やっとできた・・・・・・友達!!!
私の目の前で、三人の変態紳士さんたちが最後の一枚の姿になっていた。私はまだ一枚も脱いでいない。
「じゃ、じゃんけんものすごく強いんだな」
「このままじゃ俺達が全裸になっちまいますよ」
「予想外だな、でも、次こそ一枚脱がして見せる!! や~きゅ~す~るなら~♪」
ど、どうしよう。裸は見たくない、でも、ここで勝たないと……制服、スク水、体操服のどれかに着替えないといけなくなる。
絶対に嫌! でもおっさんたちの裸を見るのも嫌!!
「アウト、セーフ!」
私のはアウトしかないけど、やるしかない!!!
「よよいのよい!!」
差し出された四つの手。パーが三つに、グーが一つ。私がパーで、三人の内、太っているブルマ紳士さんだけがグーだった。
「ま、負けちゃったんだな……」
「よっしゃ!! やっと一人脱落だ!!!」
「ぬ、脱ぐんだな」
「ちょ! ちょっと待って!! 私の前で脱ぐの!?」
おもむろに自分のトランクスに手を掛けるブルマ紳士。そのままずるっとずらそうとする。なんとしても止めないと! せめて脱ぐなら私の見えないとこで脱いで!!
「い、いやなんだな、僕の恥ずかしいところをしっかり見て欲しいんだな、はぁはぁ」
「ぎゃああ!!!! 別の意味でも変態さんだったあああああ!!!」
と、私が絶叫を上げたちょうどその時。がごん! と外の方から大きな音がした。
「な、なに!?」
「なんなんだな?」
ぶろろろ、とバイクのエンジン音が聞こえる。
「はあ!? バイク!?」
「なんか来るぞ!!!」
三人が振り向くと同時に、私が入って来た扉が粉々に吹き飛んだ。そして、現れたのは、真っ黒のタイヤ。
「オラあああああああああああっ!!!! 青春参上おおおおおおおおおお!!!!!」
バイクに乗っていたのは、懸さん!!? あと後ろの誰か乗ってる!!?
バイクは飛び込んだ勢いのままで前進する。ちょうどその先にいたのは、今にも脱ごうとしていたブルマ紳士さん。バイクの勢いは彼の直前でも減ることは無くって……。
「ぎゃあああ!!!」
バイクがブルマ紳士さんを見事に引いてしまった。そこでようやくバイクが停車した。
「や、やばっ!! 公道じゃないけどこれって人身事故になるかなっ!?」
懸さんが、ヘルメットを取り外して放り投げ、後ろの人に聞いていた。
「アホっ! そんなこと気にしてる場合じゃねぇだろ!!」
聞いたことのある声。彼はすぐにヘルメットをはずして、私の方を見た。
「ワンちゃん!!!」
「叶恵っ!!!!」
後ろに乗っていたのはワンちゃんだった。ワンちゃんはバイクから飛び降りると、私の方に駆け寄ってくれた。
「大丈夫か、何もされてないか?」
そして、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「わ、ワンちゃん……うん、まだ、大丈夫」
どうしてここにいるの? どうやってここにいるって分かったの? そんな疑問が湧いて出てきたけど、ワンちゃんに抱きしめられているうちに、彼の暖かさに触れているうちに溶けてなくなっていった。
代わりに、安心して涙があふれてくる。
「こわかった」
「そうか。大丈夫、もう俺達がいるから」
背中を摩ってくれるワンちゃん。優しい手つきが私の心から恐怖を拭い取ってくれてるみたいだった。
「ああああああああ!! 一和!! 俺の叶恵ちゃんになにしやがんだ!!!」
「いつからテメェのになったんだよ!!!」
「叶恵ちゃあああん!! 俺も助けに来たよー!!!」
懸さんは、こんなときでも底抜けに明るかった。
「うん……ありがとう、ございます」
私がワンちゃんの背中越しに懸さんの方を見ながら言うと、懸さんの顔がみるみる赤くなっていった。
