ひとまず……相談?
「……で、なんなのよ、話って」
結局、お店にいる間には話をするチャンスが無かったから、帰り道の電車の中で私は話を切り出した。
「懸さんに誘われたの。明日、海に行こうって」
どんな反応が来るのか、ちょっと怖かったけど、このみちゃんは至って冷静そうに、ふーん、と一言つぶやいた。
「断ったんでしょうね?」
「それがね……断らなかったの。私、懸さんと海に行くつもり」
あの後、とくに確かめはしなかったけれど、懸さんは多分海に行くつもりになっているだろう。
私の返答に、このみちゃんは眉をひそめる。
「はぁ……やっぱりあんたって」
昨日このみちゃんの言っていたことがよみがえる。
「ち、違うよ、私は……」
「はーん、どうだか。やっぱり男をはべらせて……」
「そんなんじゃないって! 私一途だもん! 私、ワンちゃんのことだけだもん!」
「口だけならなんだって言えるわよね~。一途だろうがなんだって」
「本当にだよ! 私のこと信じて! それにね、よくよく考えればチャンスだよ。二人っきりになれれば……」
「二人っきり? やっぱりそういうこと考えて……やらしい」
「そういうこと考えてるのこのみちゃんだよね!? 二人っきりになったら昨日言っていたことを言うつもりなの。懸さんの想いには堪えられないって。私意は好きな人がいるって、ワンちゃんともキスしたって」
私は随分、頭に血が上っていたみたい。このみちゃんと言い合いだなんて、それこそなかったことだったから、自分が何を言っているのか、ちっとも理解できていなかった。
「……キス?」
「はっ!?」
このみちゃんに繰り返し言われて、やっと気が付いた。顔がみるみる熱くなっていく。多分、ゆでだこみたいに真っ赤になっている。そんな自分の姿を見てか、このみちゃんの表情も不機嫌そうな顔からにったりとしたねちっこい笑みに変っていく。
「へぇ~~~~、キス、したんだぁ。あの大神とねぇ~~~。へぇ~~~、随分とお進み具合がよろしいようで~~~~」
「あっ、ちがっ……わない……けど……」
「ねぇ、どっちからキスしたの? アンタから……は考えられないのよねぇ」
このみちゃんは根掘り葉掘り聞き出すつもりらしい。多分、私が言ったことのおかげで、懸さんとの脈が完全に無いと判断したのだろう。とても穏やかな緩い表情をしている。ちょっとだけ、緩すぎてゲスい顔になってる気がするけれど。
「……ワンちゃんから」
答えないで待つこともできたと思うけど、駅に到着するまで延々と追及は続くだろうから、さっさと言ってしまった。
「やったじゃ~ん! 両想いじゃない!」
「わ、わかんないよっ! 何も言われてないし……」
「告白とかされてないの?」
「うん」
「キスされたときホントに何も言われなかったの?」
「何もって訳じゃないんだけど」
「なんて?」
「……マーキング」
「ぶっ! マーキングぅ!? あはははっ! 何なのよそれぇ! 完全にギャグじゃない!」
このみちゃんはげらげらと、それこそここが電車じゃなくて家だったらお腹を抱えて転げまわりそうなくらいに大笑いしている。そう笑われると、その、さすがに恥ずかしい。
「ぎゃ、ギャグってぇ・・・・・私もちょっと変だなぁ、とかドラマチックじゃないよなぁ、とか思ったけどぉ! だからって笑わないで欲しいなぁ。私のファーストキスなのに」
「あははは、ごめんごめん。あの大神がそんなこと言うなんてさぁ、想像しただけでも笑える」
「むぅ……分かってない」
「分かった、分った。もう笑わないから。はぁーおっかしー」
「つまりは、アンタは大神の想いを裏切らないためにも、かならず断んなきゃね」
「ワンちゃんの気持ちは分かんないけど……うん。絶対に断るから」
「……絶対に、アンタの本当の気持ち、伝えなさいよ?」
「うん。信用して、このみちゃん」
電車は駅に大分近づいてきている。それは、明日に近づいているのと同じこと。それは、私の決断が、勇気の必要な行動が近づいているのと同じこと。
明日は、がんばらなくっちゃ。
最寄りの駅のプラットフォームへと入っていく電車の中で、私はひっそりと心を決めていた。
ども、作者です。
短っ!!!




