第77話 解決編10
そう素直に白状されては、こちらの立つ瀬がないな。どこまでも追い詰めてやろうと考えていたのに。だがラムダの言い分こそ正しい。ライン騎士には悪いが私の矛は一旦収めるしかない。
「エルカ嬢、ミゲルの話はもうよい。真相を聞かせてくれ。なぜアウグスは死なねばならなかったのだ」
静かな哀しみを湛えゲッツア殿下はこちらを見ていた。全て思い通りではないと、そう言いたいのだろう。仕方ない、今は受け入れる。
「殿下のご説明、陛下のご見識、そして我々が見たところグランバッハ大公家の者は皆、聖魔法の使い手です。無論アウグス大公閣下のお子に限りますが。となると答えは一つしかありません」
私が矛を収めてもライン騎士のそれは変わらない。とにかくと話を進める。
「なぜ彼らは殺害に至ったか。それを現す出来事は常に起きておりました。分かりやすい例を一つ挙げれば、常時次兄グスタフが対応したことになります。同時に彼は、迎賓館の二名を除けば、常に無能な部下を引き連れ傍に置いておりました」
「妙な話だ」
閣下の疑問に頷きグランバッハ一族の意図を説明してみせる。
「私という存在の来訪を、ミゲル氏は陛下の使者だと評していました。なるほどそう見えはしましょうが、実際は違う。エーガー城に向かう馬車の中でラムダは私に言いました。威嚇には使える、と」
あれは軽口ではなかった。実際そうなる、機能してしまうと本音が零れてしまったのだ。
「彼らは私の来訪を知り驚愕し、身構えた。陛下、もしくは殿下がお怒りだと思い込んだのでしょう。それだけ大公閣下の私的外交は大規模かつ大胆過ぎた。恐怖が芽生えるのも分かります」
「アウグスの悪いところだ。自分を過信し過ぎる」
殿下の言う通り、そうかもしれない。
「しかし彼らは事実を述べられない。そして見事討ち取ったのです、問題の元凶を。これで万事解決、グランバッハは以降私的外交などしない。その為の殺人と言っていいでしょう」
「粛清か。誰もそのようなことは命じていない」
殿下のお言葉を信じたいという、そんな気持ちもなくはない。だが頭の片隅に追いやり続ける。
「彼らは我々を大公閣下の遺体がある寝室にまで案内し、討ち取った、元凶を取り除いたと知らせてきました。が、私はそんなこと聞いてはいない。ただ使者として同行しろと命じられたのみ。書簡の中身すら知らされていなかった」
彼らが過剰に反応した理由はいくつかある。その一つは言うまでもなく私だ。王宮での告発劇は文字通りライン王国を震撼させた。だがあれとて、有力諸侯と騎士団の力がなければ成しえなかった。
「グランバッハの一族にとっては、閣下の存在こそが問題だった。巨大な存在に彼らは怯え、更に王家にも怯え、そして私に怯えた」
「そうか。そういうことだったか……」
静かな返答に、
「はい、そうしていただいても構いません」
平板に応じる。私と殿下の視線が交わり、ライン騎士の戦意が更に増幅される。ついにロイドとヴィクトルが殿下の前に立ち、ライン騎士に立ちはだかった。彼らの表情は硬く緊迫感に包まれている。だが気に留めても仕方ない。
二人を間に挟み殿下と話し続ける。
「一つのシナリオとしてはまあ穏当と言えましょう」
「実際は違うと言いたいのだな」
「そういう側面もあろうかとは思います。ですがこれは、不自然な点を置き去りにしたもの」
「述べてみよ」
たったの一言に応じる為私は問題点を上げる。
「一つ、なぜ私が使者として選ばれたのか。
一つ、同じくなぜラムダだったのか。
一つ、なぜライン騎士団は今回の警護から外されていたのか。
一つ、アウグス閣下の私的外交はなぜ行われたのか。
一つ、大公家側はなぜ粛清したと証明したがったのか。
一つ、なぜグスタフは無能を連れ歩いていたのか。
一つ、ミゲルの自白はなぜ行われたのか。
一つ、閣下のご遺体はどうやって運ばれたのか。
そしてもう一つ、一連の画を描いたのは一体誰なのか」
真相というならば、これらの説明は不可欠だろう。
「エルカ嬢、最初の三つは私が決めたことだ。君とラムダ君が相応しいと私は考えた」
「理由をお教え下さい」
「それは出来ない。機密である」
なんとも便利な言葉だ。この男は死にたいのか。ライン騎士の怒りは本物だ。彼は常に殺意を携えていた。殿下の言う第二の主、ライン騎士団にとって欠かせぬ有力者を殺され、黙っているはずがない。
「これ以降はエルカ嬢、そなたが答えるべきもの。判断は私が下す」
殿下のお言葉に、
「お断りします」
もはや価値はない。泣き落としで落ちるとでも思ったのか。安く見られたものだ。立ちはだかるロイドとヴィクトルの向こう、その男に告げる。
「陛下の裁断をもって結論と為す。これが最低条件であり、私が話すことはもはや存在しない。老いぼれの相手をする暇など私にはない」
厳然たる拒絶に、しかし、
「エルカ嬢、追放を早めようとしても無駄だ。ハラルドの考えは変わらん」
静かなる返答をもって殿下が応じ、敵もさる者と思い知る羽目となった。ったく、バレてら。心底面倒な親父共だ。真相ならそちらの方が詳しいだろうに。こうとなればライン騎士の怒り、なんとしても抑えねば。でなければ、こいつは本当に殺りかねない。




