第79話 解決編12
またしてもやられるのか……いいやそうはいかない。私にも意地がある。病院騎士団という巨大な支持母体もある。負けてはいられない。
「では事の真相をお伝え致します」
「ずっとそれを待っておった」
やかましいくそ親父。
「私の派遣ですが、元はグランバッハの一族、恐らく長姉エミールが父親の暴走を止める為ハラルド陛下に依頼したもの。しかし陛下はお忙しい。王宮での騒動から二週間、陛下は教会への対応や諸侯の処分。あと夫人がどうこうとか、殺戮勇者の最新の動向などを集めることなどで手一杯。そこでこの案件をゲッツア殿下にお渡しした」
「そうだな」
先に言ってよ……嘆きが止まらない。
「ゲッツア殿下はアウグス大公閣下をよくご存じ。知り過ぎている程知っており、挙げ句ミゲルが実子でないことや聖魔法の使い手であることも知ってしまった。この時あなたは失望し嫉妬した。護衛も必要ない聖魔法の使い手が、ずっと自分を謀っていたと知ってしまったのだから」
「そう思ったこともある」
肩を落とし、溜め息を吐く殿下は実にざまあない。私の方がダメージはでかいけど。
「さてどう扱うか。陛下と閣下、殿下の外交方針は全く異なる。陛下は殺戮勇者をずっと待っていた。ライン王国をまとめ上げ、その後自ら出馬し殺戮勇者と共に魔族魔王、転生者と女神を狩り殺す。ただこれだけを考えていた」
「あれはそういう為政者だ」
でしょうね。だけれど、私がメッセンジャーとして機能するとは思いもしなかった。よくよく考えれば、殺戮勇者が私に言伝たこと自体不自然なのだ。
「では大公閣下はどうか。閣下は拡張主義者です。文明の衝突、異世界文明と争うこの状況において守りに入るのは得策ではない。つーかですよ、アウグス閣下は聖王国ナルタヤ、ナルティア家の血を持つお方。正統性は火を見るよりも明らか。堂々とカチ込めばいい。なぜ国を出たのか、追い出されたりしたのかまでは知りませんが」
「本人曰く追放だそうだ。若かりし頃ナルティア家に心底愛想が尽き、反乱を起こし一戦交えるつもりだったらしい。若者の企みは未熟に過ぎ、見事に失敗したらしいが。ハラルドが詰問し吐かせたらしい」
嘘だろ。私より先にド派手な追放されてる人がいた……。
「違う、そんなことはどうでもよいのです。今のお話で確信しました。要するにアウグス大公閣下は聖王国ナルタヤ及び、ナルディニア地域一帯を攻め獲るおつもりだった。だってあちらの王族ですし、ナルティア家の人間ですから」
「そうだろう。その為に色々画策しておった。胃が痛くなるとはこのことだ」
殿下は顔をしかめるが、そのまま胃潰瘍で苦しめばよかったのに。
「つまりこの大公閣下の外交方針は、異世界日本国で言うところのふるさと納税拡大バージョン。これが適切でないなら、故郷に錦を飾りまくるおつもりだったのです」
私の喩えに皆苦笑し、ロイドに至っては明確に笑顔を見せている。ライン騎士もかぶりを振ることしか出来ない。
「ところが一つ問題が起きた。殺戮勇者が聖王国ナルタヤに付いてしまったのです。話が違うと大公閣下も思いはしたでしょうが、そもそもライン王国に、聖魔法の使い手がいることを隠していたのはどこの誰なのか。とまあここで方針転換を迫られます」
「うむ、攻め滅ぼすより乗っ取る方が適切か。どちらにせよ殺戮勇者の出方次第だ」
そういうこと。
「ちなみに殺戮勇者が聖王国ナルタヤに付いたのは、聖魔法以外にも理由があります。本人が言っておりました」
「ほう、知らされておらんな」
「北ルナリアに近過ぎず遠過ぎず、人口が多い。資源も豊富で海に面している。ライン王国にはハラルドがいるので今更協力を求める必要もない、とのこと。ああそうでした、従わぬのならハラルド含め全員ぶっ殺す、とも言っておりました。ですのでハラルド陛下の追放は絶対必要なのです。まあ追放は私の方針ですが、とにかく出馬していただかないと話になりません」
私の説明に対し殿下は呆れ顔で述べる。
「そういうことは先に言いなさい」
それはこっちの台詞だくそ親父。今すぐ永眠させてやろうか。腹立たしいことこの上ないが、とにかくと続ける。
「ではゲッツア殿下はどうか。大公閣下もですが、殿下は殺戮勇者と会ったこともない。思考は官僚のそれであり宰相閣下のもの。まずはあちらの出方を伺い、ハラルド陛下に対応させてみる」
自然と頷く殿下に、皆も釣られ頷いている。ライン騎士は異なるが。
「国内の安定が最優先。ここは南ルナリアの最終到達点。我々より南に位置する冒険者ギルド領や小国など、あってないようなもの。絶対防衛ラインは聖王国ナルタヤを含むナルディニア地域。そして中央部に位置するアルタニア」
その通りだとやはり頷く殿下に、
「殿下の考えは陛下や閣下とは真逆。仮に領土を拡張するなら、それは未開となっているギルド領の向こう。南ルナリア南部しかない。私が行った、最南端辺りでしょう」
更に告げると殿下は笑みを湛え深く頷いた。少し寂しげなのは盟友を失ったからだろう。それはここにいる、全員が思うところである。




