。かっこいいっす!!」

「だろう!? これで、話題のあの子も俺に惚れたはず、だろう!?」

 私の方を向く竜美さん。

「……いえ、全然」

 首を振って返答。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!」

 思いのほかショックを受けたようで、足元から崩れ落ちる竜美さん。そんな彼を

「ふんっ、誤解してんじゃねぇよ」

 ワンちゃんがまた鼻で笑った。

「ああ! お前、恋する男を鼻で笑うなんて……!」

「テメェが誰に恋してようがなんだろうが、ンなもん知らねぇよ。俺とアイツは、ただの幼馴染だ」

 ワンちゃんが、私の方をちらっと見て、そう言った。そして、

「……」

 黙って、ちょっとだけ口の端を上げた。

「それ以上でもそれ以下でもねぇ。でも、アイツを助ける理由も、それ以上のもんもそれ以下のもんも、ねぇだろうがよ」

 ワンちゃん……。私のこと幼馴染って、言ってくれた。

 最初に会った時に嫌われちゃったって思ってた。私のことなんて、どうも思ってくれてなくて、忘れてるのかとも思った。でも、ちゃんと覚えてくれていた。彼の記憶に、まだ私たちがこの町で小さいころに一緒に遊んでいたことが、残っていた。

「わ……大神、くん」

 それだけでも、嬉しかった。

「えええ!? 幼馴染属性かよ! くっそう! 俺のディスアドバンテージ半端ないじゃんかよ! これは、テメェをノして、思いっきりかっこつけるしかねぇみたいだな!」

「……来いよ、バカリーゼント」

 二人が、また構える。お互いがお互いに向かって、拳を握り、最後に一番強いパンチを繰り出そうとしている。

「いっけぇえええ! アニキ!」

「やっちゃって下さいなのー!」

「……ど、どう応援しろってのよ、この状況……」

「ミトッチー、ちょっとしっかりー。大丈夫、いつもの青春病だからー、すぐに治るからー」

 竜美さんを応援する声が、教室中に響く。

 ……私は……私にできることは……。

「大神君! 負けないで!!!」

 他の人達の声に負けないように大きな声を出した。

「青春、ばっくはーーーーーーーーつ!!!!」

「オラぁっ!!!!!!」

 二人のパンチが、同時に出る。

「そんなダサい頭の人になんか、絶対に負けないで! 大神君!!!!」

 一番大きな声で、私は叫んだ。

「……だ、ださい?」

 竜美さんが、この世の終わりを見たかのような絶望的な表情をしていた。も、もしかして、ダサいって言ったの、そうとうダメージいった?

「オラァああああ!!!!」

 その顔に、思いっきりワンちゃんのパンチがめり込んだ。

「がぁ!!!?」

 竜美さんは、その場で後ろに倒れ込んだ。

「あ、アニキ!!!」

 駆け寄る金髪の子分の子。竜美さんは揺すられるまま、力なくぐったりしていた。

「ださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださいださい……」

 あ、竜美さん、うわ言のようにダサいダサい呟いてる。そ、そうとう、酷く心を抉っちゃったみたい。

 竜美さんの方に、みんなが駆け寄って行く。

「……ふんっ」

 ワンちゃんは、一人、その場に座り込んだ。

 勝ったのは、誰がどう見ても、ワンちゃんだ。


ども、作者です。レビュー、評価、ブックマーク、ありがとうございます。何作か書いてて三つとももらったのが初めてですし、しかもレビューのおかげで一気にPVが増えて「なにごと!!!? なにごと!!??」と困惑しながらもにやにやが止まらなかったです。重ね重ねありがとうございます、励みにさせていただきます。

 えっと、次回で一章が終わります。そしてその次回がとちくるったかのように短いのでさらっと早めに投稿するか、来週八部と二章一部を同時投稿するかのどちらかにしようかと思っています。後者が有力かな?

 しかし確定しているのは来週から二章スタートです。また二か月ほどかけて投稿していく予定ですのでよろしくお願いします。

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