チャレンジ・・・・・・委員長!?
「あづい……」
ゴールデンウィークが明けてから数日。日々の暑さは陰りを見せることなく、梅雨に向けてぐんぐんと増加の一途を辿っている。朝から太陽は高く登っていて、日陰の少ない通学路を歩く私の姿は物干しざおに引っ掛けられた布団みたいにぐったりしていることだろう。ついこの間まで爽やかだった快晴の青空も、今となっては憎たらしい。せめて雲があれば、地獄のような日差しも遮ってくれるのに……。
校舎に向かう坂道に着くころには暑さと朝の気怠さのせいで目の前がぼや~っと靄がかかったような景色になっていた。あぁ、早くクーラーの効いた部屋に入りたい。でも教室はまだクーラー、つかないだろうなぁ……。
あぁ、頭までくらくらしてきた。あぁ、目の前が真っ暗になっていく。このまま、私はしんでしまうんじゃ……ああ、私の見えている一寸の先も闇なのね……。
と、歩いていたらドン、とその闇にぶつかった。
「あいたっ!? な、なに!?」
鼻につーんとした痛みが走り目がさえる。真っ暗だった景色は私が目を瞑っていたわけでも、意識を失ってしまいそうになっていたわけでもなく、目の前にある学ランを着た大きな背中だったみたい。
「あー、良かった。暑さで死んじゃうんじゃないかと思った……」
うんうん、きちんと水分も取ってたし、こんなことで死ぬわけないよね。落ち着いてほっ、と一息……
「なぁにが良かっただぁあ!?」
吐いてる場合じゃないみたい。目の前の学ランが振り返る……背の高くてガタイのいい、まさにこの学校の生徒といった不良だった。一気に暑さを感じなくなる。血の気が引いているんだ。今更涼しくなっても遅いよぉ……。
「ご、ごごご、ごめんなさい!」
思いっきり頭を下げる。
「ごめんですんだら警察なんていらねえええんだよおおお!!」
どっかで聞いたことあるセリフだ!!! 一か月前にも言われたよこれ!! この人も絶対テレビの見過ぎだよぉおおお!!
「ご、ごめんなさい、私の不注意でした、ごめんなさい! 今後気を付けますー!」
自衛隊ばりの反省態度でとにかく誠意をみせなくちゃ……。
「謝っても誠意なんか伝わんねえんだよ!!」
ダメだった。デスヨネー。
「じゃ、じゃあ、どうすれば……」
私がおずおずと聞くと学ランの男はにやりと笑った。
「そいつはよぉ……決まってるだろぉ?」
ごくり、と男は私の体を見ながら生唾を飲み込んだ。
「ちょっと待ったあああああああああああ!!!」
突然、私たちの間に一人の男の子が割って入って来た。背の低い、金髪の子、下中君だった。
あれ? こういうときはいつもワンちゃんが来てくれてたんだけど……。
「お、お前は……」
男が下中君を見るとたじろいで一歩退いた。
「こいつに手を出したら黙っちゃいねえぞ……」
ガンを飛ばす下中君は、自分よりも大きな人を前に一歩も引かない。も、もしかして下中君って見かけよりも強い……の?
「……俺たちの番長、懸さんがなあああ!!」
「くっ、あいつに目を付けられるのは御免だっ! ここは懸のやつに免じて許してやるっ!!」
男はそそくさと逃げ出して行った。……って、ええええええええ!?
「ン? どうした、そんなムンクの叫びみたいな顔して」
「い、いや、その……結局下中君がどかーんってやっつけるんじゃなくて、懸さんの名前を出すの?」
「あったりめぇだろ。なんで俺がお前のためなんかで、いかにも強そうなのと喧嘩しなくちゃなんねーんだよ」
「うっ、そ、それは……そうだね」
期待はしてたけど、下中君じゃ負けそうだし……。
「んな義理ねーんだよ、俺には。ま、アニキにならあるけどな」
「で、でも、さっきはなんで?」
「そりゃあ、この前の借りを返すためよ!」
「この前の、借り?」
私、何かしたっけ?
