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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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34/105

このみちゃんの……心の中?

ども、作者です。一応、更新はできました。ちょっと遅れましたが。

 ぺっとりと前髪が汗のせいでくっついている。けれど、不思議と暑いわけではない。窓から入ってくる風が、教室を通り抜けて廊下に出ていく。それが涼しいからだ。目を瞑っていると、それがいかに心地いいかが良く分かる。思わず眠ってしまったくらいだ。

「……サン」

 こんな学校だけど、授業中は意外と静かなことが多い。まぁ、生徒達も個性的だけど、先生たちも総じて個性的だから、落差は激しいのだけど、今の授業は比較的静かな方。もっとも、静かだからと言って、きちんと授業を聞いているわけではないんだけど。それに、寝ちゃってて、やっと意識を取り戻したところだから、他の人のことを言えた義理はないよね。

「……エサン!」

 ……あれ? 何か大きな音が聞こえる。もうチャイムでも鳴る時間なのかな。目を強く瞑り、細く目を開けると、飛び込んできたのはまっさらなノートと綺麗な教科書が、なぜだか濃い影に覆われている景色。私の影にしては、あまりに大きすぎるような……。

「ハキエサン!!」

 また、大きな……あ、これって、声? 頭上から落っこちてくる雷のような、激しい声。

 はっ、と思って恐る恐る顔を上げてみる。よくよく聞いたことのある声だ。できれば、私の思い通りであってほしくなかったんだけど……。

「……」

 腕組みをしながら私を見下ろす、スーツ姿の金髪の白人男性が、大黒柱のように雄々しく経っていた。

「ダズィ……せんせ……」

 ペン! と、先生が持っていた先の赤い教鞭が脳天に直撃する。痛い。

「ノー!! ナニを寝ているんデスカ!? ぐっすりすやすやと、まるで二度と起きないカワバタヤスナリの「眠りの美女」でも気取っているんデスカァ!? ンノオオオ!!! そんなんじゃいけマセーン!! ニッポンの女子高生はみな、「女生徒」のようにしていなければァ、いけないのデース!!」

 はぁ、先生が良く分からない説教を始めちゃったよ。まぁ、私が寝てたのが悪いんだけど。

「わかりましたカァ、ハキエサーン!」

「は、はいっ!!」

 突然「わかりましたか」なんて言われたら、ついつい返事をしてしまう。あんまり本とか読まないから、先生が何を言っているのかちっとも分からないんだけど。くすくすと笑い声も聞こえる。どうして私ばっかり。他にも寝てる子いるのに……。ん? 先生、今私のことなんて呼んだ?

「それデハ、次のページをハキエサンあなたに読んでもらいマース」

 は、ハキエって誰? いや、私のことを言いたいのは分かるんだけども!

「何ポカーンと口を開けているんデスカ? ハキエさん、早く続きを読んでクダサイ」

「あ、あの、先生。先生が呼んでいる私の名前、名前違うんですけど……」

「ン~? ナニを言っているんですか? そう言って時間稼ぎでもしようと言うのデースカ? そんな精神じゃダメデスヨ、サキミヤハキエサン!」

 先生はばしっ! と教鞭を私に向けて、決めゼリフでも言った後のようにドヤ顔を私に向ける。でも間違っている。また、くすくすと漏れる笑い声が聞こえ、私が怒られていることを笑われているんじゃなくて、先生が私のことをハキエと呼んでいることに堪らずに吹きだしていることに気が付いた。

「先生、私の名前、咲宮叶恵です」

「サキミヤカナエ? ワタシはきちんと出席簿を見て生徒のナマエを覚えてイマース。間違っているわけありまセーン!」

「あ、あの……国語の先生に言うのはあれなんですけど……多分、漢字の読み、間違っています。吐じゃなくて、叶です」

 私は宙に文字を書きながら説明する。特に、吐にはあって、叶にはない最後の横棒の有無を強調しながら。ただ、それを見せてもダズィ先生は納得をしていないらしく、片眉を上げてまだ怪しんでいるみたい。

「とりあえず、次のページから読んでクダサーイ」

 先生は私に背中を見せると、それだけ言って教卓の方へ戻ってしまった。なんだか、納得いかないなぁ。

 私が渋々教科書を読み上げている最中に、先生は出席簿と電子辞書を見比べていた。なんだかんだで出席簿の文字と見比べてくれていたみたいで、その後に一応謝罪をしてくれた。


 次の授業は移動教室の選択授業だ。うーん、と私が背伸びをしている間にも、椅子を引いたり押したりする騒がしい音が教室中にこだまして、続々と背後にある出入り口からみんなが廊下へと出ていく。私も、早く準備をしなくっちゃ。

「よ、ハキエサン!」

 ぽん、と後ろから私の肩に手が乗せられる。振り返る間に、私は思わず口を尖らせて渋い顔をしてしまう。案の定、背後にはいつまでも遊べるおもちゃでも見つけたような、悪戯大好きの小僧みたいな満面気色のこのみちゃんがいた。

「ドーシタンデスカァ、ハキエサーン」

「ダズィ先生の真似したってダメ。もー、また私をいじめる気?」

「ははっ、愛のある弄りよ。それに結構似合ってると思うけどなぁ」

「似合ってない!」

 けたけた、けたけたと私の言ったことに反応するこのみちゃんは実に愉快そうだ。思わず、私の頬も緩んでしまう。もちろん、ハキエ、だなんていつでも体調が悪そうなあだ名をずっと呼ばれるのは嫌だけど、こうやって弄ってくれる「友達」がいるのは、なんだか嬉しい気分だ。

「あれ、このみちゃんどこ行くの?」

 良く見てみれば、このみちゃんはまるで下校をする時みたいにバッグを肩にかけていた。次の授業にそんなにたくさん荷物がいるのってあったかなぁ?

