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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
PR
33/105

騒がしいのも……日常のうち?

足取りが軽い。まるで、今はいているローファーが弾んでいるみたい。校舎へと続く坂道は相変わらず険しいけれど、今ならあっという間に駆け抜けることができそうだ。

 今日も空は青々としていて、太陽は何の恨みがあってか、私たちの脳天や肌に紫外線を遠慮なく降り注いでいる。でも、紫外線のせいでシミができるのだって、日焼け止めを忘れたせいで肌が焼けちゃうことだって、今なら気にならない。坂道の右側で生い茂っている、丘の斜面に立っている木々も、この太陽のおかげで喜んでいるに違いない。まるで、アルコールをたっぷりと摂取できる金曜の夜のサラリーマンみたいに喜び勇んで光合成をしまくっていることだろう。私も負けちゃいけない。光合成でもしてやるくらい、私だってハイテンションで……。

 いや、やっぱ無理。暑い!! 坂には日陰も何もないし、アスファルトは太陽に反抗するみたいに熱を放射しているし、まだ五月の終わりだっていうのに、なんでこんなに暑いの!?

 あー、ゾンビか何かだったら今の私は絶対に溶けてしまっているわ。今もゾンビみたいに猫背になって、うだ~ってしながら歩いているし……はぁ、学校休めばよかったかな……。

 はっ!? いけない。それじゃダメ。私が誰よりも学校を楽しんでいないと。いつ真虎君が来てもいいように、学校を楽しんでいるいい見本になっていなくっちゃ。

 改めて、背筋をピンと伸ばす。気持ちを爽やかにしていれば、一足早い夏の暑さもどうってことない。そう思いながら歩き出す。

 太陽なんてどうってことはないと信じながら歩いていると、不思議と体が暑さを感じなくなった。その上、丘の木々の間から吹いて来た涼しげな風が、汗ばんだ白い夏服を通り抜ける。また、軽い足取りを取り戻して、警戒にステップを踏む小鳥みたいに、坂を駆け上がり、昇降口へと続く一本道も、あっという間に通り抜ける。もちろん、暑さなんて全然感じない。

 そう、大事なのは心の持ちようなんだ。辛いと思っていれば辛い、楽しいと思っていれば楽しい。心頭滅却火もまた涼しって……えーっと、武田信玄だっけ? が言っていたはず! ま、まぁ、誰が言っていたかなんてどうでもいけど、とにかく私が爽やかだと思っていれば、周りなんて全然関係ないってこと。

「テメ、ぶち殺したんぞコラぁあああああああああ!!!!」

 全然爽やかじゃないことが聞こえてきたぁあぁぁあ。

「やって見ろやコラ!! 逆にテメェの内臓引きずり出してぶっ殺してやるよ!!!」

 あー、これ完全に喧嘩ムードだよ……。声の聞こえてくるのは昇降口の辺りだ。今私が立っているのは、桜並木の一本道。今ではすっかり緑の葉を付けていて、いつ毛虫が落ちてくるか分からない、恐怖の屋根と化している。

 そして、その先にある階段を登れば昇降口は目と鼻の先だ。私は急いでそこを駆け上がった。あの空気の読めない声のせいで、すっかり暑さを取り戻してしまった。

 ただ、階段を登りきると、そこはもっともっと熱いところだった。昇降口の真正面で、学ラン姿の二人の男子がガンを飛ばし合い、口汚くののしり合っている。さらに、その周りを他の生徒たちが取り囲んでいて、早くやれ! だの、さっさと殺し合え! だの、やんややんやとヤジを飛ばしている。とにかく熱が入っているのはそのやじ馬たちで、学ラン姿の彼らから熱気が立ち上っている。ただでさえ見た目が暑苦しいのに、その上、むんむんと湯気がでるくらい熱くなっている。メガネがあったら今頃曇ってしまっていたことだろう。

 喧嘩を見物しているだけなのに、なんて熱狂具合だろう。喧嘩が起こるのは日常的なことだから、私ももう慣れてしまっちゃったのだけど。

 それに、昇降口のど真ん中で喧嘩を始められたら、教室に行けなくて困ってしまう。周りを見ても、そう思っているのは私だけみたいだけどね。

 でも、やっぱり喧嘩は止めないと。こんなことをしているところは、決して楽しいことだとは思えないもの。そこは変えておかなくちゃいけない部分なんだ。真虎君が学校に帰ってきたときに、楽しい場所だと思ってもらうためにも。

 でも、でも……やっぱり怖いよぉ……。だって、ガンを飛ばし合って、見つめ合う視線で火花でも散らしている二人の姿、普通じゃないもん。一人は肩までかかる赤い長髪で、顔中ピアスだからけだし、もう一人はモヒカン頭で、雷みたいな刺青が頭皮に描かれているし。

 足がすくんで動けなくなりそう。それでも、一歩、足を踏み出そうとする。でも、足はさっきのことが嘘のように、重たくって、なかなか踏み出せない。

 でも、私は知っている。こんなことは気持ちの問題なんだ。勇気を出せば、大丈夫、私にだってできるって言い聞かせれば、何も怖くなんてないと、自分に言い聞かせる。

 今の私には、やれることをやるしかない。こんなこともできなければ、真虎君を説得するなんて、できるわけがない!