「ぽかーんとしやがって……。ほら、ゴールデンウィークのときだよ。お前らのおかげで俺達はパクられなくて済んだろ。その借りだよ」
ゴールデンウィークの……あ、エリーゼ公園でのことか。そういえば、下中君ってあの時補導されかけてたんだっけ? でも、私が何かしたというよりは、懸さんやワンちゃんやこのみちゃんが頑張ってただけで、私ってば何もしてないような……。
「とにかく、これでもう貸し借り無しだ。大神の野郎にも言っとけよ!」
そう言い残すと、下中君は走って校舎の方に向かって行った。うーん、結局私を助けてくれた理由、よく分かんなかったなぁ。
これからは誰かのためになることをしたいと思ってたのに、また助けられちゃった。こういう時も自分で乗り切れるようにならないと……体、鍛えてみる? うーん……筋肉ムキムキになった私……腕が太くて、腹筋が割れてて……うへぇ、想像するだけで気持ち悪……ただでさえない胸が余計になくなっちゃいそうだし……だめだめ、やっぱなし! 暑苦しいこと想像してないでさっさと教室に行こ!
校舎って素晴らしい。コンクリートの壁やワックスでてかてかしている木目の綺麗な床はひんやりとしているし、窓際にさえ行かなければ日にも当たらない。多少は涼しく感じる。なんだけど……目に映る男の子の大概がまだ学ランを着ている。きりっと格好をつけた強面な顔なのに、ほっぺに汗を垂らしたままで時折「今日はあっちーな!」と不満を零しているのが、なんだかバカっぽい。
いや、脱げばいいじゃんそれ。夏服でも暑いのに……いわゆる矜持ってやつ?
やっと涼しいところに来たのに、見てるこっちまで暑くなってくるよ、その恰好……。
むしむしと蒸気を上げる男子を横目に教室の前まで行くと、やっと涼しげな格好をしている人を見つけた。その上目があった。
「……オハヨ」
以外にも向こうから挨拶をしてきた。片言に聞こえそうな言葉を、少しぶすっとした顔で放つ。
「おはよう、このみちゃん」
私もその子、このみちゃんに挨拶を返す。
「……」
「……」
このみちゃんが何か言うのかなぁ、と思って黙っているけれどこの空気。このみちゃんはもじもじと片足のつま先を立てて動かし、ちらちらと私の方を見たり、目を泳がしたりしていた。
「おい、アタシになんか言うことがあるんじゃないの?」
このみちゃんが口を尖らせながら私に問う。私待ちだったみたい。
「あ、え~と……この前はありがとう、このみちゃん。お見舞いに行けなくてごめんね」
こう……かな?
「べ、別にこの前のは私の勝手にやったことで、借り返しただけよ。それに、お見舞いなんて来なくても良かったわよ。ふーみんとかバカジュンとかが勝手に仲間連れて毎日来てたから、アンタまで来たら病室の許容量がオーバーしちゃうわ」
このみちゃんは照れくさいのか、顔を赤らめながらぺらぺらと早口でまくし立てた。ふふ、相変わらずこのみちゃんって言葉がちぐはぐで可愛いなぁ。
「友達みんな来てくれたんだ。じゃあ、懸さんも?」
そう聞くと、このみちゃんがびくんと背筋を伸ばした。
「そ、そんなことなんで聞くのよ!!」
このみちゃんは顔を真っ赤にしていた。
「だって、懸さんが来てくれたらこのみちゃん嬉しいかなーって」
「それは……そう、だけど……でも、二人っきりにはなれなかったし、病室の他の人からあの坊主が煩いってぐちぐち言われたし……むしろあんなとこで騒がれるんだったら来てほしくなかったわよ!」
サイドテールの先を指先でくるくる回すこのみちゃん。きっと来てほしかったに違いない。
「あはは……それは残念だね」
ちょっと、可哀そう。
「で、アンタの方はどうだったのよ?」
期待に満ちたこのみちゃんの目が私に向けられる。でも……。
「わ、私?」
「そう、アンタは二人っきりで帰ったんでしょ? そのあと……」
「なにもなかったけど……」
私の答えを聞いてから、間を置いて、このみちゃんがため息を吐いた。
「はぁ、折角のチャンスなのに……なに逃してんのよ」
思いっきり呆れ返っているようでまた思いっきりため息を吐かれた。そんなにため息つかないでよぉ。
