助けてほしい、願った相手は・・・・・・来る!?
「はぁ、はぁ、追って……来てないよね」
振り返って見るが、さっきのリーゼント番長、竜美さんの姿は無かった。
いったん立ち止まって、上がった息を整える。駐輪場の横の坂道の下で、私はやっと休憩を取れた。
「あぁ、怖かった」
それが単刀直入な感想だった。やっぱり、ああいうタイプの人って怖い。それは、ワンちゃんも同じなんだけど……。竜美さん、結構笑顔はかっこいいし、可愛いって言ってくれたのは嬉しかったんだけど……。思い出される、ゆっさゆっさと揺れるリーゼント。
「ん~、あれは無い」
竜美さんには失礼かもしれないけど、それは紛れもない事実だった。一応、私を助けてくれた、のかな? お礼もしなくちゃいけないとは思うんだけど、でも、会ったら会ったできっとまた褒めちぎられるだろうし、それはちょっと嬉しいけど、苦手だー……そんなに、可愛くなんてないし。それに、猛烈にアプローチされるのも、ちょっと困るかも。
何はともあれ、あんな人に目を付けられてしまって、これからの学校生活が一層波乱万丈なものになるんじゃないかなってことが一番心配。
あ、しかも昼ごはん買い忘れちゃったし……。はぁ、今日も購買に行くのかぁ。
私は肩を落としてとぼとぼと教室に向かった。
教室に着いて、ドアの前に立つ。昨日は散々だったけど、今日こそは!
そう思って、思い切ってドアを開けた。
ガラガラ、と大きな音を立てて開く扉。扉が開いて、教室の風景が目に入ってくる。真っ先に目に入ったのは、水戸さんの姿だった。
「あ、来たよーミトッチー」
「どうさ、どうさ?」
取り巻きの二人がそう言って、私の方を見た。
「これじゃダメね。っていうか、むしろ、いい?」
水戸さんが立ち上がると、鞄の中から何かを取り出した。それは、どこかで見たことある手で持てるくらいの小さな機械で、コンセントが伸びている。って、これって、まさか。
「ば、バリカン!?」
やばい! 水戸さん、何かする気だ。にやにや笑って、私の方を見て近づいてきてる。逃げよう! そう思って、後ろに下がろうとすると……。
「おっと、こっちはダメだぜ」
と言われて、後ろを見ると、クラスの男の子の、背の小っちゃい金髪の子が、私の背中を思いっきり押した。
「きゃっ!」
押された勢いで、教室の中に入る。後ろの黒板の前の、机との間が広く開いたスペース。私はそこに前のめりに転んだ。
「いったぁ……もう、何すんのよ!」
そういって顔を上げると、水戸さんがもう目の前に立っていた。
「あのさぁ。昨日、友達になるんだったら髪染めてこいって言ったわよね」
「え!?」
そ、そんなこと言ってたけど、でも……。
「わ、私、あなたなんかと友達になんかなりたくない!」
私は言い切った。涙が出て来そうだった。でも、ここははっきり言わないとダメ。もう、後には戻れないけど、それでも、後に戻っても辛いだけなら、ここで立ち向かわないと!
「はぁ? アンタ、自分で友達になりたいとか言ってたくせに、今更何言ってんのよ」
「ミトッチ―、これってさ、私ら傷ついたよねー」
「そうなのそうなの。メイヨキソンってやつなの!」
「名誉分はさ、体に痛みと恥ずかしさで刻んであげるさ!」
そう言う水戸さんの取り巻き達は、いつの間にか私の左右と後ろに立っていて、転んだ私の腕を掴んで、私を無理やり立ち上がらせた。
「ちょ、離して! 離してよ!」
後ろの子が、私を羽交い絞めにする。
「じゃ、そっちゃおっか。十六歳でハゲデビュー。きっといい経験になんよ」
水戸さんが、教室の後ろにあるコンセントに電源を刺した。
ブゥウウウウウン、と電気が入って、バリカンが動き始めた。
「じゃ、まずは前髪から、真ん中を思い切って刈り上げちゃお!」
「いいねー、それー」
「いいぞいいぞ!」
「やれやれ!!」
クラス中が、私に注目していた。みんなが盛り上がっている。こんな、いじめで。いやだ、絶対に剃られたくない!
そう思って体を必死に動かして逃げようとするけど、それもできない。最後の最後にできる抵抗は、剃られないように頭をぶんぶん振って、バリカンを避けることだった。
「ちょ、避けんなよ」
空振りするバリカン。水戸さんが肩頬をあげてイライラし始めていた。
「ったく、ちょっとは止まんなさいよ!」
ごっ、と私のお腹に、水戸さんの膝がめり込んだ。
「……っ!!!」
声が出なかった。い、痛い……。
「さ、やっとおとなしくなったわね」
バリカンの音が近づく。私はお腹の痛みからちっとも動けないでいた。
「……や……ごほっ」
声も出ない。このまま、バリカンで頭を剃られちゃう……いや、絶対に嫌! でも、もうなんの抵抗もできない。
「おい」
そこに、低い声が響いた。
「え?」
水戸さんが声のする方を向いた。そこにいたのは……。
ワンちゃん!?