 まだ少し重い足を一歩、そして二歩目を踏み出す。動き出したら、次第に足は軽くなった。私の気持ちが、恐怖を押し留めてくれている。振り絞った勇気が、それを可能にしたんだ。今の私なら、なんでもできる。

「二人とも、こんなとこで喧嘩しないでよ!」

 近寄って、二人に向かって、私は言い切った。お互いしか見えていないと思えるほどガンを飛ばし合っていた二人が、顔を私に向ける。

 ぎろり、と四つの力強い目が私を睨みつける。ひるみそうになるけど、もう、引き下がれない。何を言われても、言い返してやるんだから。

 と、思っていたのだけど、二人は再び、私から顔をそむけ、

「おい! テメェ、ぶっ殺してやるよ!」

「おぉ!? 上等だコラ!!」

 二人の罵り合いに戻ってしまった。……って、

「ちょっと!! なんで無視するの!!?」

 私が叫ぶと、くすくすと、やじ馬たちの中から、控えめの笑い声が漏れた。顔に熱がこもる。鏡を見なくても分かるくらいに、顔が紅潮していることだろう。

 二人は相変わらず罵り合っている。もちろん、私の声も完全に耳に入っていないつもりらしい。

「止めなさいって言ってるでしょ!!」

 三度目ともなると、どうしても声を荒げてしまう。でも、それだってまた無視されて、今度はどかっと、やじ馬から笑い声が上がり、大爆笑に包まれた。

 間違いなく、私は馬鹿にされている。どう考えても、おかしいのはこんなところで喧嘩をおっぱじめる二人だっていうのに。彼らにしたら、私の方がよっぽどバカみたいなことをしているらしい。恥ずかしいさよりも、憤りで体中の血液が煮え切ってしまいそうだ。

 笑い声の中から、「いい加減に相手をしてやれよ」と半笑いヤジが飛ぶと、モヒカンの方が、やれやれと言いたそうに、肩をすくめて私を見る。やれやれ、と言うべきは私の方だっていうのに。

「おいコラ、テメェ、そこのピアスの女かなんかか?」

「あ!? ンなわけねぇだろうが! 誰が好き好んでこんな平たい女と付き合うかボケ!」

 異を唱える暇もなく、ピアス顔のひじょーに失礼な言葉に遮られてしまう。何が何でも、喧嘩を止めさせてあげるんだから……。

「喧嘩するの、止めなさい」

 一言一言をはっきりと、子供にでも言い聞かせるように二人へと投げかける。今度は無視されることは無かった。でも、一人はニタリと笑って、もう一人は苛立ちを隠さずに、顔をしかめて鼻を持ち上げていた。

「お前に命令される筋合いはねえってんだよ!」

「お前みたいな陰キャに、こいつはともかく、俺のことが止められるだなんて思っているのかぁ!?」

「あぁ!? 俺がこいつに止めらるって暗にいいたいのかコラァ!!?」

「そう言ってんだよ、お前はいちいち確認しなくちゃ何もできないゴミかァ、アァン!?」

 私へ向けられていたモヒカンとピアスの視線は、あっという間にお互いに向き直る。この二人は無理やりにでも喧嘩をいたいのだろうか。

「だから、止めなさいって……」

 語気を荒げるのも馬鹿らしく思えてきた。

「あー!! テメェいい加減に黙れっての!!」

「俺らに構ってんじゃねーぞコラ!!」

もう、うんざり、と投げやりに口にした言葉に、今度は二人が大げさに反応する。二人はそろって、睨みつけ、ただでさえ強面の顔が、まるで仁王像のような怒気を湛える顔になっていた。

 な、なんというか、凄く今更な反応だ。あまりの剣幕に、つい後ずさりをしてしまう。

 どん、と背中が何か、いや、誰かにぶつかった。勢いづいてもいなくて、あまり痛みはしなかったが、飛び跳ねてしまいそうなくらい驚いてしまった。

「どうした、叶恵」

 一瞬誰だか分からず、振り返るのも怖かったけど、その声を耳にして、途端に落ち着きを取り戻した。

「ワンちゃん?」

 ぽん、と私の肩に手を置くワンちゃんは、私の隣に並び立った。

「いや、その……」

 また無茶をしでかしている、だなんて思われたくなくて、自分のやっていることを口にするのが躊躇われた。でも、よくよく考えれば、私の目の前にいる二人を見れば、一目瞭然だろう。