「だ、だって、ワンちゃん疲れてたみたいで、夜も遅かったし早く帰った方がいいかなぁって思って……それにまだ時期尚早だと思う……」
言葉の途中で、人差し指を思いっきりおでこに突きつけられる。
「こういうことは先手必勝よ? どっかにふらふら行っちゃう前に手綱を握らないとダメよ」
「このみちゃんが言うと説得力強いね」
「それってどういう意味!? ブーメランだって言いたいわけぇ!?」
このみちゃんにほっぺを力強くつねられる。ほっぺのお美紅をつぶしみたいにぐりぐりとされて、めちゃくちゃ痛い。
「いひゃい、いひゃいよこのみひゃあああん!」
思うように呂律が回らない。そんな私を見ながら、このみちゃんは満足げな顔をした。
ぱちん、とゴムを引っ張り思いっきり引っ張ったあとみたいにほっぺが元に戻る。このみちゃんが離してくれたみたい。あー、まだひりひりするよぉ……。
「ま、言われたとおりなんだけどさ……」
「だったらつねないでよぉ……」
頬を撫でる私をこのみちゃんがぎろり、と睨みつける。
「別にアンタには関係ないでしょ」
今後、このことでこのみちゃんをいじるのは止めておこう。
「ま、でもさ……」
このみちゃんが落ち着いた表情を取り戻すと、私に背を向けた。
「あんたも頑張りなさいよ」
背中を向けて励ましてくれた彼女の声は、少し上ずっているようだった。きっと、照れくさかったんだろう。
「……こ、このみちゃんこそ、頑張って」
だから、私もこのみちゃんを励まそうと口を開いた。
「ふん」
このみちゃんは振り返らずにそそくさと教室の中に入って行った。教室同じだから、一緒に入ればよかったのに……。ま、いっか。私も教室の中に入っちゃおう。
このみちゃんは相変わらず仲のいい子たちと窓際の席でしゃべっていた。私の方にはちっとも見向きをしないから、もしかしたら教室の中だとあまりしゃべりたくないのかも。わざわざ教室の外で待っていたみたいだもんね。きっと照れ屋さんなんだ。それとも、やっぱりまだ他のフーミンちゃんたちからしたら、私は友達なんかじゃないのかもしれない。でも、このみちゃんが一人っきりのときならまたお話しできるだろうから、別にいいかな。このみちゃんとも仲良くなれたんだもの、いつかきっと、あの子達とも友達になれるよ。
席について鞄を置き、後ろを振り返る。
「おはよ、ワンちゃん」
真後ろの席でワンちゃんが気怠そうに机に突っ伏していた。どうしたんだろう、まだ眠たいの?
「……」
頭の向こうの背中が上下しているから、寝てるっぽい。昨日の夜も勉強してて寝るのが遅かったのかな? だったら、起こしちゃったら悪いね。あれ、そう言えば、ワンちゃんがホームルーム前にいるのってなんだか珍しい気がする。いつもぎりぎりだったり遅れてきたりしていたのに。出席日数がやばいのかな?
「まったく、朝っぱらから俺を前にして寝るなんざ、もう勝者気取りで余裕ぶってやがんのか?」
私の席は、廊下側の後ろから二番目の席で、一番後ろがワンちゃんの席。それで私とワンちゃんの席の間にちょうど、ドアがある。だから、今突如として現れた懸さんは、私とワンちゃんの丁度中間に立っていた。
「か、懸さん!?」
「よぉ、叶恵ちゃん! 俺の青春センサーが叶恵ちゃんを察知してついつい会いたくなってきちまったぜ」
懸さんがぱちんとウィンクをした。せ、青春センサーって……それに捉えられたら最後な気がする。懸さんならどこまででも追ってきそうだし……。横目にこのみちゃんの方を見ると、流石のこのみちゃんの懸さんの登場には驚いていた。ついでに、ちょっとだけ睨まれた気がする。このみちゃんの方にも注目を差せないと。
「わ、わざわざ私だけに会いに来たの?」
ここはちょっとこのみちゃんに気を遣わないといけない気がする。
「なぁに言ってんだ! 俺はお前しか見えてないぜ!! 青春は盲目なんだ!!」
うぐっ、な、なんか余計なこと言わせちゃったような……もう一度このみちゃんの方を見てみると、じとっとした冷たい目で私を見ていた。こわっ! 怖いよこのみちゃん!
