第78話 解決編11
頭を掻き、仕方ないと自らに言い聞かせる。仕方ないが多いな、全く。とにかくライン騎士の暴走だけは止めねばならない。もしこの場で流血沙汰、報復に及んだとなれば私が主犯扱いされてしまうだろう。日頃の行いが身に沁みる。
出来るだけ軽く、そうライトに述べていこう。
「全て私がお答えします。まず、私とラムダが選ばれたのは単純な話。便利だからです。私を派遣すれば、私こそが大公閣下を護衛し登城させることも出来た。連行するなり縄で縛り付けるなり、なんでもいいのです。先に言えよと思いはしますが」
「そうすべきだった。アウグスがここまで頑なとは想像出来なんだ」
まあ、大公家自体にもいざこざはあったろう。
「ライン騎士団が外されたのは最悪の事態を想定したから。最悪とは大公家の謀反という意味です。その場合むしろ我々が大公閣下を仕留めねばなりません。そんな場にライン騎士団がいては困る」
殿下は静かに首肯し、いともあっさり事実を認めた。
「粛清の証明は、そもそもそのような空気が醸成されていたからです。アウグス閣下は北ルナリアとまで繋がりがある。もちろん冒険者ギルドを通じてではありましょうが、一体どこの勢力なのか。皆目見当が付きません」
「調べねばならん。我々の仕事が増えた」
お気の毒に。
「エストバル地域、エストマ三国に傭兵団を送るのは別にまあいいでしょう。どうせ陛下の指示です。殿下の意向には反するでしょうが、敵方の戦力を知るには敵方に入り込むのが一番。むしろ普通です」
「私は今でも反対だ。ハラルド陛下には何度も諫言申し上げた」
仲良くしろよ、親族のくせしやがって。こちとらとんだとばっちりだ。愚痴っても仕方ないので更に続ける。
「ミゲルが言うよう、陛下の追放が実行されれば殿下がこの国を執り仕切る。であるなら殿下の意向を汲むのは自然なこと。閣下のお子達にとっては父親を排除するいい口実でした。それをさっさと吐けよ、という話でしたが」
「それは言えんな。ハラルドの使者と捉えれば、何をされるか分からん」
まあそんなとこだろう。グスタフは終始損な役回りを押し付けられていた。よく我慢したものだ。
「グスタフが迎賓館での二名を除き、無能な部下を連れ歩いていたのは、いつ私が真相を切り出すか分からないからです。聖魔法の存在、そして死に化粧という隠蔽工作。そんなものは最初から分かり切っていた。どういうつもりだと説明を求められれば、部下の口を封じる為殺さねばならない。迎賓館においては、ライン騎士を叱責したあの二名がその役割を担っておりました」
「なかなか周到な男だ」
周到過ぎて空気を読むこちらが辛かった。なぜそこまで警戒心を抱くのか。私はそんなに信用がないのか? それはあり得ない。ライン王国信頼度ランキングを取れば、上位に入ること間違いなし。病院騎士団という組織票を持っているのだから。
「ミゲルの自白は自発的なものかもしれません。ですが殿下、それは通用しない。陛下のお耳に入るでしょう」
「そうか。それは仕方ない」
確実にこれとは言えないが、まあ答えはある。
「最後はご遺体の移動ですね。これをライン騎士の前で言うのは気が引けます。さて、それでもいいだろうか」
当のライン騎士に問いかけると、
「構やしません。そこの金髪のガキはともかく、どうせ全員殺しますので」
戦意は衰えず、ライン騎士が宣言してしまった。参ったな……こうなれば仕方ない。そう仕方ないのだ。だから、
「殿下、ここは折れていただけませんか。こいつは本気で殺ります。ちなみに私は止めません。彼の気持ちはよく理解出来ます」
警告を発すると、
「城内に協力者がいた。ただそれだけの話だ。それなりの人数を用意していた。これが答えだろう」
横からラムダが答えてしまった。
せっかく人が説明してやってんのに……せっかくオブラートに包んでやってのんに、全部台無しじゃないか! 人の苦労をなんだと……だったらこちらにも考えがある。一つ足を踏み出し、
「というかそもそも、この話はグランバッハ側から持ち掛けられたもの。では誰に持ち掛けたとなりましょう。当然ハラルド陛下です。そして陛下が私を指名した。アウグス閣下を王都に無事お連れしろと」
これを聞きライン騎士は瞬時に察したらしい。戦意が薄れていくのが伝わってくる。ほっとしつつ言葉を紡ぐ。
「しかしこれに反対した人物がいる。殿下、身に覚えがありませんか」
「あり過ぎて困っておる」
殿下の一言で、場の空気が一変した。ロイドとヴィクトルは、殿下とライン騎士を確かめ状況を理解したらしい。溜め息交じりで胸を撫で下ろしている。ラムダだけは真剣な顔つきだが、ライン騎士の戦意も既に微かなものでしかない。彼を完全に止める為、私は言葉を発する。
「殿下、なぜ反対したのです? なぜアウグス閣下に身内からの突き上げがあり、最悪の事態も想定されるとお伝えしなかったのです」
私なりに真摯に問いかけたつもりだ。受け取ったゲッツア殿下は、
「エルカ嬢、私は何度も諌めたのだ。北ルナリアとの繋がりはまだ早い。冒険者ギルドを図に乗らせてどうすると。そもそも有力諸侯の切り崩しを始めたのは貴殿であろう。そこになぜ、グランバッハが入っておらぬ。アウグスの立つ瀬はどこへいった」
呆れと諦観に包まれた殿下の表情は、未熟者へ教え説く大人のそれであった。




