行事それとも……抗争?
「何を言ってるんスか、姐さん」
問いかけると、まるで私の方が冗談を言っているとでも言うように、ピアスの山田君が笑う。
「そうッスよ、カラーボール戦争は言わば、派閥同士の抗争の代わりッス! 俺達は当然、表と裏の番長を従えている、姐さんたちが勝利するために全力で協力するんですよ!」
力強く、モヒカンの田中君が断言した。
抗争? それってつまりそれぞれのグループ同士での争いってこと?
じゃあ、やっぱりこれは純粋な学校行事とかじゃなかったんだ。
「っていうか、私は別に束ねているとか従えているとか、そういうつもりはないんだけど……」
「まぁまぁ、もう噂になっちゃってるんだよ、それ。僕も結構聞いたことがあるよ」
「ええ~」
作治君にまで知られてる。どれだけ大きな噂になってんの。
「その噂って、結構広まってるんだ……よね?」
尋ねてみると作治君が頷いて、神妙な顔をした。
「僕たち味方だけじゃなくて、他の派閥にだって知られているね。叶恵ちゃんが代表者だってことも知られているだろうから……」
「さっきの大衝突だって、姐さんを狙った他の派閥と、俺達みたいな懸さんを慕う派閥がぶつかったみたいなモンなんスよ」
興奮気味にピアスの山田君が言う。
「それって、私がいるだけでみんなに迷惑かけてる?」
「そんな訳ないッスよ! 姐さんは俺達の希望ッス! だから姐さんは俺達が全力で守るッス!」
モヒカンの田中君も興奮しながらそう言ってくれる。
でも、私が残っていても、対して役には立たないし、それに派閥とかって言うのもイマイチピンと来ないし……。
うじうじと困惑していると、またも無線機が鳴った。
「叶恵、聞こえてる?」
通信ボタンを押して聞こえてきたのは、このみちゃんの声だった。
「うん。今度はなに?」
「今、二階の様子を見てたんだけど、懸がいるみたいよ」
「懸さんが?」
「アイツも代表者だったみたいね。で、さっきも言った通り、下は大混戦になってるみたいだから、加勢してあげて。アタシらの方から見て右側の階段から行けば、懸たちがバリケード作ってるところに行けるから」
「それは……その、派閥の抗争のため?」
私が言うと、無線機の奥から大きなため息が返ってきた。
「なぁに、聞いたの、それ」
「……うん。なんか、変な噂も流れてるみたいだし……」
「アンタは気にしなくたっていいわよ、そんなこと。周りが勝手に騒いでるだけでしょ? 叶恵には全く関係ないわ。気にせずに楽しみなさいよ、この馬鹿騒ぎを」
「楽しむ?」
「ええ、そう。そんなことできない、だなんて言わないでよ。これでも、アタシだって結構楽しんでんのよ?」
根耳に水だった。楽しもう、だなんてあんまり思ってなかったかも。
「さ、うじうじしてないで、さっさと懸に加勢してきなさい」
まるで、私の決意を促すようにこのみちゃんが励ましてくれた。
始まっちゃったんだし、仕方ないよね。うん。折角だから、楽しんでこよう。
「分かった。このみちゃんの代わりに、私が懸さん守ってくるね、待ってて」
「ヘンなこと言ってないでさっさと行く!!」
このみちゃんに怒鳴られてしまった。通信もあっさりと切られてしまう。
でも、なんだかそれも面白かった。
「じゃあ、行ってみようか、下の階に」
懸さんの手伝い、してこなくっちゃ。そう思って、みんなに行ってみると、
「ちょっと待ってほしいッス、姐さん」
モヒカンの田中君に止められた。
「まず、もう一組、この階で待ち伏せしてる奴らからカラーボールを奪いませんかい?」
続けて、ピアスの山田君が提案した。
「悪くない提案だと思うよ、叶恵ちゃん。カラーボールを奪っておけば、加勢してからも戦力になれるし、後顧の憂いも断てる。上の階に敵を残したままだと、下の階に降りた時に後ろから襲撃されるかもしれないからね」
二人の提案に、作治君も賛同してくれた。
それなら、却下する理由もない。
「分かった。じゃ、突撃、しよっか」
そして、私たちは三階の左から二つ目の教室に、突撃した。
これって、いわゆるカチコミってやつ?
