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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
エピローグ 幕が上がるまでに
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83/84

第83話 ある、夜も更けた城内で

 第二執務室を出てレイラ・ノヴァ城の中庭へと向かう。皆思うところがあり言葉を発す者はいない。足取りは重く、二日を切る強行軍の疲労が現れていた。

 この国を変えようとしたのは私だ。事実変えてみせ、そしてその意味するところを理解した。アウグス大公閣下を殺したのは私達だ。それは各騎士団であり、有力諸侯であり、陛下と殿下も含まれる。ライン王国の諜報部また情報組織は、アウグス大公閣下を切り捨て見殺しにしても構わないと決断した。


 では私はどうだったのか?

 使者の任を与えられ何も疑問を持たなかったのか?

 日和見を決め込んだと考えていたあの男を、どこかで軽蔑していなかっただろうか。

 軽視していたのではないのか?

 私という存在を軽視したからと、最前線を駆けずり回る者だったという自負が、その目を曇らせていたのではないか?


 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。

 異世界の教えは我々には通用しない。

 強者は何から学べばいい。ハラルド陛下や殺戮の勇者。圧倒的強さを誇り、もはや人間のそれとはかけ離れた彼らは、自らをどう定義し生きているというのだ。ルナリアの歴史に魔族はともかく、魔王や転生者、女神との戦いは存在しない。およそ百年前、奴らは突然現れたのだから。


「騎士諸君、一つ忠告しておこう」


 中庭の噴水が近づいたところで背後からライン騎士が口を開いた。否も応もなく皆足を止め振り返る。


「諸君らの行いはライン王国に対する反逆行為である。神殿騎士団、及び教会騎士団と病院騎士団は、国家に致命的損失を与えた反逆者と心得よ」

「殿下の意向を否定するのか。それが正しい騎士のあり方と貴様は言うのか」


 ライン騎士の物言いに、神殿騎士ロイド・ヴァレンシュタインが鋭く反論した。しかし、


「なるほど、神殿騎士団ならばそもそもライン王国に忠誠を尽くしてはおらんか。貴様らの言う神が赦しを与えてくれるのは、実に小賢しく小利口と言えよう」


 闇夜に悠然と立つライン騎士の姿はまるで暗闇の主のよう影すら呑み込みそうだ。


「落ち着け二人共、我々がいがみ合っても仕方ないだろう」


 二人の口論に、当初あれだけ頼りなく見えた教会騎士ヴィクトル・クーベリックが間に入る。確かに今、口論や神学論争などしたくもないし見たくもない。私だって疲弊しているのだ。だがライン騎士は、


「我々とはどういう意味だ。貴様らと私を同じと言う気か。正気とは思えん。教会騎士団に自殺願望があるとは新しい発見だ。学者共が喜ぶ話題になりそうだな」


 侮辱と侮蔑、そして立場の違いを鮮明にしてみせる。さすがにロイドやヴィクトルもこれには黙っていられない。と思われたが実際は違った。


「君は一体何者だ、ライン騎士よ」


 穿ち疑うヴィクトルの問いに、


「それはこちらの台詞だ王国騎士よ」


 彼は事実を述べてしまった。

 勝負あった、私が止めるしかない。

 しかしライン騎士は続けてラムダを標的にした。


「なかなかの忠犬ぶりだったぞ、小僧」

「……ありがたき幸せ」


 侮辱されてもラムダは動じない。それはそうだろう。これもまた事実なのだから。そして最後にライン騎士は私に向け告げる。


「エルカ・ライン・アールブルト侯爵令嬢、謁見の間にて待つ」

「畏まりました。さして時間はかかりません」


 敬意を表すと、ライン騎士は返事もせず風のように去っていく。沈黙の降りる星空の下、王国騎士ロイド・ヴァレンシュタインとヴィクトル・クーベリックは我々に一礼し去っていく。ここに居場所があることを示し、その役目を終えたと宣言するように。


 見上げれば星の瞬きは眩しく、水の流れる音が微かに聞こえてくる。この空の向こうには何があるのだろう。小さく輝く星々の一つ一つに、誰かの願いが込められ、何かがあると信じていいのだろうか。きっと星空が降ってくると私も願いを込めるべきなのだろうか。


「ねえラムダ、星空に意味はあると思う?」


 感傷的な気持ちを星空に託し、かつての想い人であり婚約者にそっと言葉で触れてみる。だからこそ、元は恋人だったラムダ・フィン・クラウザーが明瞭に応じた。


「エルカ、君がロマンチックな乙女気取りになるとは重症だ。疲労だとは思うが僕は回復魔法もまともに使えない。また、頭の故障を直すスペシャリストでもない。医務室に行こう」


 さすがラムダ、全部ぶっ壊してきた。

 よかろうならば戦争だ。

 もはやなんの躊躇いもない。

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