 む、と短い声が、ワンちゃんの口から洩れる。何をしていたのか、気付かれたと思う。ワンちゃん、怒らないよね……。

「おい、アイツ、裏番だろぉ?」

「あぁ、間違いねぇ……あの女、裏番と関係があったのか……」

 やじ馬たちがざわつき始める。これまでの熱狂とは違って、ワンちゃんの突然の登場によって、困惑しているみたいだ。

 でも、その困惑の色に飲み込まれているのは、やじ馬たちだけだった。

「おいおい、まさかそこのインキャ女が、裏番様の女だとは思わなかったなぁ」

「裏番先輩よぉ、俺達知ってるか? 一年生の間じゃあ、そーとー有名な悪だぜぇ?」

 二人は挑戦的な笑みを浮かべて、ワンちゃんに視線を移していた。っていうか、この二人私よりも年下だったの!?

「知らん」

「じゃあ、裏番様に教えて差し上げねぇとなぁ。おい、二人でやるぞ」

「おう! 俺ら一人一人じゃ敵わねぇかもしれねぇが、二人同時なら、裏番だって朝のホームルーム前でもぶっ倒せるぜ!」

 二人が協力の姿勢を見せ、ワンちゃんに敵意を向ける。君達二人ともさっきまで喧嘩してたんじゃないの? 

「叶恵、下がってろ」

 ワンちゃんもやる気満々!? わ、私、喧嘩を止めさせに入ったのに、ワンちゃんが二人と喧嘩するだなんて、それじゃ、私が割り入って喧嘩を止めさせようとした意味がないじゃない!

「だ、ダメだって、ワンちゃん!」

「うるせぇ! 俺達のメンツが掛かってんだ、女は黙ってやがれ!」

「俺らの名前のためだ! 女に入ってくる隙間はねぇぜ!」

 モヒカンとピアスは息ぴったりで、お互いに意見を一致させ合ってる。もしかして、私が喧嘩を止めさせようとする意味なんてなかったのってくらい、仲良しに見えるよぉ。

 でも、問題は変わらない。こんなとこで、ワンちゃんに喧嘩を刺せるわけにはいかない。でも……。

 ワンちゃんは拳を握って、どこからでもかかってこい、って体全身で言っているみたいな空気を纏っている。これ、完全にやる気満々な奴だ!?

 ど、どうしよう、このままじゃ、いつ喧嘩が始まってもおかしくない。やじ馬たちも、息をのんで見守っている。多分、今か今かと待ちわびているだけなんだろうけど。

 まさに一触即発の緊張感を漂わせる異質な空気。だったんだけど、それは突然に切り裂かれた。

 キャー! と少し離れたところから女の子の叫び声が聞こえた、かと思えば、今度は男の子の「な、なんだぁ!?」 と、困惑と驚きのないまぜになった声、それが波及するようにその声は数を増していく。

 私たちもやじ馬も、みんな叫び声の方角へと視線を向けていた。目線の先は、もう青々しくなった桜並木の方だ。

 驚きや困惑の原因は、空気を震わせ、ここにまでは聞こえてこないはずの爆音をとどろかせながら、やじ馬たちの向こうに姿を現した。

「青春、爆しぃいいいいいいいいん!!!」

 突如現れたのは、バイクだった。何度も何度もお世話になっているそのバイクの形、というか、ヘルメットをかぶって搭乗しているその人の特徴的なセリフのせいで、誰が一体何をしでかしているのか、考えなくともすぐに判明した。

 あれ? 桜並木と、ここに続くまでって、階段なかったっけ?

 そんな疑問なんて、考えること自体が無駄で、そこに階段があっても、無くても、この人がまた無茶をしでかして、坂道をバイクで駆けあがってここまで来てしまったのは、紛れもない事実なんだ。

 やじ馬たちが突然現れたバイクに、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。バイクは一直線に私たちへと直進すると、追突してしまう前に急ブレーキで停止した。

「叶恵ちゃああああん!!! やっぱりここに居ると思ったぜ!! なんてったって、今朝のメザマシの占いで一位だったからなあ!!」

 ヘルメットを外しながら、懸さんは機嫌が良さそうに高笑いする。が、ワンちゃんがいるのを見つけると、欲しいおもちゃを買ってもらえなかった子供みたいに、あからさまに不機嫌な顔になった。