先陣を切ってくれたのは、下級生二人だった。
「おっしゃあああああ!」
「くらええええええ!!」
教室のドアを開けて突撃すると同時に、二人がカラーボールを投げる。
「がっはっは~! いけいけー!!!」
と楽しそうに言うのは、二人に続いて入った泥沼だ。
泥沼もカラーボールを投げまくるけど、残念ながら一球も命中していなかった。
「おっさん、なにしてんスか」
「もっとちゃんと投げろよ」
二人が泥沼を咎める。先に突撃した二人で、この教室は制圧していた。
つまりは、泥沼の無駄投げ、かな。
「るっせぇ! おめぇらがしゃべってる間暇で暇で仕方なかったんだよ! ちったぁ暴れさせろ!!」
というのが、泥沼の言い分だった。
「まぁまぁ、じゃあ、カラーボール、もらっていこう」
「了解ッス!!」
下級生二人が同時に返事をして、カラーボールを集め始めた。
よし、これで準備は終わったかな。
二人がカラーボールを集め終るのには一分も掛からなかった。
「じゃあ、下の階に行ってみよう」
「先陣は俺達に任せて欲しいッス!」
「よし行けぇ! 俺様の盾になれぇ!」
「おっさんが命令すんじゃねぇ!!」
なんだか、とても騒がしい。物騒な言葉が飛び交うけど、決してつまらないわけではなかった。
自分でも、まぁまぁ楽しめてきたかも。
この調子で、懸さんたちの手助けをしよう。次にこのみちゃんに言われたとおりの階段を通って階下に向かう。
「下級生の二人は、叶恵ちゃんの前に。泥沼をその間において、僕と叶恵ちゃんが最後尾にいるよ」
「……」
「……」
「……」
「えーっと、私と作治君が最後尾にいるから、戦闘を山田君と田中君。真ん中に泥沼って順番で、階段をおりよ?」
「了解ッス!」
「先陣は任せるッス! いくぞ、田中!」
「ったく、命令しやがって……」
「……」
作治君の提案を私がわざわざ言い直す。
そうしないと、なぜか作治君の言ったことが聞こえないみたいに、みんな無視してるんだもん。
これが、意図的だったらよっぽど悪質なんだけど……。
作治君はしばらく、呆然としていたけど、
「大丈夫だよ、良くあることだから」
と、気丈な笑みを浮かべた。
本当に意図的じゃないんだよね、あの三人。泥沼は意図的じゃないっぽいんだけど。
後の二人も、あまり作治君と関わりがないもんねぇ。そう考えると、やっぱり作治君の存在感の薄さが、原因? それはそれでかわいそうな感じがするなぁ。
というわけで、私たちは並んで階段を降りていく。学校の階段だから、ほんの数段降りて、すぐに踊り場があって、また同じだけの段数を降りればあっという間に降りられるんだけど。
それくらいに近いから、二階からの声も良く聞こえてきた。
「バリケードを突破するぞ!!!」
「突破させるな! カラーボールを投げまくれええ!」
「カラーボールの個数は足りてるかっ!?」
「まずいです! 結構少なくなってきてます!」
いろいろな人の声。どっちがどっちの声なのかはわからないけど、一方が苦境に立たされているみたい。
懸さんの方かな。敵の方なのかな。こちら側だったら嫌だけど。
とにかく急いで、階段を下りる。
そして、ちょうど先陣を切っている二人が二階に到着したとき。私は、まだ上の方にいて、踊り場を降りて二階へ続く階段の、上から一段目に足を踏み込んだところだった。
そこから見下ろしていると、一年生のコンビが二階に降りたちょうどその時に、彼らの隣に、人の姿が見えた。
突然現れたように見えたけど、それは多分、下の階から上がってきたからだろう。
当然、その人達も、先陣を切っている二人もその存在に気が付いた。
「げぇっ!! お前ら、旧番派のっ!!」
気付いた田中君が声を上げた。
旧番派の……ってことは、敵!?