「よっしゃああああああ!!!! ラブパワーもらったぜええええええええ!!! 青春さいこおおおおおおお!!!!」
「ええええ!!? 私そんなの渡した覚えないよ!!?」
相変わらず、ホントに騒がしい人だ。
「おいおいお前ら!! 俺達のお楽しみ中に乱入してきやがってよ!!!」
「ったく、こうなったら、この二人を倒した方の衣装に着替えてもらうことにしましょう」
「おおっと、誰が誰を、倒すってええええええ!!?」
ごすっ、と懸さんのパンチがスク水紳士の顔面に突き刺さった。
「ごはっ!?」
スク水紳士はそのままべったりと地面に寝転んだままぴくぴくと痙攣していた。
「弱いじゃんか、さぁ、最後に残ったのはお前か!!」
たった一発で伸されたスク水紳士が鼻血を出しながらぴくぴくしているのを見ながら、制服紳士は腰が抜けたようで、床にへたり込みながら後ずさりしていた。
「あ、ま、待ってくれ、俺達はまだ彼女に何もしてないんだ」
「へぇ、まだ何も、ねぇ。じゃあ、これから何をするつもりだったんだぁ?」
「それは、もちろん女性が一番輝く服装、この白と水色のセーラー服に着替えてもらって……」
「はぁ!!!?」
制服紳士の返答に、懸さんは爆風のような威圧的な大声を出した。
「ひぃ!?」
「なるほどね。そんなことをさせようとしてたのか。俺の叶恵ちゃんによぉ!!!」
いや、私懸さんのになった覚えない……。
懸さんが、足を思いっきり振り上げる。
「それにぃ!!! 女性が一番輝く格好は……」
ぶおん! と空気を縦に割るような音を立てながら、踵落としが制服紳士の頭の上に落とされた。それと同時に懸さんが叫ぶ。
「全裸に決まってんだろうがああああああああああああ!!!!!」
「ぎゃああああああああああっ!!!!!!」
「懸さん何宣言してのおおおおおおおおおおおお!!!!!?」
「あ、でももちろん、叶恵ちゃんならどんな格好でも似あうと思うぜ」
ノビた制服紳士がこてん、と転ぶと、懸さんが私の方に親指を上げてぐっ、とポーズを決めながら言った。
「あいつ。あれでフォローしてるつもりかよ」
できてない気がするよね。うん、私も同意だよ、ワンちゃん。
そうこう言っている間に、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
「あ! やべぇ!! きっと受付の奴が通報しやがったんだ」
「通報!?」
「だろうな。よし、逃げるぞ、叶恵」
ワンちゃんは私から離れ、私の手を握って出口に向かって走った。出る前に私は自分の荷物だけを取って、ワンちゃんに引かれるままに走り出す。
「あ! お前ら、ちょっと待てよ!!! バイクを反転させるのくらい手伝ってくれよ!! おーーーーい!!!!」
後ろの方で、懸さんの悲痛な叫びが聞こえてきた。
とりあえず、私たちはなんとか警察に見つかることなく無事に脱出することができた。
「俺はこれから、ちょっと行かなきゃならねぇことがあるから、ここでさらばだ」
懸さんは駅前に着いた時にそう言った。
「今日は、本当にありがとうございました、懸さん」
私は深々とお辞儀をした。全然関係ないのに手を煩わせてしまって、申し訳なさ過ぎて胸がきゅぅっと痛む。
「はっはっは! 俺はいつだって叶恵ちゃんのピンチになら風のように馳せ参じるぜ!! こんどは、そこのワン公よりも速くにな」
でも懸さんは本当に何も気にしていない風に私に言ってくれて……。
「ワン、公!?」
ぴきぴきと、ワンちゃんが拳を握って指を鳴らす。
「あわっ!? か、懸さん、そう呼んだら……」
「貸一、それでチャラってことにして許してやる」
けれど、ワンちゃんはそう言って拳を開いて、怒りを収めた。ど、どゆことなの? この二人にいったい何があったの?