「次の授業芸術科目でしょ? アタシ、音楽だからさみんなと遊びに行くんだ」

「サボるの!?」

「そうよ? 音楽女マイケルだし、サボっても結構大目に見てもらえるのよねー」

 このみちゃんは全く悪びれる様子も無く、ちょっとコンビニに行ってくる、みたいなノリだ。ちなみに、女マイケルは音楽の先生のあだ名で、女顔の堀が深くって外国人の男性に似ている女の先生のことらしい。私はまだ会ったことがないんだけど。

「アンタもサボる?」

 まるで小悪魔がささやくみたいに、このみちゃんは魅惑的な提案をする。でも、私は首を振った。

「美術の先生、厳しいから遠慮しとく」

 そう答えると、このみちゃんも「あ~、じゃあ仕方ないわね」と納得する。美術の先生は、一見すると体育教師に見えそうなほどに筋骨隆々な男の先生だ。この学校で一、二を争う厳しさらしく、美術を選択している子は、私以外にほんの数人しかいないほどだ。私も、先生について良く知っていたら音楽を選んでいたんだけどなぁ。もちろん、サボる気は全くないんだけどね。

「じゃ、三人待たせてるからアタシは行くね~」

「うん、補導されないようにね」

 このみちゃんが教室を出ていくのを見送る。我ながら、友達ならここはこのみちゃんを止めた方がいいのでは? と思うのだけど、言っても効果無さそうだし、何よりこのみちゃんが楽しそうだからいっか。そんなことより、私も早く準備しなくっちゃ。


 鞄から薄っぺらいレタリングノートを取り出して、美術室へ向かう。階段から下の階におりて、特別教室棟に行かなくっちゃならない。ちょっと面倒だ。

 廊下を突っ切って、階段までついた時に、下段の踊り場から声が聞こえてきた。

「このみさ、どういうつもりなのさ?」

 女の子の声で、聞きなれた名前が呼ばれる。そっと、踊り場を上から覗いてみると、このみちゃんと、いつも仲のいい三人がいた。でも、雰囲気がいつもと違う。

 いつもなら楽しそう、というかこのみちゃんを中心にして回りの三人が騒いでいるような感じなのだけど、今は三人とこのみちゃん一人の間に、線が引かれているみたいだ。

「どーゆーつもりって、何が?」

 このみちゃんは、さっき私と軽口を言い合ったときのような、明るい表情をしている。それなのに、他の三人はむすっとしていて、このみちゃんへ怒っているみたいだ。

 何かあったのかな?

「どうして、あの子と関わろうとするの?」

「あの子って、あー、叶恵のこと?」

 自分の名前を突然に呼ばれ、びくり、としてしまう。どうして、私のことが関わるのか気になり、息を潜めたまま聞き耳を立てる。

「私たちはねー、あまり良く思ってないのよねー」

「フーミン達はあいつのことまだ嫌ってんの?」

「問題はあいつのことじゃないの。このみ、アンタが仲良くしようっていうのが気に入らないってことなの」

「気に入らない?」

「だって、このみにとってあの子は恋敵なの。このまま仲良くしてたっていい事なんて一つもないと思うの」

 ……決して、私のことを悪く言われているわけじゃない。けれど、なんだか胸が痛んでしまう。このみちゃんに構ってもらっているけれど、それをこのみちゃんの友達が嫌がっているのなら、私はあまり関わらない方がいいんじゃないのかな。

「はぁ、そんなこと気にしてたのアンタ達」

「そ、そんなことってさ……アタシ達はこのみのことを考えてさ……」

「それは良く分かってるよ。ありがとね、アタシの恋、応援してくれて。みんなみたいな友達を持てて、アタシは嬉しいよ」

 でも、とこのみちゃんは続ける。

「アタシの恋を応援してくれるって言うなら、叶恵だってそうしてくれたよ。アイツが恋敵っていうか、懸が馬鹿みたいに惚れている相手だってのはアタシだって嫌って程に分かってるわよ」

「でも、そんな子と仲良くしてたら……」

「どっちも変わんないじゃん。仲良くしてたって、仲良くしてなくたって。それにさ、アイツだってもうアタシの友達なの。友達や仲間を大切にしろって、懸の口癖でしょ?」

 胸の内が震えるような感動。このみちゃんも、私を友達だって、思っていてくれている。それだけでも感動を覚えるのには十分だった。

「アンタらも懸のそれを正しいと思ってるから、ついていってるんでしょ」

 三人は少し戸惑っていたようだったけれど、こくり、と頷いて見せた。

「だったら、これ以上言うことはないわね。もちろん、アンタ達だってアタシの最高の友達なんだから、これからもよろしくね」

 このみちゃんがそう言っている最中だった。

「このみちゃああああああああん!」

「うぇっ!? 叶恵!?」

 私はもう我慢できなかった。胸のうちだけでこの感動を押し留めていることはもうできなかった。気が付いた時には階段を駆け下りて、このみちゃんに抱き付いていた。

「このみちゃんがそんなに思ってくれてただなんて、知らなかった! ありがとう、私もこのみちゃんのこと大好きだよおおおお!!」

 チャイムがもうなっていたけれど、私は思い切り、このみちゃんを強く抱きしめる。

「ちょ、ちょっと。叶恵何やってんの!! は、恥ずかしいから離れなさいって! ほら、もう授業でしょ! いかないとまずいんじゃないのって、ちょっと、いい加減に離れなさいっての!!!」

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