第81話 彼らの旅の終焉2
「そうだな。アウグスの子であることは理解した。しかし……」
「単独犯か複数犯かですね」
ここにきて躊躇う殿下にあえて申し上げる。連署があるならまず間違いない。だからこそ今一度問いかける。
「諸君、私は言った。議事堂での会議でもここでも。犯人はここにいる、と」
異世界日本国にあるという、暗がりに咲く月見草のよう全てが静かに佇んでいる。全てを終わらせる為に、私はロイド・ヴァレンシュタインとヴィクトル・クーベリックを確かめる。二人は元居た場所へと戻り私と向き合う。
「エルカ・ライン・アールブルト侯爵令嬢、この度の一件見事な仕置きと心得ます。このロイド・ヴァレンシュタイン感服致しました」
「同じく、このヴィクトル・クーベリック、エルカ・ライン・アールブルト侯爵令嬢の手腕に尊崇の念を禁じえません」
堅苦しいことこの上ないな。そういうことではないが、まあいいと首肯してやる。ロイド・ヴァレンシュタインが受け取り、殿下と相対する。
「ゲッツア殿下、今回の事件はアウグス大公閣下とそのご子息ご息女との決闘の結果によるものです。我々は立ち会うことを求められ、一部始終を議事堂本会議場において確認致しました」
「そうか……アウグスは決闘を選んだか」
「いえ」
殿下のお言葉をヴィクトル・クーベリックが訂正する。
「エミール様は再三再四、王都への早急な登城を大公閣下に促しておりました。つまり、殺害当日においてもご一族は大公閣下を説得していたのです」
「なんと……」
絶句するよう呟く殿下に、ヴィクトルは躊躇いを見せず二の句を繋ぐ。
「ですがアウグス大公閣下は拒絶します。引退も代替わりも受け入れない。グランバッハ大公家を率い、聖王国ナルタヤ及びナルディニア諸国家群を攻め滅ぼすと強く主張しておりました。それこそがライン王国の国益であり、またライン王国の重臣としての役割であると」
やはりそうか。ナルティア家から受けた追放に対する意趣返し、ただそれだけではあるまい。耳を澄まし聞き入る。
「アウグス大公閣下はリアリストでありこの主張、決して無謀な賭けとは言い切れぬと私は考えます」
「ヴィクトル・クーベリックよ、国力差を考えよ。聖王国ナルタヤは南ルナリア最大の国家ぞ。今や殺戮勇者まで付いておる。いくらハラルドが強く、アウグスが聖魔法の使い手といえ、勝機があるとは考えられん。乗っ取りならいざ知らず、それもまた殺戮勇者の手を借りねばならんだろう」
ゲッツア殿下は、自分こそがよりリアリストであるとヴィクトルに言い聞かせた。しかし、
「畏れながら、殺戮の勇者は聖王国ナルタヤに付いておりません。聖王国ナルタヤとて殺戮の勇者を味方とは考えていない。これは諜報部情報分析班、及び各騎士団の分析から結論が出ております。であるならば勝敗を決するは各騎士団の戦力、そしてどちらが殺戮の勇者をお味方に引き入れるにかかっております」
「一つ訂正を。殺戮勇者は部外者として、静観させるという手もあります。同時にハラルド陛下は殺戮勇者と古い仲。ハラルド陛下が殺戮の勇者に付けばもはや勝敗は決まったも同然。無論、大規模な戦争であり侵略戦争であることは否めませんが、アウグス大公閣下の存在が正統性を担保します」
このロイドの主張は大公閣下の主張だろう。だが、一つだけ欠陥がある。ライン王国の宰相が見逃すはずもなく、
「楽観的に過ぎる。ではエストバル地域はどうなる。エストマ三国はどうなる。アルタニアを見捨てるつもりか。そのような戦争はエストバル地域から魔族を追い払わねば成立せんのだ」
そうつまり、大公閣下はエストバル地域から魔族を駆逐する何かを掴んでいる。でなければゲッツア殿下の言うよう魔族を利するだけだ。
「アウグスの言う、聖王国に全ての責任を押しつければいいという主張は、全ての責任はアウグス自身が取るということであろう。それは認められん。今我々南ルナリア各国が争ってなんとする」
アウグス大公閣下のライン王国において戦歴はたかが知れている。確かに楽観的とも言えるが、果たして無謀と言い切れるのか? ヴィクトルが一つ頷き応じる。
「エミール様やグスタフ様も同様の主張を繰り返しておりました。そもそも全てはハラルド陛下の決断次第。そして今、ライン王国は不安定な状態にある。大公家の立場も危うい。何よりエミール様やグスタフ様に、アウグス大公閣下の役割が担えるのかという疑問はあります」




