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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
PR
53/105

海で……進展?

 田舎らしい田園と木造住宅をぐるりと回るように歩いて抜けると、風がほのかに冷たくなったように感じた。時間にして約十五分くらいかな。それくらいすると風が変わったの。海の風。深海の氷のような冷たさをしょっぱい香りと一緒に運ぶ風。

 胸いっぱいにそれを吸いこめるくらいには、もう海の間近の駐車場が見えていた。車がたくさんあって、みんな電車じゃなくて車で来ているんだな、と私は思った。

 そして、駐車場の先はもう海だった。白い砂浜があって、人がたくさんいて、青い海と空がある。

久しぶりに見る海だ。空の青は明るい空色で、海は紺のような濃い青。海から空へ伸びていくグラデーションに私は初めて気が付いたかも。

そのまましばらくカモメにでもなったみたいに、地平線に視線を奪われ続けてしまいそうだったけど、私は海を見に来たわけじゃない。

海に遊びに来たんだ。本当の目的は懸さんにきちんと私の気持ちを伝えることなんだけど。まずは遊んで、機会をうかがわなくちゃ。

 ひとまずは海の家で水着をレンタルして、簡単に作られた更衣室で着替え、外に出た。懸さんは私よりも一足先に外にいて、待っいてくれた。

 待っていてくれてたんだけど……懸さんが舞っている間に、どうもかなり意外なことが起きていたみたい。

 私も懸さんと一緒に居る人を見てぎょっとしてしまった。

「……なぁ」

 懸さんはとびっきり不機嫌そうな目つきで、ビーチパラソルの影にいる彼女に問いかける。

「何よ」

「どおおおおおおおおしてお前がいるんだよこのみ!」

 このみちゃんだった。叫ぶほどではないけど、私も懸さんみたいになんで、と問いかけたいくらいに驚いていた。ただ様子を見に来たって感じじゃなくって、パーカーを羽織って入るけど、黒いビキニが見えるし、ビーチパラソルもマットも用意してあって、これはいかにも周到な準備をしていたことがうかがえる。

 もしかして、昨日話した時から来る気まんまんだったんじゃない?

「いいじゃないの、別に。私だって海に行きたい気分になるわよ」

 このみちゃんはあくまでも無関係を装う。懸さんはどうかは分からないけど、私からしてみれば、酷く不自然で仕方がない。

「お前、俺と叶恵ちゃんのデートを邪魔しようと……」

「そーんなわけないでしょ? たまたまよたまたま。ねぇ、順一ぃ」

 このみちゃんはどうやら一緒に来ていたらしい下中君に話を振った。多分、図星なんだね。

「たまたまなもんか……」

「そうよねぇ、たまたまよねえ! 偶然! 私が海に行きたい気分になったなーって思ったら、偶然! バカジュンも海に行きたくなっててー、ホントに偶然に! 二人が海に来る時間帯とかぶっちゃったってことよねー!」