「何してんだ」
ワンちゃんは顎で水戸さんの手に持たれたバリカンを差した。
「ふん、アンタにはカンケーないでしょ? 別に、こいつの頭をハゲにしてやろうが、どうしようが、構わないでしょ?」
「止めろよ」
ワンちゃんがそう言い放つと、水戸さんも、他の取り巻き達も、そして私も驚いた。
「は、はぁ?」
「止めろって言ってんだよ」
ワンちゃんがどんどん近づいてくる。威圧感たっぷりの目で、水戸さんを睨みつけながら歩く。
「ちょ、あいつ、なんでキレてるのー?」
「やばくないの、ミトッチ?」
取り巻き達がうろたえる。
「べ、別にビビる必要ないじゃん。そ、それに何キレてんだよこいつも。裏番とか言われてるとか良く知らないけどさ、偉そうにしちゃってさ。こいつもむかつくんだよ! バカジュン! アンタら、こいつをぶっ倒しちゃいな!」
水戸さんが早口に言う。男子たちの方を見るけど、彼らは動かなかった。
「っちょ、なんで何もしないのよ!?」
「い、いや、こいつに立ち向かうのは俺達にはできないってーの!」
金髪の子がそう言った。確か、あの子、昨日ワンちゃんに椅子ごと持ち上げられた子だ。
そうこうしているうちに、ワンちゃんもどんどん近づいて行った。
「く、来るなー!」
水戸さんは、バリカンをワンちゃんに向かって投げた。
「……」
ワンちゃんが、それを掴んで、バリカンのコードを引き抜く。コードはコンセントから抜けて、バリカンの本体は、ワンちゃんが地面に投げつけて無残に壊れた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、アンタ!」
ワンちゃんは水戸さんのすぐ目の前に来ていた。
「何すんのさ!」
ワンちゃんが、拳が握られていた腕をあげる。
「う、うそ、アンタ、女に手をあげる気?」
「だったら、何だ?」
ワンちゃんが思いっきりその手を振り下ろそうとする。水戸さんが目を瞑った。
「おっと。理由は知らねぇが、女に手ぇあげるのはナンセンスなんじゃないのか?」
別の声がした。ワンちゃんの後ろに立っている彼は、ゆっさゆっさとリーゼントを揺らしながら、自分よりも背の低いワンちゃんを見下ろし、彼の振り下ろされようとしている腕を掴んで止めていた。
「か、懸!?」
「アニキ!?」
水戸さんも、他の子たちも驚いていた。
「……テメェ」
ワンちゃんが、背後を振り返り、竜美さんの手を振りほどいて、がんを飛ばした。
「はぁ、大神もそんなに歯ぁ剥きだしの犬っころみたいな顔しちまってよぉ」
竜美さんはワンちゃんとは違って、すっごい余裕そうな落ち着いた顔をしていた。
「誰が、犬っころだ!」
ワンちゃんが青筋を浮かべて竜美さんに拳を放つ。
「相変わらず挑発に乗りやすいなぁ、お前」
その拳は、あっさりと竜美さんに受け止められた。大きな拳が、さらに大きな手に包み込まれている。
「でも、お前ばっかりキレてんじゃねぇぞ?」
竜美さんの声音が変わる。リーゼントの影の下の目が、ぎろり、とワンちゃんを睨みつけた。
「俺だってよ。大事な仲間に手をあげようとしてるやつ見ちまって、さすがに怒り心頭なんだわ」
一触即発の空気が、教室中に溢れていた。
ども、作者です。コワモテ初の深夜投稿なので、ちょっとだけ長めにあとがきを。
現在、一章六部目です。(合ってる?)この作品を含めて自分の作品は更新頻度だったり話の流れだったりを分かりやすく(主に作者が)するために一章八部構成にする予定です。つまり、一章もあと少しで終わりです。
基本一章まるまる書き終えてから小分けにして投稿していくようにしていますので、一章書き上げれば二月はストックできるということです。ちなみに今は二章を書いている途中です。今後、もしもストック数が二章分以上溜まるのであれば、もしかしたら週2ペースに上げられるかもです。一応もう一つ作品を連載(厳密にはもっとあるんだけどね)しているので、週2ペースに無事あげられるかは絶妙に微妙なところ。しかし、目指して行きたいところでもあり、作者の正念場です。
また、この作品は全13章予定です。ね、そう考えると、週一ペースだといつまでかかるんだよ!! とツッコミを入れたくなりますね。
そんな感じでラストもある程度決めつつ、終わりに向かってどれだけ話を広げることができて、さらにうまくまとめることができるのか、さらにさらに作者の集中力を持続させることができるのか、不安も課題も多いですが、これからも書いて行けるうちは書いて行きたいと思っています。
では、今回のあとがきは長くなってしまいましたがこれくらいで。読んでくださったかた、本当にありがとうございます。感謝感激雨あられからの流星群です。また、ブックマークしてくださった方、これからしようと思ってくださった方、まことにありがとうございます。たまぁに思い出して読んでくれるくらいでちょうどいい作品だと思っていますので、ぜひ思い出したころに続きをどうぞ。
それでは、この辺で。さようなら、また来週。