「よし、じゃあ行くか!」
懸さんが急に私の肩を掴んだ。
「行く!? どこに!?」
「そりゃ、青春純愛デートだ!」
「で、デートって、懸さん、これから授業だよ!?」
「気にするな!」
「気にするよ!! っていうか、懸さんそんなことしたらまた出席日数が……」
「大丈夫!! そんなことを気にしてたら青春がもったいないぜ!」
「気にしてよ! 気にしないと社会の中で生きていけなくなっちゃうよ!!」
だ、ダメだこの人……このままじゃ押し問答で何も解決しないよ。相変わらず肩は掴まれたままだし……。
「おいコラ、何テメェの留年劇場に叶恵まで巻き込もうとしてやんだ」
「おぐっ!?」
懸さんの手が私の肩から離される。それと同時に、どすっ、と鈍い音がして懸さんが目を丸くして仰け反った。
「何しやがんだワン公!!」
後ろで、ワンちゃんが体を起こして、右手の拳を前に突き出していた。懸さんを殴ったみたい。朝から暴力なんて……助かったのはいいんだけど……。
「何するもこうするもねーだろ。留年するなら一人でしやがれ」
「いいだろ! 二人で留年すれば二人でもう一年青春を謳歌できるんだからよ!!」
「巻き込むな他人を!!」
二人ともおでこを突きあわせでぐるる、と獣みたいに唸っていた。
「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
「よーし、分かった俺落ち着いたー。ほら、落ち着けよワン公!」
と、なだめようと言ってみたら、すぐに反応したのは意外なことに懸さんだった。
「てンめぇ……!!」
「そんな牙を剥いてワンワン吠えるなっての~」
あー、これ落ち着いてないよー。
「犬扱いしてんじゃねぇぞハゲ!!」
「誰がハゲだ!! 青春おしゃれ坊主だっつってんだろうが!!」
あー!! ダメだーーー!!!! 私の一言が火に油をブチ撒いちゃったみたい!!! 二人の言い争いが収まりそうもないよぉ。
「はいはーい、もうとっくにチャイムなってますよ~竜美君に大神君」
前を向くと、いつの間にか若槻先生が来て教壇に立っていて、いつものニコニコ顔を浮かべていた。
「さ、先生の言う通りだよ懸さん! 早く教室に戻らないとね!」
「ぐ……叶恵ちゃんが言うなら仕方ねぇ! 青春的撤退だ!」
と、懸さんが教室を出て行こうとする。ふぅ、これでやっとクラスに平穏が戻ってくる。
「なんだ。逃げるのかハゲ」
ワンちゃんがどすのように鋭い声で言った。
「誰がたかがワン公から逃げるってえええ!!?」
「ハゲ」
「ハゲじゃねえ! 青春おしゃれ坊主だっつってんだろうが!!」
あああああああ!! 平穏が速攻で崩れさったよぉおおおおお!! 二人がまた胸ぐらを掴み合ってピリピリし始めてるぅ……。
「はーい、二人とも、お互いに戻るべきところに戻りましょうね~」
わ、若槻先生がにこにこしながら二人を見ている。とびっきりの笑顔だ。なんだけど……い、嫌な予感しかしない!
「わ、ワンちゃんも懸さんも落ち着いて! こ、このままじゃ」
ちらり、と先生の方を伺うと、先生が学級日誌を縦にして手に持っていた。そして、それをそのまま振り上げる。な、なに、何するの先生!? と、とにかくやばい気がする。あの黒板に亀裂を入れるような威力を出すチョーク投げをする先生の馬鹿力を思い出す。い、いいことは起こらないことは間違いない!
「お、おい!! 大神テメェさっさと座れ!!」
「懸もさっさと自分の教室に戻りなさい!!」
先生のやばそうな雰囲気を感じ取ったのか、下中君もこのみちゃんも二人をなだめようと声を上げてくれた。
「あ!! テメェ等何言いやがんだ!」
「いいから! 大神はもっとおとなしくしやがれ!」
「おいおい! ここは青春的に俺を応援してくれよ仲間だろ!?」
「うるさい!! ここは黙って帰りなさいよ!!」
ワンちゃんも懸さんも納得していないようだけれど、このみちゃんも下中君もどうにか抑えようと必死になっている。
「そうだ! おとなしくしろ! 大神!」
「懸さんも、ここは引いてほしいの。私たち、仲間としてお願いをしているの!」
クラスの他の子達も加勢してくれている。
「ねぇ、二人とも、ここは穏便にしてよ、ね?」
さすがにクラス中から懇願されたのが効いたのか、二人はぶすっとしながらも、お互いに手を離した。
「ちっ……」
「ま、しゃーねーな。このクラスのやつらに免じて許してやるよ」
二人はなんとか鞘に収まってくれた。ふぅ、一件落着。
「あらあら~、このクラスが一丸となってくれるなんて、先生は担任として嬉しいですよ~」
先生はのんきにそんなことを言っていた。
((お前が原因だろ!!!))