「明白な嘘ついてるようにしか見えないよこのみちゃん……」

 ぎろり、とこのみちゃんに睨みつけられた。思わず口に手を当てて、これ以上はしゃべらないとジェスチャーをする。

やっぱりその通りなんだ。このみちゃんは、私たちの邪魔をしに来てるんだ。あ、でも好みちゃん的には邪魔をした方がいいのかな? ほら、私って流されやすいし……。

「ま、お休みだからねー、海に来たいって思うのもごくごく自然なことね! ねぇ、順一ぃ」

「……」

「じゅ・ん・い・ちぃ?」

 このみちゃんが下中君を睨みつける。そうすると、不機嫌そうに黙っていた彼も、お手上げと言わんばかりに声を上げた。

「は、はい。そうです」

 下中君が投げやりに同意する。彼、無理やりこのみちゃんに連れてこられたんじゃないかな。荷物持ちをさせられたのかも。ちょっと不憫かも。

「ぐぬぬ……」

 懸さんが悔しそうに握りこぶしを作る。懸さんは間違いなくこのみちゃんの意図には気付いていないだろう。自分達のデートが邪魔されるって思って、悔しがっている感じだ。

 反面、このみちゃんの方は嬉しそうににやにやしている。

「折角出会えたんだしぃ、みんなで一緒に遊んだ方が楽しいわよねぇ。ねぇ、叶恵?」

「えっ!? ここで私に振るの!?」

「二人っきりよりも、人数が多い方が楽しいわよねえ!」

 ぐっと、このみちゃんに詰め寄られる。きりり、とした目つきで「絶対に断るな」って言ってるみたいだ。

「は、はは、はい……」

 圧倒されて、ついつい返事をしてしまった。

「あぁ~~。俺の、俺の青春がぁ……」

 懸さんが酷く残念そうに項垂れた。デートが台無しになっちゃった。それはそれで事実なんだけど、私も同じように項垂れてしまいそうだ。でも、そんな暇はなくって。

「こ、このみちゃん、どうして?」

 とにもかくにも、このみちゃんがここに来た理由をどうしても確かめたかった。多分、私が本当に断れるのか、心配なんだろうけど。

「いいでしょ、別に。やっぱり心配だったのよ。叶恵って流されやすいから」

 小声でこのみちゃんが返答してくれた。やっぱりね。はぁ、私ってそんなに信用できないくらい、頼りないのかなぁ。

「流されやすいのは否定しないけど……ちょっと、懸さんが可愛そうな気が……」

 そう言って、懸さんの方を見てみる。懸さんは項垂れてぷるぷると震えていたけど、急にぴたりと止まって、ものすごい速さで顔を上げた。

「うおおおおおおおお!!! 困難もなんてとねえええええ!! いや、むしろ困難があるからこそ燃え上がるモンってのがあんだ!! それこそ、まさに、青春だああああああああああああ!! 絶対、絶対に二人っきりになってやる!!」

 あっという間に懸さんのテンションがいつもの通りに戻った。というか、いつもより暑苦しいかも。「これを見ても、そう思う?」

「相変わらず、ちっとも堪えないねこの人……」

 このみちゃんが来て可哀そうだなんて思ったけど、火に油を注いだだけだったみたい。



「よっしゃあああああああ!! まずは砂浜で、砂山に埋められるアレをやるぞ!」

 早速、私たちはこのみちゃんと下中君を加えて遊ぶことになった。

 砂山に埋められるアレ。至極抽象的なんだけど、なんとなく分かる。寝転んだ人の上に砂を持って、こんもりとした山を作って遊ぶものだろう。

 気になるのは、誰の上に砂を積むのか、なんだけど、我先にとばったーんって懸さんが寝転んでしまった。

「さあ! 俺を埋めてくれ叶恵ちゃん!!」

 大の字に寝転んだ懸さんが、気合を入れて叫ぶ。気合は必要じゃないと思うし、埋めるっていうのも、なんか違うような気が……。

「埋めろって言われても……どうすればいいかな、このみちゃん」

「埋めればいいわよ」

 このみちゃんがさらっと涼しい顔で言い放つ。ぶっきらぼうで冷たい感じで言うものだから、砂を乗せるんじゃなくて、本当に穴を掘って埋めればいい、と言っているように聞こえた。

「そんな簡単に言われても……」

「じゃあ、重機呼びましょ、重機」

「重機っ!?」

 い、いきなり何を言うのかな、この子。

「ええ。埋めて欲しいんでしょう? だったら大量の砂を掘って被せてあげなくっちゃ。あ、それよりもドデカい穴でも掘って、生き埋めにでもする?」

「ちょ、ちょっと待ってよこのみちゃん。それやったら絶対危ないって。それに重機なんて……」

「お客さんと連絡先交換しておいたから、今すぐにでも呼べるわよ? 呼んだら来てくれるって言ってたし」

 そう言って、このみちゃんがスマホを取り出して電話をしようとする。

 どう考えてもこのみちゃんの様子がおかしい。心配して様子を見に来たとか、ただ単に邪魔をしに来ただけでは済まされない、執念みたいなものを感じる。ほ、本気で生き埋めになんかしないだろうけど、考えが過激になりすぎている……。

「分かった!! 受けて立つぞ!! これこそまさにせいしゅ……」

 私たちの会話を聞いていた懸さんまでも過激になっちゃった!?

