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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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57/105

何かが・・・・・・始まる?

九月。もう九月だ。この町に帰って来てからもう少しで半年。随分と色濃い日々を過ごしてきたせいか、もっともっと長い時間が経っているような気分だ。

でも、九月になったからといって、夏はすぐさま去ってはいかず、五月ごろから延々と続いていた暑さは、残暑となってまだまだ残り続けている。

起きて、着替えて、まだまだ二時間位しか経っていないのに、夏服は相変わらず汗でべとべと。もううんざりって感じ。

でも、九月になったってことは変らない。

そう思うと、心がうきうきと弾むようだった。日光を嫌が応にも浴びせられる通学路だって、無意味な労働にも思える校舎へ向かう坂道だってもうへっちゃら。

だって、九月なんだよ?

九月と言えば二学期の始まり。二学期と言えば学園祭や体育祭。イベントごとが盛りだくさん。

これまではバイトとかでなかなか楽しめなかったけど、今は違う。

折角だから、思いっきり楽しまないと。ワンちゃんもいるんだもんね。

ワンちゃんと言えば、八月中、結局何も起こらなかった。バイトが終わってからは、課題とかやっておかなくちゃいけなかった。それでも時間は合ったのに、ワンちゃんがなにか誘ってくれることなんて、ちっともなかった。

あんなことしておいて、何もしようとしないだなんて……。

ちょっとあり得ないかも。私が、何かすれば良かったのかなぁ。

あー、でもそれは恥ずかしいし……。

そ、そう! そんななかなか思いを伝えてくれない相手にやきもきしてたり、自分が思いを伝えるために勇気が足りないってときに味方になってくれるのが、文化祭や体育祭なんだよ!

いわゆる、体育祭文化祭マジック。

その場のノリってやつ。

それでもいいから、とにかく何かを起こさないと、何かを起こしてもらわないと。

そう言った意味でも、私はそれらの学校行事が楽しみで楽しみで仕方なかったのだ。


「じゃあ、今日は待ちに待った〝カラーボール戦争〟ですよ~」

 は?

 はぁ?

 はいぃ?

 どういうこと? カラーボール戦争? 何それ?

 ふぅ、順を追ってもう一度思い返してみよう。

 教室にたどり着いて、ホームルームが始まって、担任の若槻先生がやってきて、開口一番にああいったの。

 うん、順を追ってみてもさっぱり分からない。

 あまりにも脈絡が無さすぎてさっぱりだよ。

 というか、戦争って教育機関にあるまじきネーミングだよそれ。

 何するの、それ。と、私の頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していた。

 でも、周りを見てみると……。

「……」

「……」

 みんな黙っている。行儀よく座って、先生の話に耳を傾けている。 

 一人も欠かすことなく。

 ちょっと待って。いつもはこんな感じじゃないよね。

 まぁ、若槻先生は怒らせると怖いから、怒らせないためにも黙って話を聞いているってことも十分に考えられるんだけども、

 それってあり得るの?

 だって、前まで先生が怒ってから黙っていたのに、それまでは動物園みたいにみんなぎゃーぎゃー騒いでいたはずだったのに、今日に限ってこうやってきちんと話を聞いていたら、まるでみんながこのカラーボール戦争を楽しみにしているみたいじゃない。

 というか、学園祭は? 体育祭は?

 もしかして、このカラーボール戦争がそれに当たるって言うの?

「じゃあ、一旦グラウンドに集まりましょうか~。全校集会ですよ~」

 本当に、体育祭とかの代わりなんじゃないかな、と思い始めてきた。


「えっと、ですねぇ。カラーボール戦争はですね。我が校唯一の学校行事です」

 グラウンドに集められ、まず最初に校長先生が私にはあまりにも絶望的過ぎることを言った。

 嘘でしょ? え、それが学校行事でいいの? なんて、疑問に思ったり困惑したりしているのは、多分私だけだろう。

 だって、周りを見てみると私たちのクラスの人達だけでなく、その他のクラスの生徒たちも、みんな黙って校長先生の話に耳を傾けているんだもん。

 というか、全校集会自体がこの学校に来てから初めての事だった。

 よくよく考えてみれば、この不良の溜まり場みたいなこの学校で、文化祭やら体育祭なんかがまともに成立するだろうとは思えない。まとまり、なさそうだからね。

 にもかかわらず、みんな真剣に校長先生の話を聞いているだなんて、かなり本気にこのイベントに参加しようとしているみたいだ。

 うーん、それが返って、不気味な感じもするんだけどね。

 でも、いったいどんなことをするのだろう。

「カラーボール戦争のルールはですね。各クラスの代表者三名が、校舎内でそれぞれに支給されたカラーボールを投げて、他のクラスの代表者に当てて、どんどんリタイヤさせていくというルールです、はい」