「へー、じゃあこれから遠慮なくそう呼ばせてもらうぜ! じゃーな!!! 青春帰宅!!!!!」
どんな帰宅よ、それ。
懸さんの乗ったバイクは、どんどんと進んで行って、町中に消えて行った。
「もう、帰るか?」
二人っきりになって、ワンちゃんが私にそう聞いた。
「ちょっとだけ、寄り道してもいい? なんだか……落ち着かないの」
「そうか」
ワンちゃんはそうとだけ言って、私が歩くのに付いて来てくれた。
二人で並んで歩いている間に、お互いに今日合ったことの顛末を話した。ワンちゃんが河村さんに私が連れられて行ったところを見たと聞いたことと、懸さんと出会って手伝ってもらったこと。私からは、このみちゃんに嵌められて、あんな人にホイホイと着いて行ってしまったこと。
「そうか」
私が話したことに、ワンちゃんの反応はシンプルだった。でも、それだけの方が、私も嬉しかった。あんまり掘り下げられると、このみちゃんのこと思い出して、自分でもどうなるか、分かんなかったから。
「あ~! 叶恵ちゃん、無事だった~!」
歩いていると、河村さんと出会った。
「良かった~、ホント心配したんだよ~」
そう言えば、河村さんがいなかったら、私も無事では済まなかったかもしれなかったんだよね。っていうか、何気に一番の功労者かもしれない。
「河村さんのおかげです」
「いやいや~、そんなことないよ~。あ、でも、ちょっとでも恩義を感じてくれているんだったら~、こんどデートしてよ~」
あはは、河村さんもいつもと全然変わらないや。そんな些細なことに気が付いて、ほっとする自分がいた。
「考えときます」
私はにっこり笑って答えた。
「……!? 今、断らなかった?」
「え、そうですけど」
ま、お礼に一回くらいデート、してもいいかな、なんて。河村さんはあまりにも突然の、いつもと違う返答に目をパチクリさせて戸惑っていた。そんな彼にワンちゃんが詰め寄った。
「おい、お前。カルボナーラはどうした」
あ、カルボナーラを確か河村さんに預けたって言ってたね。でも、河村さんは一人だけで、カルボナーラを連れていなかった。
「いやぁ、さっき、海浜公園で逃げられちゃって……ぐえほっ!!!」
ワンちゃんの膝蹴りが、河村さんの鳩尾に炸裂した。
「探しに行くぞ!!!」
「え、あ、はい!!! ご、ごめんなさい、河村さん」
私はうずくまる河村さんにそれだけ言って、ワンちゃんに着いて行った。心なしか、河村さんは蹴られていても、笑っていたように見えた。
海浜公園は、私もちょうど来たかったところだった。ちょっとブルーな気分だったし、そんなときに来るのはここに限ると思っていたから。
「カルボナーラ!! カルボナーラ!!!」
ワンちゃんが叫びながらカルボナーラを探す。なんだかお腹が空いてる人みたいに見えるよ、ワンちゃん。
私もついでに探す。海の方に行ってたら大変かも。そう思って、私は砂浜の方を目指した。
「あ! いたよ、ワンちゃん!」
カルボナーラを発見した。案の定、砂浜にいたのは助かったんだけど……。
「もう、およしになって、子犬さん」
「きゃんきゃん!!」
カルボナーラは、可愛らしい女の子と戯れていた。あれ、あの人、もしかして……。
「見つけたか」
ワンちゃんが私の声を聞いて飛んできた。
「うん、あそこに」
指さした方向にいる、カルボナーラと女の子、それから、後ろに立っている男の子。二人とも同年代で、ブレザーの制服を着て……うん、やっぱり間違いない。昨日もここで会った二人だ。
「ん?」
肌の焼けた男の子の方が、私たちに気付て、眼鏡を直した。
「あ、こんにちは」
「ああ、昨日はどうも」
挨拶を交わすと、女の子の方も私に気付いて、カルボナーラを構いながら、私を見上げた。
「あら? ああ!! 昨日の親切な女の子ですの! 昨日はどうもありがとうございました。順一ったら、迷子になっちゃってて……」
「迷子になってたのはお嬢の方だろ!!」
「きゃん!」
カルボナーラがワンちゃんに気付いたみたいで、女の子の方から離れて、彼のもとに行く。
「よしよし、悪かったな、カルボナーラ」
「カルボナーラ?」
女の子が首をかしげる。
「あ、この子犬の名前です」
私が答える。まぁ、普通そうだとは思わないよね。そりゃ、急にカルボナーラって言ったら首をかしげるよ。
「まぁ! 素敵な名前ね!」
「ああ」
女の子の予想外の一言に、ワンちゃんが同意する。
「お嬢……」
「ワンちゃん……」