「ちがーう!! 絶対青春じゃないからこれ!! ただの生き埋めにしかならないよっ!!」



「よーし! 次はビーチフラッグだ! フラッグは借りて差しておいた。さぁやるぞ!! おー!!」

 ひとまず、懸さんが生き埋めになるような事態は避けることができた。このみちゃんに重機を呼ばないでと説得して、懸さんにも別のことをしようと提案して、次に彼が提案したのが、ビーチフラッグだった。

 もちろん、懸さんはやる気満々だ。

「お、おー」

 私も拳を挙げて、ノリが良さそうに同意する。とりあえずはビーチフラッグなら生き埋めにされるような心配もないでしょう。十分に安全に遊べる。

 そもそも、私が別のことをしようと懸さんに提案したのだから、素直に楽しむべきなのは、私の方だろう。

「勝者は次にすることを決める権利を得るぞー!! おー!!」

「お、……お!? それ急に決めるの!?」

 全く聞いていない、というか、絶対に今決めたでしょ懸さん!

「どう考えても懸が勝つじゃないの。ハンデ付けてよハンデ」

 このみちゃんが不服そうに申し立てる。過激なことを言わなくて良かった。

 それにこのみちゃんの異議申し立てには私も大賛成。うんうんと頷いて懸さんを見る。

「そうだな。なら、俺と順一は五メートル後ろから始めるか」

 無事私たちの提案は懸さんに届いた。

「俺もっすか、アニキ」

「他二人は女子なんだ、仕方ない仕方ない」

 納得しかねる様子の下中君を連れて、懸さんが下がっていく。

「うーん、ハンデがあっても勝てそうな気がしないような……」

 男女差もあるし、砂浜で足元もおぼつかない。懸さんは運動神経もかなりいいから、例えハンデあっても、そう簡単には勝てないだろう

「勝たせるわけにはいかないわね」

「なんで?」

「どーせ、懸のことだから、アンタと二人っきりになろうって魂胆よ」

 あ、そっか。勝った人が次に何をするか決められるんだ。懸さんならきっとそうするだろう。

 あれ? でも、私の目的は懸さんにちゃんと自分の想いを伝えることであって、二人きりになった方がやっぱり言い易くて、つまりは懸さんが勝って二人きりになれたら、それはそれで願ったりかなったりな気がするんだけども。

「任せといて。勝たせないから」

 このみちゃんが眉をきりりとさせる。とても頼りになりそうだ。

 でも、そんなにやる気にならなくたっていいと思うんだけどなぁ。

 とりあえず、私たちも位置についた。フラッグの刺した場所に足を向けて、砂浜に寝転ぶ。お腹や胸に、陽で温まった白い砂の熱が伝わる。

 目線の先には、同じように寝転ぶ懸さんと下中君の姿もあった。

 そして、

「よーい、ドン!!」

 準備を済ませた懸さんが開始の合図を告げた。

 合図を言う人はやっぱり有利だ。懸さんがすぐに立ち上がって、私もそれを見てからやっと立ち上がることができた。

 それから振り返って走り出す。砂浜に足を取られて、本当に走り辛い。

 頑張って全力で走って見たんだけど、普段の半分の速度も出ていなかった。

 これじゃ、懸さんが勝っちゃうかな。

 そう思って左右を見てみたんだけど、誰もいなかった。

 あ、あれ?

 振り返ると、ちょうど懸さんがこのみちゃんの横を通ろうとしていた。このみちゃんは、スタート地点で立ち上がっただけで、全く進んでいなかった。

 そして、懸さんがこのみちゃんの真横に来たとき。

 このみちゃんが片足をすっと懸さんの足もとに差し出して、すってーん、と懸さんが転んでしまった。

 にぃ、とこのみちゃんが笑う。

 なるほど。このみちゃんが動いていなかったのは、懸さんを転ばせるためで、それはひいては私を勝たせるためであって……。 

 つまり、私は頑張って走らなくちゃいけないんだね!