 腰の低そうな恵比須顔の校長先生が、説明を続ける。

「カラーボールをぶつけられたら、色がつきますのでね。その時点でリタイヤです。代表者がみんなリタイヤしたらそこでそのクラスは終わりです。代表者以外の方はですね、こちらから代表者とそれ以外の方にいくつか支給する無線機を使ってサポートをしてくださいね、はい」

 だ、そうだ。

 簡単に考えて、カラーボールを使った、校舎内で行うドッヂボールみたいなもの、なのかな。

「もちろんですね、屋内での暴力行為は禁止です。暴力をふるった場合は、連帯責任としてそのクラスはその場でリタイヤしてもらいます。また、ペナルティとして校舎内の清掃も行っていただきますので、あしからず」

 暴力は禁止。それは良かった。それなら安心して代表者の人達もゲームを楽しめるんじゃないかな。殺伐とした危険そうなことをしなくて良かったよ。

 暴力を許可しちゃったら、そうとう危険なことが始まっちゃいそうだもんね。

 まだまだ健全だ……いやいや、十分に健全じゃないよね。

 はぁ、できればもうちょっと大人し目のことをしていればいいのに……。

「楽しみですね~、カラーボール戦争」

 若槻先生の声だ。校長先生の話は続いているけれど、私たちのいる場所は先生たちが待機している場所に近くて、そのせいで先生が話している声も聞こえてきていた。

「collarballwarだなんて、危ないデース。warだなんて学校行事として常軌を逸して、イマース。例えて言うナラ、カワバタの「眠れる美女」を小学生に音読させるくらいニハ、フケンゼンデース」

 ダズィー先生の声だ。例えはイマイチ良く分からないけど、ダズィー先生の言っていることは至極まっとうだった。

 やっぱり、おかしいんだろうな、この学校。

 はぁ、体育祭も学園祭もあればよかったのに……。

「では、各クラス代表者を決定してください。くじで」

 という校長先生の言葉を合図に、私たちのクラスメイトも全員、円を作るように集まって、代表者を決めるためのくじをすることになった。

 いつになく、みんなが真剣だった。

「よっしゃ~、この俺様が全員蹂躙してやるぜぇ~」

「泥沼、あなたは蹂躙される側ではありませんか?」

「……うぬ」

「アァン!? ンなわきゃねーだろ! つーかおめえらよぉ、最近俺のこと舐めてねぇかぁ!?」

「るっさいわねぇ、三馬鹿トリオ! くじで代表者決めるんだから黙ってなさいよ!」

「珍しくこのみに賛成だわ~。はぁ、こんなバカトリオがいると苦労しちまうなぁ~。足、ひっぱんじゃねえぞ~」

 泥沼も海鞘蕗も殿面もこのみちゃんも下中君も、みんながかなり真剣に勝ちを狙っているみたいだ。クラスの一体感、なんてものは全くないみたいだけど。

 本当に珍しい。どうしてそうまでして、カラーボール戦争に勝とうと思っているんだろう。うーん。ただ学校行事を真剣に楽しもう、だなんて単純な理由だけだとは思えない。なにか、裏でもあるのだろうか。