多分、ワンちゃん以外のみんなはそんなことを思っているに違いない。もちろん、私も。
「えー!!? 私がクラス委員長ですかぁ!?」
二限と三限のわずか十分間の休憩中に、私は先生に呼び出されて教務室に来ていた。教務室とか職員室に呼び出されたことは中学位に一度、あまりにも成績が悪すぎたことが原因だったときぐらいだ。何をしでかしたんだろうかと気を重くしながら行ったのだけど、予想外のことを言われてしまった。
「そ! うちのクラス委員長が決まってなかったから、叶恵ちゃんがちょうどいいかなぁ~って、思って~」
「私、まだここに来て一か月くらいしか経ってませんよ?」
校舎内についても、クラスのメンバーについてもまだまだ分かっていないことが多いのに、そんな役目を受けるなんて……。
「あ、あの……」
「なぁに~、叶恵ちゃん?」
「できることなら、その……引き受けたいんですけど……クラス委員長ってどういうことをやるんですか?」
引き受ける分には決して否定的ではない。まぁ、その……何をするのか知らないんだけど。それでも、何か役に立てるのなら、ぜひやってみたい。
「そうねぇ、主に雑用……って言うと聞こえが悪いけど~、日誌を届けてもらったり~、クラスで会議するときに司会してもらったりするんだけど~……実はね、叶恵ちゃんには他にもやってもらいたいことがあるの」
「他のこと、ですか?」
「うん。ねぇ、叶恵ちゃん。うちのクラスに空席があるの知ってる~?」
確か、三人分くらいはかならず欠席している人がいたはず……。しかも、私はその人達の姿を一度も見たことが無かった。進級とか大丈夫なのかな……?
「そのね~、不登校の子なんだけど~、今日そのうちの一人の家に訪問するんだけど、叶恵ちゃん、クラス委員長として付いて来てくれない? あ、ついでに学校に来るように説得して欲しいのだけど、いい?」
「わ、私がですかっ!? 私が行ってもなんの役にも立たないんじゃ……」
先生は私の言葉に首を振って返した。
「そんなことないわよ~、叶恵ちゃん。気付かないかな? 今のクラスの雰囲気、叶恵ちゃんが来てからすっごい変わったのよ」
「そうなんですか?」
いつもぴりぴりしているだけの動物園みたいな感じだからなんとも……。
「そうそう。先生にはよ~く分かるのよ~。伊達に教壇から毎日教室を見てるわけじゃないのよ~」
先生はにこやかに笑いながらそう告げた。
「今日も、あんなことがきっかけだったけどクラスのみんなが一つになるなんて、ちょっと前じゃ考えられなかったのよ~」
ま、まぁ確かに、懸さんを追い返すためとは言え、あんなにクラスが一体化しているのは初めてだった。それが自分のおかげって言い方をすると、あまりにも大げさな気もするけど……。
「だから、叶恵ちゃんの力を借りたいの。先生なんかがでしゃばりすぎるより、生徒同士でうまく調和が取れた方がいいかな~って思うのよ。あの子のために、お願い、頼まれてくれるかしら?」
……誰かの役に立てる。この先生の提案はそうそうないチャンスかもしれない。それなら……。
「やります、ぜひ、やらせてください!」
私が意を決して告げると、先生は微笑んだままこくりと頷いた。
「ありがとう。そう言ってくれるって先生は思ってたわ~。ふふ、じゃあそろそろ授業も始まるから、もう行っていいわよ。放課後にまた来てね」
「はい。放課後にまたここにですね」
確認をしてお辞儀をする。くるりと背を向けて教務室を出ると、ちょうど授業開始のチャイムがなった。急いで教室に戻らないと。
「ってことで、私ねクラス委員長になるの!」
パックジュースのストローを咥えて思いっきり吸い上げると、からからと音が立った。もう全部なくなったみたい。
「……へぇ」
私の隣にはワンちゃんがいた。もはや昼休憩の恒例事になっている体育館裏での昼食。今日も私とワンちゃんの二人きりだ。ほんのちょっぴり幸せな時間。