 このみちゃんが私を勝たせようとしてくれた。なら、それに応えないと。

 そう思って、また全力で走る。下中君も来てはいなくて、完全に独走状態だ。

 一歩一歩着実に近づいて……。

 フラッグに飛びつくようにヘッドスライディングして、見事にキャッチ!

 やった、これで勝利だ。

「……って、本当に勝っちゃったの?」

 私はフラッグを持ったまま、体を起こし、その場にぺたりと坐り込む。

 別にその、勝つつもりはなかったんだけど、ノリというか、勢いというか、このみちゃんが私を頑張らせたというか、とにかく、勝ったことには変わりない。

 それはすなわち、私が次にすることを決めなくちゃいけないわけで……。

「じゃ、叶恵。次何する?」

 後を追ってきたこのみちゃんが、私にそう尋ねる。そう言われても、すぐには思いつかないんだけど。

 視線を逸らすと、体中砂まみれになった懸さんが、お祈りをするように両手を合わせて私を見ていた。めちゃくちゃ期待しているんだと思う、懸さんがしてほしいことを私がいうのを。

「どうしよ……」

 二人きりになって早く済ませてしまった方がいいのかもしれない。でも、このみちゃんがいるせいか、なんだかとっても言い辛くって……。

 うーん、うーんと悩んでしまう。悩んでいると鼻の中にすぅっと美味しそうなソースの焼ける匂いが入ってきた。

 海とは違うけど、海と言えばの名物。焼きそばの匂い。

 そう言えば、もう時間的にはお昼頃だ。そう思うとなんだかお腹が空いてきた。

「何か、食べない? お腹空いちゃった」

 私の提案は、無難に決まった。


 一度海の家で食事を取って、お腹を含ませてから再び砂浜に舞い戻って来た。

「よーし、じゃあ次は……」

 懸さんが砂浜に戻るなり、早速次のことを始めようとする。

「ちょっと待った。日焼け止め塗り直すわ」

 でも、このみちゃんが待ったをかけた。そして、ビーチパラソルの下のマットの上にごろん、と寝転んだ。

 日焼け止め。そうそう、日焼け止めって大事なんだよ。定期的に塗り直さないと効果がどんどん薄れちゃうんだもん。日に焼けるだけならまだしも、肌荒れとかニキビとかの原因になるから、忘れないようにしなくっちゃ。

 まぁ、私は忘れてたんだけど。私も塗り直そうかな。

 さて、私のことはさておき、このみちゃんはマットの上に寝転んだままで、ちっとも日焼け止めを塗り直そうとはしない。

 でもって、ちらちらと彼女が足を向けた側に立っている懸さんをちらちらと横目で見ている。

 これは、もしや……。

 このみちゃんの意図に気が付いて、小声で言ってみる。

「もしかして……このみちゃん誘惑してる?」

「……うっさい」

 このみちゃんが照れくさそうに頬を膨らませた。

 やっぱり。これはつまり、このみちゃんは懸さんに日焼け止めを塗って欲しいんだ。

 ちらりちらりと懸さんを期待を込めたまなざしで見る。

 しかし、懸さんは全く気が付いていないようで、このみちゃんが自分を見ていることにだってほとんど気にかけていなかった。下中君と何やら話をしているばかりだ。

「ねぇ……懸」

 これ以上は待ち続けることはできない。そう思ったのか、このみちゃんはついに口を割った。あのこのみちゃんが。かなり頑張っている。顔も真っ赤で、相当意を決しているんだ。