そして、私と肌の焼けた男の子、順一君が二人を冷めた目で見ていた。
「ふふ、迷子の子犬さんだったのですね」
「悪いな、世話してもらって」
「いえいえ、こちらこそ、楽しい時間をどうも。おかげで必殺シュートの開発ができなかったのは残念ですけど」
「必殺、シュート?」
あ、さすがにこっちの方はワンちゃんでも疑問符だ。
「あんまり気にしないでくれ、お嬢の奴、漫画の影響を激しく受ける子なんだ」
「まぁ! 順一! そんな私のことを残念な人、みたいに紹介しないで下さる?」
「お嬢は十分残念だ」
二人のやりとりに、自然と笑みがこぼれた。仲のいい、親友のような二人のやりとり。ちょっとだけ、羨ましいな。
「あら? どうかなさいましたの、あなた」
「え?」
「少し、お顔がすぐれないようですよ? もしかして、病気?」
「い、いいえ! そんなことないよ! その……ちょっとだけ嫌な事があって……」
「まぁ! 嫌な事! もし、私にお話しできるのでしたら、言って下さい」
「え、でも……」
そんな、昨日今日で知り合った人に、こんな話できないし……それに、気分を悪くしちゃうかもしれないし……。
「私たち、お友達、でしょう?」
躊躇っている私に、女の子は一言、今の私に一番効く言葉を言い放った。
「え?」
「え? って、なに呆けてますの? ほら、良く言うじゃないですか、拳を突きあわせればもう友達だって」
「お嬢!! だから漫画に書かれてることを真に受けてんじゃねえって!!」
私の脳裏に浮かぶのは昨日のこと。別れ際に、この女の子と、拳を突きあわせていた。
「そうなのですの! でも、私は彼女のことを本当に友達だと思っていますし、あながちウソではありませんね」
「お嬢次第じゃねえかよ!」
「……ほんとに」
私の口から声が零れ落ちるのと同時に、目に涙があふれてきた。
「ほんとに、私と、友達になってくれるんですか?」
昨日知り合っただけの私に、こんな、すぐに騙されちゃうような私と、友達になってくれるの?
「もちろんですわ! もう、すっかりお友達です! その証拠にこれから一緒に必殺シュートの……」
「だからそれはもういいっつーの!!」
あふれた涙を拭うこともせずに、私はワンちゃんを振り向いた。
「良かったな、叶恵」
ワンちゃんは、たった一言そう言ってくれた。もう、自分には友達ができないんじゃないか、また騙されるんじゃないか、と今日あったことで諦めと猜疑心に溢れた臆病な背中を、その言葉でぽん、と押してくれた。
「うん!!」
冷たい涙ではなく、暖かい涙が、頬を伝って乾いた砂浜に小さな染みを作った。
私、やっと、本当の友達できたよ。
深夜、ラブホテル「学習の部屋」に、三人の男がきていた。
「はぁ、こうも部屋をめちゃくちゃにされるなんてな」
「やったの、高校生らしいぜ?」
「どこのだ?」
「俺と同じ学校だ」
荒らされた810部屋を見回して話しあっている二人に、暗闇に顔を隠した男が言った。
「若と同じ学校、ですか。それなら、こんなバカなことをするのも、容易に想像が付きますわ」
「若、やった奴に心当たりはあるんですね?」
若、と呼ばれた男が、肯く。
「もちろん。番長と、裏番長だ。処罰は俺の方に任せてくれ」
「若がそう言うなら、仕方ありませんね」
「でも、ちゃんとオトシマエを付けておかないと、組長が黙ってませんぜ?」
「大丈夫だ。考えてある。……お前らの内の一人、使わせてもらうぞ」
「へいっ!」
「合点です! 次期組長の若のためなら、この命賭けたって構いませんぜ」
「良く言ってくれた……。さて、いったいどう料理してやろうか、大神一和、竜美懸」
ふふふ、と若と呼ばれた男は笑みを零す。深夜の町は、まだまだ静かでこれから訪れる波乱を予想することもできないほどに、平穏な星空だった。
ども、作者です。二章終幕です! いやぁ、長かった。三章はこれよりも分量がちょっと多くなる予定です。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。たまに話別のアクセス数を見るのですが、そこで全話に目を通してくださっている方がいるような日があるのがここ最近で一番モチベーションに繋がっております。それをなんとか定期的に読んでくださる方になってもらえるように、もっともっと話の面白さだったり、キャラクター、場面の見せ方であったりを研究して書いていきたいなと思っております。
また、次回もお楽しみに。では、三章開始までさよならです!




