久しぶりの・・・・・・えっと?
放課後、私は陰り始めた日の光の入る教室で、箒を掃いていた。掃除中です。決して、掃除当番と言うわけじゃないんだけど、誰もやらないせいで教室が悲惨な状況になっているから、見るに見かねて掃除をしているの。
すぐに誰もいなくなるから掃除を始めるのはすごく楽だったんだけど、始めてみると後悔しそうなほどに大変で、気が滅入りそう。
このみちゃんとか、女の子の席の近くは比較的綺麗なんだけど、それ以外がもう凄惨の一言に尽きる。食べかすやほこりはもちろんのこと、教科書やノートの切れ端、コンビニの袋、その上あまり見たくないいやらしい本がちらほらと落ちている。先生は一体どんな気持ちでこの教室を教壇から見渡しているのだろうか。
全部ゴミ箱に入れてしまおう。ゴミ箱の中はおかしなくらいすっからかんだった。男の子はゴミを捨てない修正でもあるんじゃないかと疑ってしまう。
やろうと決めた以上はやらなくっちゃ。小さい事で大きな事でもそれは変わらない。よし、と気合を入れた時だった。
「あれ、叶恵ちゃん?」
教室に誰かが入ってきた。顔を見ると、私が良く話していたクラスメートの……。
「え、え~と……」
か、顔は見覚えがあるんだけどなぁ、どうしたことだろう、名前が全く思い出せない。
「大樫だよ」
「あ、作治君! なんだか、こうやって話すの久しぶりだね」
あっさり忘れてしまっていたことを、私は笑ってごまかそうとする。だって、ちょっとでもこうしないと……。
「いや、いいよ。僕なんてそうそうスポットライトの当たらない、脇役中の脇役、ドラマで言えばエキストラ、いや、それよりももっと存在感の薄い、空から町を写したときにいる米粒みたいな人達と同じさ、あはは……」
あー!! や、やっぱり、またネガってる!!! 大樫君は異常なくらいネガティブになり易いし、しかも自分で自分のことを存在感な言って、その場から存在そのものを消そうとしちゃうんだもん! えーと、なんとか話題を見つけてしゃべらせないと……。
「こ、この教室おかしなくらい汚いよね!」
「……そう、だね」
ま、まだ話しにうまく乗ってきてくれないなぁ。すっかり項垂れて、今にも消え入りそうな顔色をしている。
「こんなに汚い教室で一日を過ごすなんて嫌だと思わない?」
「あ、うん」
「だからね、一緒に掃除しよっ!」
ちょ、ちょっと無理やりすぎたかな。でも、作治君は顔を上げて、血色のいい顔をしている。
「いいよ。叶恵ちゃんだけでやるのは大変そうだからね」
良かった。完全にネガティブからは脱してくれたみたいだ。こんな風に彼のメンタルケアをしながらコミュニケーションを取るのは、ちょっとだけ楽しいかも。面倒だとも思うけどね。
二人でやるだけでも、掃除の効率は結構よくなった気がする。というか、作治君は結構掃除に手慣れているらしく、かなりてきぱきと掃除をこなしている。
「作治君って、主夫が似合いそうだね。家事とか日常的にやってそう」
「叶恵ちゃんにはそう見えるの? でも、残念。家事は全部家の人に任せてるんだ。僕は何にもやってないよ」
「そうなんだ。ちょっともったいないね。結構家事が得意そうなのに」
「そうでもないよ。少なくとも今は役に立ってるから」
「……ありがと、手伝ってくれて」
その場のノリ、みたいな感じで手伝わせちゃったから、ちょっとだけ後ろめたい気持ちを抱えている。教室もかなり綺麗になってきたし、本当に感謝してる。
「ねぇ、叶恵ちゃん」
「何?」
「君のことを良く耳にするんだ。でも、詳しいことはよく知らない。だから、真に受けてもらえないかもしれないけど、一つだけアドバイスがあるんだ」
作治君はいつになく真剣な顔で、
「湯川君とはこれ以上関わらない方がいいと思う」
と告げた。
「僕は去年からこの学校にいたから良く知ってるんだ。彼が何をしたか。それに、今の状況は彼が自分から臨んだ事。無理に関わり合いになる必要はないよ」
作治君も、やっぱり真虎君のことは良く知っていたみたい。だから、こういうことが言えるんだと思う。
少し前だったら、こうやって反対意見を言われたら、何も考えずにどうして、と聞き返していた。今は、違う。どうして私にアドバイスをしてくれるのかは十分に伝わっている。私のことを考えてくれていないと、こういうことは言ってくれない。
「ありがと。自分でも無茶な事してるんだなぁ、ってつくづく思い知らされる時があるもん。ほら、真虎君って全然人の話聞いてくれないじゃない。最近は話すらできてないけど」
それでも、いつかはちゃんと彼の耳に私の声が届くと思う。人と動物じゃないんだもん。私にだって、真虎君のためにできることがあるはず。
「でも、私は諦めないよ。それが一番いいって信じてるんだもん」
「……そっか」
作治君はゆったりと頬を緩める。
「じゃあ、僕にも何かできることがあったら言ってよ。掃除をする以上には、役に立てるよ」
「分かった。ありがとね」
私は、今もなお、誰かの助けがないと何もできないでいる。そこから抜け出そうって思っていたけど、そんなことしなくていいんだ。
人は誰かと協力し合っている。私にはいろんな人が協力してくれているけれど、真虎君は誰からの協力も拒んでいる。一人っきりでいるなんて寂しいだけで、何かができるようになるわけでもない。
私はそう信じてる。だから、真虎君に協力しようとしているんだ。一人じゃないって、真虎君に教えてあげるために……。
ども、作者です。どうやら、一つ話を抜かしてしまっていたようです。ですので、初めての挿入更新です。いやぁ~、作者にも登場する話をわすれられるだなんて、なんて悲しい存在なんでしょう。ちなみに、この話を書くまで彼の下の名前もすっかり忘れていました。