 頑張れ、このみちゃん。きっと、懸さんだって気付いてくれる。

懸さんが、はっとした。

頭をかいて、彼もちょっと照れたように、こう言った。

「分かった。じゃあ、男同士はあっちで塗るか」

 ぽん、と隣にいた下中君の肩に手を置く。

 ……なんにも分かってないじゃない。

「ちょっ!?」

 このみちゃんもこの反応にはさすがに驚いたようで、慌てて体を起こした。

「やっぱりこういうのは女同士男同士でやった方がいいもんな~。分かってる分かってる」

「いや、アニキそれは……」

 下中君も気付いているっていうのに、懸さんってば。

「ん? なんか俺、変な事言ったか?」

 これはもう全然だ。はぁ、と私までため息をついてしまいそうだよ。

 そして、二人は海の家の方に行ってしまった。多分、日焼け止めを買いに行くのだろうけど、海の家に売ってるのかな、日焼け止め。

 で、残された私とこのみちゃん。

 このみちゃんはそそくさとまた寝転んでしまった。

「叶恵。背中お願い」

 私に頼む彼女の声はどこかふてくされているようだった。 

「いいの?」

「いいからやって!!」

「は、はいぃ!!」

 命令されて、私は仕方なく引き受けた。懸さんも懸さんだけど、このみちゃんもこのみちゃんかも。もっとはっきりと言えばよかったのに。引いちゃうんだから。あの人にははっきりと言わないと、伝わらないのかもね。



 さて、結果的に午後の最初の遊びは、実にシンプルなものからスタートすることになった。

 私たちがいるのは海。もちろん、砂浜も含めた場所としてはずっと海にいたけれど、今いるのは世界中を満たしている海水の一部分としての海だ。

「あー、ダメだ。ナマコいねぇ!」

「何探してるんすかアニキ」

 潜ってた懸さんが立ち上がった。ここはまだ浅瀬も浅瀬で、背の低い私も下中君も、多分幼稚園児だって足がつくくらいのところだ。そんなところにナマコっているの? っていうか、この海ナマコいる?

