表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
エピローグ 幕が上がるまでに
PR
84/84

第84話 終幕 星空の瞬きに

 この男ガチでふざけやがって……疲れてるに決まってんだろ! いっそ胸倉を掴んでやろうかと思ったが、むしろラムダが近づいてきた。そうして私の顔を覗き込み「暗くてよく見えない」と呟いた。

 うわ、どうしよう凄く殺したい。

 ラムダの手が肩に触れようとしたのを払いのけ、怒りを現す。


「あなたよくもぬけぬけと、全部知ってて黙っていたわね!」

「ああ、仕事だから」


 ラムダはそう言って、にこやかな笑みを浮かべた。

 って「仕事だから」の一言で切って捨てやがった! 涼しい顔つきで抜かしやがって、どういうつもりだ! こうなったらはっきり言ってやる!


「ラムダ、あなた仕事と私とどっちが大事なの!」

「約二週間と五日以上前なら君と言っていた。話す機会がそもそもなかったので伝えられなかったが」


 そうなんだ……愛されてたんだ、私。気付いてなかった。どうして気付かなかったんだろう……私達は互いに想い合って……って違う! なんか色々間違えてる! あれ? 私、どこをどう間違えてるの?


「えっと、何を間違えたんだっけ」

「いや、疲れただけだろう」

「そうかな……私達って婚約してなかったっけ?」

「そういう時期もあったような気はするが、過去に囚われても仕方ないと、転生者ですら言うと思う」

「そうよね。こう、なんか色々と悪役令嬢呼ばわりされたり、歩くハラスメントとはお前にこそ相応しい、とか言われた記憶もあるんだけど?」


 そうは言ってみたものの、どうもしっくりこない。私ハラスメントなんてしたことない系女子だし。むしろされる方? 被害者の会の代表を務めていた記憶すらあるんだけど。


「僕はそんなこと決して言わない。女性にそんな暴言を吐く奴は、魔法で炙り焼きにされても文句は言えないだろう」

「そうよね。こいつは歩けば人を傷つけ、口を開けば人を罵る悪役令嬢。嘘偽りを身にまとう、歩くハラスメントとはこいつにこそ相応しい。なんてあなた言わないわよね」

「当然だ。前世の記憶か何かじゃないのか」


 そうよね。ちょっと疲れが溜まり過ぎたのかしら。


「じゃあ、なんだこの裏切り者! 無断外泊常習犯! は?」

「なんだか芝居くさいな。いやしかし、否定はしませんが、慰謝料の話に戻りましょう。と言っていた奴はいた気がする」

「そうよね。黙れ下郎! 家財没収の上追放だ! 一族郎党路頭でさまよえ! 語呂もいい! って、言われた気がする」

「語呂はともかく、それを決めるのはあなたではないわ、か。なんの芝居だったかな。どこかの舞台に観劇にでも行っただろうか」

「ううん、私そんな暇じゃなかった」

「そうか。では全て気のせいだろう」


 そうよね、全て気のせい……なわけねーだろっ!

 明確に胸倉を掴み、顔を突き合わせる。


「よくもふざけたことが言えたものね。どういう教育を受けたらそうなるの! 親の顔が見てみたいわ!」

「お互い親の顔なら散々見たろう。教育って、僕は情報のスペシャリストだ。最初は君の動向探る為だったが、気が付いたら諜報組織に組み込まれていた」


 へー知らなかった。婚約者だったのに、全然知らない。これはどっちが悪いんだろう。


「言っておくが、今更どちらが悪いとかそういう話はやめてくれ。不毛過ぎて意味が見出せない」


 ラムダの予防線にカチンときたが、だったらと方向性を変えてみせる。


「じゃあお聞きします情報のスペシャリストさん。あのライン騎士は一体何者?」

「スペシャリストであるがゆえ、答えられない。素人くさい質問はやめてくれ」


 誰が素人だ! 偽情報流し過ぎて殿下に怒られたわ!