先生に言われたこと、私がクラス委員長を引き受けたことをワンちゃんに教えたけれど、彼は関心が薄そうな返事をしてくれただけだった。う~ん、もうちょっといいリアクションが欲しかったなぁ。
ワンちゃんも膝を立てて座りながら、パックのコーヒーを飲んでいた。私は彼の方を見ているんだけど、ワンちゃんは何かを考えているのか、それともぼーっとしているのか、空を見つめている。
「ねぇ、ワンちゃん」
「……ん?」
「私に不登校の子を説得することって、できると思う?」
「さぁな」
「さ、さぁって……」
こーゆーときは、そっと背中を押してくれるような優しい言葉を掛けてくれると嬉しいんだけど……、もぅ、ワンちゃんってばわかってないなぁ。
「なんだ、やりたくないのか?」
「そう言うわけじゃないよ。自分でやりたいって思うことでもあるし……」
「なら、やるしかないだろ。……何か手伝えることがあれば言えよ」
「え?」
「……手伝うから」
ワンちゃんはコーヒーを飲みほして立ち上がる。そのままこの場を去ろうと歩き出した。
「あ、ま……」
待って! と言おうとしたら、ワンちゃんが首だけを回して振り向いた。
「頑張れよ」
私への励ましの一言。
「……うん!」
返事をすると、ワンちゃんは体育館の陰に姿を消してしまった。それでも、ワンちゃんからああ言ってもらえて、凄く嬉しい。
「よおし、頑張るぞっ!」
自信があるわけじゃない。だけど、ワンちゃんに背中を押してもらえたから、なんだか大丈夫だっていう気がしていた。よし、頑張って私の力で不登校の子を改心させてやるんだから! ワンちゃんは手伝うって言ってくれたけど、これまでずっと、ずぅっと頼りっぱなしだったんだもん、今回位は私一人の力でなんとかしてみせる!
ども、作者です。今年の汚れ、今年のうーちーに、ということで投稿しました! ちなみにこの章……まだ完結していません!!(ズコーっ←古っ!! えー、見切り発車となっています。ですので、もしかしたら更新途中にこの部の内容がちょっと変更するかもしれません。特に誤字脱字。まぁ、しない可能性の方が高いんですけどね。
今年、最後の更新です。実はこのお話はちょうど一年前くらいから構想を練り始めていて、春か夏ぐらい(始めた時覚えていない)から書きはじめ、更新を始めたシリーズで、自分の書いて来た中では一番付き合いの長い作品となりました。(もう一つあるんですけどね。できれば読んでほしいのは内緒)どちらも書き方とか物語の作り方で実験的な部分が多く、稚拙な部分も書いていて目立つなぁ、と思う始末です。ですが、実際書いて投稿してみると、感想もいただけたり評価もしてもらったり(今は消えちゃってるんですけどね)と、今まで自分が投稿してきた中ではかなりモチベーションを保てているのです、実は……最近はご無沙汰でしたが。ですが、その更新をしていない最中にも全話読んでくださっている方がいたりブックマークが保たれていたり増えていたりしていて、読んで頂けていると実感できることが多々あり、かなり思い入れの強い作品になりつつあります。作者は結構長い期間小説を書いているのですが、なかなか上達しないくらい文才がゴミなので、読みづらい点も想像しづらい点も多いと思いますが、今年一年おつきあいして下さり、感謝感激雨あられハリケーンです。本当にありがとうございます!
来年も死ぬかパソコンを強奪されるかしない限りは続けていく所存です。よろしかったら、次の一年間もよろしくお願いします。ちなみに、実は前までの三つの章は「このみ編」と自分の中では名付けており、この賞から実質別の「○○編」というのが始まっている、という風に考えています。こんな風に三章ごとくらいで誰か一人のキャラクターにフォーカスして物語を考える、というのが一つの実験的な書き方だったりします。←どーでもいいからはよかけ(笑)
長々と失礼しました。あとがきも含めてここまで読んでいただいてありがとうございます。では、良いお年を!
4月21日追記 ども、作者です。長い間放置していましたが、直しを投稿。続きも投稿するので見てね。