 下中君の指摘ももっともだ。

「やっ!!」

 と、懸さんが水面にあがってきた直後に、このみちゃんが掛け声を上げた。

「うおっ!!? いたっ!!」

 掛け声をあげてまで行ったのは、手に持った水鉄砲を懸さんの顔面に発射したことだった。

「隙あり。最近の水鉄砲って結構威力高いのね」

 にやにやとこのみちゃんが笑う。大層満足げだ。水鉄砲はかなりおっきくて、直撃したら痛そうだ。

「このみぃ~。仕返しだっ!!!」

 今度は懸さんの番。とは言っても、彼は水鉄砲を持っていないから、海水を掬ってこのみちゃんの方へ向けてかけるだけ。

 掬った海水が、ばしゃっと音を立てて放射状に飛んでくる。私はこのみちゃんの隣に立っていたから、ちょうど私の方を目がけて飛んでいるように見えた。

 っていうか、私に飛んできてる。

「ぶっ!!!」

「あ、叶恵にかかった」

「わりぃ、叶恵ちゃん! くっそぉ~、盾にしたなこのみ~」

「アンタが水救い過ぎなのよ」

 そのどっちでもないと思う。このみちゃんは全く動いてもいないし、懸さんが単純に狙い損なって、私に命中しちゃっただけなんだと思う。

「このぉ!!!」

 と懸さんがまたも水を掬おうとする。

 また、私に当たるんじゃないかな。というか、このまま何もしないって言うのも、ちょっと味気ない。

「……えいっ!!!」

 だから、私も思い切って懸さんに向かって水をかけてみた。

「ぶっ!!」

 私の放った水は、屈んでいた懸さんの顔面に命中した

「ナイス叶恵」

 このみちゃんが私に向かって親指を立てる。悪い気はしないかな。私もなんだかんだで、こういう遊びをしたかったし。

「か、叶恵ちゃんまで……おのれぇ! 叶恵ちゃんを返せえええ!」

「返すも何もないでしょ。バカ」

 それに、この二人のやりとりを見ているのも結構楽しかった。息がぴったりで、さすがは幼馴染って感じがする。やっぱりお似合いだね、この二人。

「俺、帰ってもいいっすか?」

 ひとり取り残されていた下中君が、寂しげにつぶやいた。


 しばし遊んで、日が少し弱くなったころ。だいたい、三時過ぎくらいになったころかな。

「ちょっと。疲れたから休むわ」

 と、このみちゃんが急にそんなことを言った。このみちゃんはそのままパラソルの下のマットの上に寝転びんだのだけど、なんだか表情からも疲れが見えていた。

「大丈夫、このみちゃん?」

 心配で、このみちゃんを追いかけて言って、私は尋ねた。

「大丈夫。体が弱いわけじゃないから」

 戻っていいよ、と犬でも追い払うような手振りを見せる。体調を崩した、と言う訳ではなさそうだ。本人の言う通り、ただ疲れているだけなのだろう。でも、それにしては憂いを帯びた表情をしているような気がした。

 勘違い、であればいいんだけど。体だけじゃなくて、心までも疲労しているのなら、ちょっと心配かも。心配させているのは、私のせいでもあるはずだから。

「このみの奴、大丈夫か?」

 ひとまず、このみちゃんを置いて、遊んでいた場所まで戻ろうとする。途中で、懸さんが待っていた。懸さんはこのみちゃんが心配で、様子を見に行こうとしていたようだ。

「うん。自分ではそう言っているから、多分。ただ疲れているだけみたいだね」

 そのまま、このみちゃんの方に行ってもらいたいと思ったのだけど、

「叶恵ちゃんはどうだ?」

 すぐに、話が私の方へと向けられた。

 できれば、このみちゃんに注意を向けさせたい。ひとまずは話題に沿って答えておこう。

「私はぜんぜん……わっ!?」

 そうしようとしたとき、足がもつれた。ちょっとだけ歩こうとして、砂浜に足を取られてしまったからだろう。

 体勢が崩れて、前のめりに倒れそうになる。

「っと、大丈夫か?」

「う、うん……ってこれ」

 顔に温かい物が当たる。硬いけど柔らかい。懐かしさも感じる感触だ。

 それが、懸さんの胸板であると気付いたときに、私は現在の状況を察した。

 抱きとめられている。

抱きとめられてる!?

間違いなく、私が片頬を懸さんの胸に押し付けるような体勢になっていて、両肩を懸さんが持って支えている。その他もろもろ懸さんに私の肌とか水着部分が触れていて、かなり傍から見られていると思うと、かなり恥ずかしい格好だ。

顔が赤くなる、暇なんてなかった。何と言っても、この様子をこのみちゃんに見られていたら、と思うと……。

恐る恐るこのみちゃんのいる方に目を向ける。ちょうど目線だけを動かせば、このみちゃんの姿を見ることができた。

 恐る恐る彼女の様子をうかがう。お願い、見ていないで、寝転んだまま寝入っているとか、そんな、そんな……。

 そんな淡い期待はもろくも崩れ去った。

 じっとーとした目で、私たちをばっちりと見ていた。

 や、やばい! ど、どうしよう。誤解なんだけど、不可抗力なんだけど、私に別に特別な意図とか存在しないんですけど!

「は……これは……チャンス!!!」

 え? しばらく動かずしゃべらずでいた懸さんが、急に声を上げた。

 そして、私から離れ、手を引いて走り出してしまった。

「えっ、ちょ、ちょっと懸さん! どこ行くの!? っていうか腕引っ張らないでー!!!」

 腕を引っ張られてしまえば、ついて行くしかない。いや、振りほどこうと思えばできるんじゃないかな、とは思うんだけど、これはこれで、二人っきりになるチャンス?

 いやいや、でもこんな様子もこのみちゃんには絶対見られているわけで、もしかしたら、私のせいでこのみちゃんに入らぬ精神的な疲れを強いてしまっている可能性もあるわけで、ああ、このみちゃんは一体何を考えているんだろう。

 このみちゃんは私たちを止めるようなことは全くしなかった。


ども、作者です。


なんかちょっと長い気がしますね。長短の差が激しく、次回がかなり短いです。

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