 ――けどこの様子から察するに、ラムダは知っているな。

 そしてそれは、私の勘とそう遠くないとみた。


「一つ、殴られたくなかったらヒントだけちょうだい」


 精一杯下手に出ると、彼は苦笑交じりで溜め息をついた。


「君の勘は当たっている。これでいいだろう」


 それでは困る。どうやら私の気はこれでは済まないらしい。はっきりと言葉にしろと目で伝えると、ラムダは困り顔でかぶりを振った。そうして、


「僕はよく知らないしここには僕しかいない。そう、人間という定義を超えた存在はもはや人ではないとするなら、ここには一人しかいない」


 そっぽを向きうそぶく彼の口から出たそれは、


「ミドルネームは君と同じだ、エルカ」


 ――やはり想像していた通りのものだった。

 どうやらかつての婚約者と、当てつけ合いをしている場合ではないらしい。参ったな、だから謁見の間か。というか当たり前過ぎる。ここは旧の王都。謁見の間はかつて玉座の間だった。

 さてと……改めて黄金色の髪をたなびかせる、ラムダ・フィン・クラウザーを確かめる。言い残しがあっては、次の機会は永遠にこないのかもしれないのだから。そうして先んじたのは、


「ちなみにだがエルカ、あれからまだ二週間と五日程しか経ってないので、顔を合わす機会は嫌と言う程あると思う。急いだ方がいいんじゃないか?」


 そうだった。

 ハラルド陛下が出国するまで私、この国出られない。

 終わったー完全に終わってて終わってる。

 大公家の次は王族同士の権力争い。

 最悪だ。

 完全に陛下と殿下の思うつぼ。

 いいように使われてる。

 ねえ、私そんな悪いことした?

 おかしいでしょ、私いいことしかしてないって。

 なんでこうなるの?

 馬鹿馬鹿しい、くだらない。

 もうどうでもよくなって、ラムダに問いかける。


「ねえラムダ、私そんな――」


 しかしそれは最後まで言えず塞がれて、私達の唇は重なり合った。とても短い時間が妙に懐かしく、記憶に焼きつかれる。そうしてかつての婚約者は耳元で囁いた。


「相手に不足はないだろう。ライン王国のみならず、南北ルナリア大陸の命運は君が担うものだと僕は信じている。だから行くんだ。肩書きなど飾りに過ぎない。殺戮勇者と渡り合うんだろう? さあ、君に相応しい舞台は整った。僕らが整えてみせる」


 彼はそうして、私から離れていく。

 背を向けた彼は、躊躇いもなく迷いも感じられない。

 きっとこの瞬間を、私が忘れることは一生ないだろう。

 前の婚約者に唇を奪われるという失態は、心と身体に刻まねばならない。

 だから私は微笑んだ。

 精一杯の笑みを、星空に広がるように微笑んでみせた。

 星空が瞬くよう、きっと私は輝いている。

「2章、侯爵令嬢の華麗なる推理劇。完結にあたり」2024/9/15。9/16


ここまでお読みいただきありがとうございました。

異世界本格ファンタジーミステリー作品として再始動し、無事長編として完結を迎えることが出来ました。

異世界ファンタジー、ハイファンタジーは「なんでもありの世界」なので、そもそもトリック自体が「機械仕掛けの神」と呼ばれるご都合主義になりかねません。当初本作品の本格的なミステリー化は難しいと考えていましたが「そうでもないな」と長編化しました。皆さんに楽しんでいただけたなら、作者として本望。


以降物語は続きますがそれは第3章の始まりを意味し、先の話になると思います。

では、再びエルカの景気のいい啖呵をお見せ出来るその時まで。

心からの感謝を。ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます! 異世界本格ファンタジーミステリー、初めて読むジャンルでしたが、すっごく面白かったです! 魔法のある世界観でここまで本格的なミステリー作品が作れることに感動しまし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