 うーん……うーん。

「叶恵、なにぼーっとしてんのよ。アンタもくじを引きなさい」

 このみちゃんに注意されて、はっ、と我に返った。

「あ、ご、ごめん」

 言われるままに、くじのために用意された箱の中から四つ折りにされた紙を一枚取り出した。これがくじ。あとで一斉に開けてみるらしい。

 しるしがついていたら、代表者。でも、私はできれば、代表者にはなりたくはないかなぁ。ルールは一応聞いておいたし、別段危なそうではないようだけど、

 やっぱりその、戦いとかそういうのはね、私には向かないと思うの。ボールを投げるのだってそんな、得意じゃないし……。

「じゃ、確認して」

 と、このみちゃんの一声で、クラスメイトのみんなが一斉にくじを開いた。

 どきどきと胸を高鳴らせ、私もくじを確認した。

「よっしゃあ! 俺様が代表者だぜぇ!」

 まず最初に声をあげたのは、泥沼だった。

 ちっ、はずれ。なんでこいつが。あーあ、ダメだ。

 なんて声も次第に周りから聞こえてきた。

「ミトッチどーお?」

「ダメね、アタシはサポートに回るみたい」

 このみちゃんも代表者ではなかったみたいだ。

 しばらく、二人目以降はなかなか声を上げなかった。

 というのも、何を隠そう……。

「うそ、でしょ……」

 私の開いたくじには、赤ペンで二重丸が書かれていた。

 つまりは、私が代表者になってしまった、みたい。

「ふーん、叶恵が代表者だし」

 と、背後から声が聞こえた。

 振り向くと、すぐ後ろに真虎君が立っていて、眼鏡越しに私のくじを覗き見ていた。

「ちょ、ちょっと真虎君! い、言わないでよ……」

 真虎君が私が代表者だと言ったせいか、クラスのみんなの視線が私に集中していた。

「黙っていても、どうせすぐにバレるし」

「そ、そりゃあ、そうだとはおもうけどさぁ……」

 周りをちらりと横目に見る。あからさまに肩を落としてがっかりとしてる人、はぁ、とため息を吐く人、こりゃダメだ、と口々に洩らしている人達。

 私が代表者だって知れ渡った途端に、非常に重苦しい空気が一体を支配した。

「なんだぁ、おめぇが代表者かよ。ちっ、まぁ、最後の一人が誰かだなぁ」

 とまぁ、私は全く期待されていないみたいだ。

 それは当然だろうね。だけど、もう一人の代表者が気になるって言うのは私も同じだった。

 いったい、誰なんだろう。もしかして、ワンちゃんかな?

 きっとワンちゃんだよ。だって、こういうパターンのときは決まってワンちゃんが頼りになる存在として、私を助けてくれるはず!

 そう思って、周りを見てワンちゃんを探す。クラスみんなで集まっているから、そう離れていないところにいると思うんだけど。

 あ、見つけた。

 ワンちゃんはそれでも、クラスのみんなが集まっている外側に立っていて、周りから距離を取っているみたいだった。

 くじの結果はどうだったんだろう?

 そう思ってみていると、ワンちゃんは大きなあくびを洩らした。

 他の人達と比べると、はるかに興味関心が薄いみたい。

 というか、くじを本当に取ったかどうかも怪しい。

 あれ、これってもしかして、ワンちゃんじゃない? 代表者と違う?

 じゃあ、一体誰が……。

「あ、僕が代表者だ」

 その声が聞こえて、私も含めて、クラスメイトのみんなが一斉にその人に視線を向けた。

 視線の先に立っていたのは……。

「お前、誰だよ」

「殿面、あいつの名前知ってますか? 知りませんよね」

「うぬ」

「ねぇねぇ、ミトッチあの人誰ー?」

「ごめん、アタシにもわかんない」

 ちょっと、みんな酷くない? 私は分かるよ。うん、かなり久しぶりに彼の姿を見たような気がするんだけど、それでも、名前は覚えている。

「おいおい、お前かよぉ……」

 下中君は分かっているみたいだ。だって、いじめてたもんね。

 あぁ、嫌な思い出だなぁ。最近は全く見なくなったけど、転校してきた当初は結構酷かったっけ? 下中君も、彼に当たりが酷かったもん。

 そう、彼、大樫作治くんに。

「あ、あはは、僕、存在感薄いから忘れられちゃってる?」

 作治君は苦笑いを浮かべる。

 これで代表者の三人が決定した。私と、泥沼と、作治君。

 このメンツで大丈夫……かなぁ。

 私も戦力になるとはちっとも思えないけど……ひとまずは頑張らないと。

 折角みんながやる気になっているんだもん。私だって、クラスメイトとして精一杯がんばらなくっちゃ!


