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コワモテ!  作者: リソタソ
誰がための
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真虎君の……言葉

 ふぅー、と大きく息を吐いた真虎君は、肩にかけた鞄からタブレットを取り出した。

 何をするのだろう? 疑問に見つめる私は気にせずに、真虎君はタブレットを操作している。

「分からないことはたくさんあっても、できることはあるし」

 操作しながら、真虎君は言った。

「……え?」

 訊き返しても、すぐには返事はなかった。だいたい五分くらいの沈黙があって、真虎君はタブレットの明かりに照らされた顔に笑みをたたえた。

「……もうちょっと時間がかかると思ったけど、意外と早くすんだし」

 真虎君は私にタブレットを見せてくれた。

「来れ、に十分くらい前の映像だし」

 映像。画面いっぱいに移りの悪い、荒い動画が表示されていた。カメラのせいか明かりは青っぽくなっていて、写されている歩道と、道路の前が意図的に加工されたみたい薄く青がかかっている。

 歩道を歩く人の後姿は、大分ぶれていた。だけど、量の多い鬣のような髪型を見間違うはずなかった。

「ワン、ちゃん?」

「海浜公園の近くのコンビニ前の監視カメラ、あとこっちが公園の隣の、大学病院の駐車場の防犯カメラの映像だし」

 また真虎君は操作をして、今度は別の映像を私に見せてくれた。暗がりの映像にも、歩くワンちゃんの後姿が映っている。

「時間は……駐車場の方が後だし。そっちに向かって……人目に付かないところがあるとしたら、海浜公園の奥……使われていない道路かな」

「真虎君、この映像どうやって?」

「ハッキングしただけだし」

 真虎君は至極当たり前の事のように簡単に言う。ハッキングという言葉を目にすることはあっても、聞くことはそうそうないし、ましてや友達の口から、しただけとまで聞くのはあり得ないことだ。

 真虎君はそんな私の思いなども気にしていないようだった。

「……さ、これで大神がどこにいるかはだいたい分かったし。第一の問題は解決でいいし」

 言って、真虎君が私を見つめてくる。

「言ったでしょ、できることはあるって。さ、場所は分かったけど、どうするし」

「どうって……」

 ワンちゃんがいる場所は分かった。

「もう会える」

 その場所に向かって行けば、ワンちゃんに会えるだろう。それも分かる。

「それは分かったけど……でも、私は……私には……」

 でも、私に何ができるか分からない。会っても何もできないんじゃないか。

 不安に口の中が強張る。言葉が詰まる。

「僕にはなんで悩むのかが不思議だし。こんなとこで止まってたって仕方ないし」

 真虎君は呆れているのかと思った。自分がいつまでもうじうじと立ち止まっているのは、自分でもよく分かっている。分かっているけど、何かをしたところで、と先が全く見えない。

 真虎君は私に近づいてきて、それから私の手を取った。見上げた真虎君の目は優しかった。

「今の君はこの手で僕を引っ張りだしてくれたの忘れてるし」

 真虎君は手を引いて歩き出した。私は抵抗もせずに手を引かれたまま歩く。

「君は僕にしたことと同じことをすればいい」

 先を歩く真虎君は振り向かずに言った。

 真虎君に、私がしたこと? 私、何をしたっけ? 何をすればいいの? 頭の中が疑問でぐるぐると回る。

 引きこもっていた真虎君に外に出るように努力したことは覚えている。だけど、具体的にあまり何もしてなかったし、今のワンちゃんに同じことをしようって言ったって……。

「どこにいくつもりで?」

 歩いている最中に、海鞘蕗と泥沼を背負った殿面と出会った。海浜公園の近くに行くためには、一旦私が走ってきた道を後戻りする必要がある。彼らも私と真虎君を追いかけてきたみたいだ。