「テメェらは、裏切り者!」
双方がカラーボールを構えて投げた。
「ぐわっ!」
「ぎゃあっ!」
カラーボールは命中した。山田君と田中君に。
「うおおおお! 盾どもがやられたっ!!」
泥沼もボールを投げようと構える。
「上にもいたかっ!」
しかし、泥沼が投げる前に敵が真っ先にボールを投げた。
敵は三人いて、何個ものボールが泥沼を襲う。
「うおっ!!」
泥沼はなんと、それらを避けた。避けたは避けたでいいんだけど……。
「まだ上にもいるぞっ!」
敵の内の一人が、私たちに気が付いた。
「まずいっ、叶恵ちゃん、下がって!」
作治君が私の前に出る。
私も、言われたとおりに下がろうとする。でも、もう既に敵の三人はボールを投げようとしていた。
まずい、これは避けられるかな!? 三つも同時に投げられたさすがに……。
「うおおおおおおおっ!! 俺の青春の声が聞こえたあああああっ!!」
「その声はっ!!」
というか、そのとても特徴的な代名詞は!
「叶恵ちゃんのピンチ! それすなわち俺の青春のピンチ! 青春を守るのは、この俺の役目だああああああ!」
二階の廊下の方から現れたのは、懸さんだった。
「て、テメ……ぐはっ!」
「がほっ!」
「げふっ!!」
三人が振り向くと同時、彼らの顔面にカラーボールが命中した。他でもない、懸さんが投げたものだ。三人がバタバタと倒れる。
「ふぅ、危なかったぜ」
安心したらしい泥沼が、手の甲でおでこを拭った。泥沼も、リタイヤは逃れることができたみたい。私も作治君もだ。
「あ、ありがとう懸さん」
「なんてことないぜっ! 俺にかかれば、どんな青春でも守ってみせるっ! いや、
そうすることこそがまさしく青春だああああああああ!!」
「あ、あはは」
つまりどういうことだろう。
「そ、それよりも二人は……」
階段を駆け降りる。
カラーボールを当てられた、山田君と田中君の二人は倒れてしまっていて……見事に気絶したフリをしていた。
「二人とも、カラーボールを自分で潰してはいなかったみたいだね。ほら、叶恵ちゃん、二人のカラーボールを持って行こう」
「……うん」
とても、とても悲し……くはさすがにならないけど、倒されてしまった以上は仕方がない。そう割り切って二人の持っていたカラーボールを回収する。
「おう、竜美。ここの状況はどうなってんだ?」
「今は劣勢だ。俺達の仲間の代表者の人数がもともと少なくってよ、カラーボールの数も不足してきちまって……」
「つまり、結構ピンチってこと?」
私が訊くと懸さんが頷いた。
「すまねぇ、叶恵ちゃん。俺は君を守らなくっちゃいけねぇんだけど、それが俺の青春なんだけど……頼む、手を貸してくれ」
青春かどうかはさっぱり分かんないけど……。
「うん、そのつもりだよ」
私は力強くうなづいた。
「よっしゃあああ! 叶恵ちゃんが来てくれりゃあ! 俺の青春は百人力だ!」
「え! 青春!? どういうことっ!?」
「ぜってえに勝つぞー!!! おー!!」
「お、おー」
ついついノリで掛け声を合せてしまう。うん。これ、本当に大丈夫かな? ちょっとだけ心配になってきたかも……。
ども、作者です。
相変わらずサブタイトルに悩みます。