 各クラスの代表者たちは、それぞれに教室で待機することになっているらしい。とは言っても、自分達のクラスの教室じゃなくて、それぞれのクラスごとにランダムで選ばれた教室。

 私たちの場合は三階にある教室だった。いつもは三年生が使っているから、珍しい場所に来るようなちょっと浮いた気分になってしまう。作りは全く同じなのにね。

「叶恵ちゃん。まさか君が代表者になっちゃうなんてね。まぁ、僕も代表者になるだなんて思ってもみなかったんだけど」

「作治君。くじだもん。運だから仕方ないよ。なっちゃった以上は、頑張ってみないと」

「そうだね。叶恵ちゃんがそんなにやる気になっているのなら、僕だって頑張らなくっちゃいけないね」

「ま、まぁ、でも、私初めてのことだから、何をどうすればいいのか、とか全然わからないんだけどね」

「あはは。それは僕もなんだよ。去年は外にいたからね。二人も初心者がいれば、ビギナーズラックもあるかも」

「それって、運任せ?」

「ほら、僕たちくじで三枠の代表者を射止めたくらいの幸運でしょ。運だけなら勝てるかも!」

 そう言うと、作治君はあはは、と笑った。

 私もつられて笑う。

 こうやって二人で話していると、なんだか心持が爽やかになってくる。

 まるで、学園祭とか体育祭で友達と話しているみたい。

 結構、悪くない気分かも。

「おめぇらよぉ。なぁにが運任せだ。真剣にしやがれっ! 遊びじゃねーんだよ!」

 水を刺したのは、泥沼だった。

「言っとくがな、俺はお前らのために協力をするわけじゃあねぇがよ、おめぇらは俺様の足を引っ張ったりするんじゃねえぞ! 真っ先に倒されやがったら、ただじゃ置かねえからなっ!!」

 と、泥沼がいつになく真剣な面持ちで言う。

「結構本気で勝つつもりなんだね……」

「あったりめぇだろ!」

 当たり前らしい。でも、優勝をしたところで何か得られるものがあるわけじゃない。ルールでもその辺りのことは全く話していなかった。

 こういうと失礼かもしれないけど、泥沼やその他の不良たちが、何かの利益が無くって、ただ単に学校行事として、こういったイベントごとをこなして勝ちたい、って思うのが私にはなかなか信じがたいことだった。

 うーん、やっぱり、何か裏があるのかなぁ。

 どことなく、不安や嫌な予感を感じていると、ぱーんぽーん、と校内に放送が鳴り響いた。

『これより、カラーボール戦争を開始します。五……四……三……』

 カラーボール戦争の開始の合図だ。

 カウントダウンが続けられる。

『……二』

 ごくり、と固唾を飲んでその瞬間を待つ。

 作治君も泥沼も、支給されているカラーボールを手にして、じっと放送が終わるのを待っていた。

 私の手にも、カラーボールが握られていた。全部で五つ。手に取っているのは一つだけ。残りは、網袋の中に入れて、紐で腰に括り付けてある。それは他の二人も同じだ。

 準備は万全。これからどんなことが起こるのかは、想像しがたいことだけど、始まる以上は私も覚悟しなくっちゃ。

『……一……スタート!』

 始まった。

 途端に、「うおおおおおおおおお!」という雄叫びが外から聞こえてきた。

 思わず、私は後ろを向いた。

 ちょうど私の後ろには窓があった、この三階の教室は窓から校庭が見える。

 私たち代表者以外は、みんな校庭に待機していることになっていた。この雄叫びは肯定から聞こえているのだ。

 窓に近寄って、外の様子を伺う。

 飛び込んできた景色に、私は言葉を失った。

 校庭では、砂煙を上げながら、代表者以外のみんな、全校生徒のほぼ九割くらいの生徒たちが、大乱闘を繰り広げていた。殴り、蹴り、投げ飛ばされ、叩きつけられ、校庭はまさに暴力の嵐が吹き荒れていた。

「な、なにこれ……」

 ぼ、暴力って禁止じゃなかったっけ? なんでみんな校庭で堂々と暴力を振るっているわけ!?

「やれやれ、もうスタートか」

「やっと始まったなぁ。かっかっか、あっちも楽しそうじゃねぇか」

 作治君も泥沼も、外の様子を知っている。去年もその前もずっとそうだったのだろう。知っていた当たり前だ。

 だけど、二人はあまりにも落ち着いていた。泥沼は若干楽しそうにしているけれど、作治君は全く動じていない。

 カラーボール戦争って、こういう行事なの!?

 も、もしかして、これはかなりヤバいことが始まっちゃったんじゃない!?

 ど、どどど、どうしよう。これ、どうすればいいの、私!?



ども、作者です。


多分、相当ストレスでも溜まっていたんでしょうね。悪ふざけをしている感じがひしひしと伝わるギャグ回です。

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