「大神の居場所が分かったし」

 真虎君はそっけなく言うと、引き続き私の手を引いて歩く。後ろを向くと、海鞘蕗と殿面は顔を見合わせて私たちの後に続いていた。

「僕はこういうことしたくないし」

「こういうことって?」

 向き直り、真虎君の後頭部に問いかける。

「君にとっても僕にとっても嬉しい事だけど、打腰僕に不利な事だし」

 何を言っているのか、良く分からなかった。

「ま、君はこれまでそういうことしてきたはずだし。まぁ、別に君が気にする必要はないことだし。そんな君に、僕は憧れたんだし」

 どういうことなの? 私は一度問いかけたのだけど答えはなかった。しばらく黙ったままで、ただただ連れ去られるみたいに手を引かれて歩き続けるだけ。

 しだいに、公園が見えてきた。公園の中に入っていく。暗闇の中の静かな公園。いつもは明るい公園しか知らないせいか、不気味なくらいに怖い感じがする。

「君は僕にしたことと同じことをすればいいだけだし、いい? あいつはそれだけで十分なはずだし」

 やっとしゃべった真虎君の声は暗くて静かな中で私の耳にクリアに響く。でも、頭の中は相変わらずもやがかかったままだ。

「同じことって……」

 歩みの早さはそのままで進む。公園の奥にある駐車場にたどり着いた。

「この先に行けばもう着くし」

 いつのまにかそんなところにまで連れて来られていた。

 どうして、ここにまで私は来てしまったんだろう?

 いつでも真虎君の手を振り払うことはできたはずだ。考えもしなかった。

 それは、なんで?

 自分への問いかけに集中したかったけど、それはできなかった。

「もやしが女連れてやってきたぜぇ。こんな人目につかねぇトコに来るにしてもち~~~っとばかし頼りねえなあ」

 ぞろぞろと柄の悪い人達、いわゆるチンピラが駐車場の先、奥の道に繋がる方向からやって来た。一部は怪我を負っている。

 状況は非常に悪い。男達は八人くらいでじりじりと私たちににじり寄ってくる。

 そのとき、

「とうっ!」

 チンピラたちの塊に、海鞘蕗がタックルしてきた。細身だけど勢いがあったおかげか、何人かが巻き込まれて倒れた。

 さらに、

「フンガー!」

 なんだ、と驚いていた残りのチンピラたちに殿面も突進していく。どしん、と何かが落ちる音も聞こえた。

 何をしてくれているの?

 問いかけようと思ったけど、問いかける必要なんてなかった。私たちを進めようとしてくれている、私をワンちゃんがいるところに向かわせようとしてくれている。

 最初の突進は威勢が良かったけど、殿面と海鞘蕗は起き上ったチンピラたちに捕まって、殴られたりしている。残った何人かはすぐに私たちに目を向けて、またにじり寄って来た。

 迫ってくるチンピラたちに押されるように、私たちも後退する。その最中、真虎君が私の前に出た。私を守ろうとするみたいに。

「危ないよ!」

「見りゃわかるし」

「逃げ……」

「逃げたら大神が遠くなるし。折角ここまで来たんだし、会いたいなら会えばいいだけだし」

 でも、と私は反論しかけるけど、真虎君は畳みかけて言い続ける。

「君は僕を連れ出した。引き摺って引き摺って、暗い部屋にいただけの僕に何をした? 何を考えた? 何を思った? 覚えているでしょ、忘れてるはずないし」

 真虎君の熱っぽい言葉が耳の中に入ってくる。

 何を? そんなたくさん一度に聞かれたって……そんな、すぐに……。

 目を背けるように、下を向く。

 真虎君の足が震えていた。彼だって、怖いに決まっている。それなのに、今私の前に出て来てくれている。勇気を振り絞って……。

「単純に考えてよ。それでいいし、それで僕は救われた。君が連れ出してくれた!」

 単純に。それでいい。

 ……どうしたい? 私。ねえ、どうしたいの? どうすればいいか、じゃない。どう「したい」の?

「男って単純だから、一つだけでいいし。彼を思って自分にできること、すればいだけだし」

 できること……。私に、できること……。

 私がワンちゃんのために、ワンちゃんを思って、できること……なんだろう、分からない……ワンちゃんが何を望んでいるのか、何をしてほしいと思っているのか、どうすればあの状況から抜け出せるのか……。

 分からない。

 でも、でも……私は、ワンちゃんのために何かをしたい!