「なぁんで、ワン公がいやがんだよ」

「それはこっちのセリフだ。今すぐバイク置いて来い」

「ンな必要ねーよ! 今から叶恵ちゃんとツーリングに行くんだからよ」

「え!? 何それ!?」

「占いのラッキーシチュエーションは好きな相手とツーリングだったんだ。叶恵ちゃん、俺と一緒に行こう。んん~~~、青春だあああああ!!」

「占いなんか信じやがって……バカ丸出しだな」

「占いは女心をつかむためにだいぃじなもんなんだぞ!!!」

「知るか。つーか、お前に女心なんか掴めるか」

「なにぃをおお!!?」

「……やるか?」

 あー、もう!! 気が付けばワンちゃんと懸さんが一触即発のムードになっているし!! こんなことしてる場合じゃないのに……。

 ちらり、とモヒカンとピアスの二人組の様子を横目に伺う。二人は何やらこそこそと耳打ちし合っていた。何か、悪だくみをしているのかもしれない。

「もう! ワンちゃんも懸さんも落ち着いて!!」

 私は二人の胸に手で押して、間に割って入る。そして、まずは懸さんに目を合わせた。

「懸さん。私はこれから授業があるから、ツーリングには行かないわ」

 そんな~、と懸さんは肩をがっくりと落とす。そんな反応をされると、なんだかいたたまれないなぁ。うーん、この前のこともあるし……。

「それと、バイクをちゃんと下に置いてくるんだよ? その、この前のお礼もあるから、ツーリングはできないかもだけど、また今度なら、どこか一緒に行こ?」

 言葉を選びながら言うと、懸さんはあっという間に晴れやかな顔になる。夏の天気よりもころころと表情が変わる人だ。

「おっけええええええええ!!!! 今すぐバイク置いてくるぜ!! うおおおおおおおおおおおおおおおお!! 青春だあああああああ!!!!」

 懸さんはすぐさまバイクに乗って、エンジンをフルパワーにして、元来た道を帰って行った。っていうか、ちょっと、きちんと先生たちが使ってる道路通りなよ!!!

 忠告する暇もなく、懸さんは見えなくなる。次は……。

 きっ、と今度は逆側にいるワンちゃんを見上げた。ワンちゃんは少し、驚いているように目を丸くしていた。

「ごめんね、ワンちゃん。今、私はあの二人の喧嘩を仲裁していたの。ワンちゃんが殺気だったら意味がないの。お願い、ちょっと我慢してて?」

「あ、ああ」

 ちょっと戸惑っていたようだったけれど、ワンちゃんは頷いてくれた。これでよし。後の問題は……。

 ワンちゃんから目を離し、二人組を見る。

 すると、未だに耳打ちをし合っていた二人は、私の視線に気が付くと、びくり、と肩を震わせて、飛び跳ねるようにして、姿勢をまっすぐにした。な、なんだろうこの反応……これまでとは別の意味で嫌な予感がする……。

「ちょっと、二人と……」

「分かりました!!! これからは二人とも、仲良くさせていただきます!!!」

 ……へ?

「まさか、番長も裏番も〆てしまう程のお方がいるだなんて、知りませんでした!!!」

「今後はせんぱ……いえ、姉御のご迷惑にならないよう、誠心誠意努力いたします!!!」

「え、いや、あの……姉御って、え?」

「で、では、俺達はもう喧嘩もせずに仲良く教室に向かうであります!!!」

 モヒカンとピアスは、まるで厳しい訓練でも受けた後の軍人のようなきびきびとした態度で告げると、全速力で校舎の中に入って行ってしまった。

 と、とても嫌な予感、というか、私には何が何だかイマイチ分からないのだけど、とても、とてーも、今後の学校生活におかしな影響を与えてしまうことが起きてしまったのではないかと不安なんだけど……。

「わ、ワンちゃん。姉御って、なにかな?」

 思わず、ワンちゃんへ確認を取るように尋ねる。

「ふ、さぁな」

 分からない、と顔をそっぽに向けながらも、彼は苦笑していた。……あ、姉御って、姉御って……。

 しばらく、私はそれが何を意味しているのか、頭を悩ませてしまうのだった。


ども、作者です。2週間ぶりの更新です。お待ちしていた方々、お待たせいたしました。いったいどれくらいいるのか、分かりませんけれども(笑)


続きもかけていますので来週も更新します。ただ、見直しをしながらなので、この話もちょっと直して再更新します。今回は修正なしなので、誤字とか多いと思いますが、来週に直ると思います。


ギャグ回に戻しました。早く書くために戻して、結局早くならなかったです(笑)

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