「あ~~~~~、最ッッッッッ悪の目覚めだぜエ……」

 大きな声が聞こえた。私と真虎君も、それからチンピラたちもぎょっとして声のする方向に目を向けた。

 泥沼だ。泥沼が少し離れたところで地面に座って、頭をさすっている。

 ……あ、そうか。さっき何かが落ちた音がしたかと思ったけど、あれ殿面が泥沼を落とした音だったんだ。

 泥沼は頭をさすって、顔をしかめていたのだけど、急に鋭い目で辺りを睨んだ。

「あ~~~~~~~、いってぇ。たんこぶできちまってらぁ……」

 言いながら、泥沼は立ち上がった。ぐっ、と拳を強く握りしめる。

「俺様の頭ぶん殴ったのどこのどいつだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「こいつらです、泥沼」

 泥沼が明らかな勘違いの叫び声を上げた直後に、海鞘蕗がチンピラたちを指さす。嘘だ、勘違いに嘘を重ねてる。

「ハァ? 何言ってんだテメ……」

 もちろん、殿面の罪をなすりつけられそうになったチンピラは反論しようとするのだけど。

 ドコッ!! と反論しようとしたチンピラに向かって駆け出した泥沼が、握り締めたこぶしを顔面に叩きつけた。

「テメェらか。俺は寝起きが一番機嫌わりぃんだ……。覚悟しやがれえええええええええええ!!!」

 もう完全に殴られたものだと刷り込まれた泥沼は、他のチンピラたちにも襲いかかっていく。殴りつけて、蹴って、頭突きをして、立ち上がったチンピラにさらに攻撃を加えて……チンピラたちが泥沼にかかりっきりになっている。

 その隙に、真虎君が私の手を引いて走り出した。

 チンピラたちの来た方向へ、どんどん進む。

「テメェらま……」

 チンピラの声がして振り向いたが、そのチンピラは私たちを追いかけようとしたものの、泥沼に首根っこを掴まれて、また殴られていた。

 おかげで、私たちは走りつづけられた。

 自分にできること、自分のしたこと、もっと単純に……。真虎君に言われたことが頭の中で繰り返し繰り返し思い出す。

 駐車場を抜けて、まっすぐに進む道が見えた。暗がりにあるけど、その奥から人の声が聞こえてくる。

 そこに、ワンちゃんがいるんだ。

 そう思っていると、真虎君が手を離して、私の背中を押してくれた。

「さ、進んで。そこをまっすぐに進んだら、大神は絶対にいるし」

「真虎君……」

「ここまできたんだし。迷わなくていいし、悩まなくてもいいし、あと、一歩だし」

 私は頷いた。

 あと一歩。この一本道を進んで行けばいい。そこにワンちゃんがいて……後は私が……。

 まだ、分からないこと、どうすればいいか悩むこと、たくさんある。

 でも、それでも……。

 ワンちゃんの元へ近づく一歩目は羽のように軽かった。

「ありがと、真虎君」

 そうとだけいって、私は走った。



 駐車場では、泥沼が大暴れ。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、それを繰り返す。

 何年か一緒にいてこんなにブチギレて、こんなに強い泥沼の姿は、海鞘蕗や泥沼も初めて見た。

 彼らはチンピラたちから開放されて、遠くから泥沼の暴れる様を見ていた。

「ふぅ……」

 そこに、真虎が戻ってくる。

「お見送りご苦労様でした」

「好きでやったわけじゃないし……疲れたし」

 問いかけた海鞘蕗に答えた真虎の顔は、どこかすがすがしさもあるが、少し不機嫌そうでもあった。

 彼らのいる方へ、泥沼にボコボコにされていたチンピラの一人が走ってきた。

 表情は悲壮感で満ち溢れ、情けなくともこれ以上の苦痛から逃れようとしているようだった。

 恐らくは真虎たちに見向きもせずに、一目散に素通りしていくだろう。

 そいつが真虎の脇を通ろうとしたとき。

 真虎がいつの間にやら取り出していたタブレットを、ガツン!! とチンピラの頭に叩きつけた。しかも角。

 相当いたかったらしく、チンピラは頭を抱えて地面に転げまわる。

「イラつくし……」

 八つ当たりだった。

「割り切るしかありませんよ。あなたは彼女のために……」

「分かってても頭と感情は割り切れないし……八つ当たりしてくる」

 真虎はかなりイラついている。彼に殿面も海鞘蕗も、これ以上何も言えなかった。

 そんな役割を担ったものだ、と一言冷めたことでも、海鞘蕗は言えそうだったが呑みこんだ。

 タブレットの角で殴られたくなどない。ちょうど、泥沼が暴れる中に割り込んだ真虎が一人のチンピラにタブレットの角をブチ当てて、また一人転げまわっているときに、そう強く思った。

ども、作者です。


今日から終わりに向けて、一気に進めます。

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