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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
2章最終編 華麗なる推理劇
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第71話 解決編4

 アウグス大公閣下は元々武人であり、ミゲルが言うような文官上がりではない。少なくとも文官に特化した官僚ではないだろう。殿下の表情を確かめるが、そこに揺らぎは見られない。怪訝な顔こそすれど、私の報告を最後まで聞く姿勢を見せている。


「閣下は会見の場において自身の見識を披露されました。ですが私相手に北ルナリアの実情まで語るのは不可解です。殺戮勇者の話題ならいざ知らず、閣下は外交方針まで語っておりました。そう、聖王国ナルタヤに全て押し付けてしまえばいいと」


 これらはラムダの報告書にも記されているはずだ。


「ミゲル氏が言うよう閣下はエストマ三国の争乱に参戦しておきながら、そのことには触れませんでした。事実関係は隣のライン騎士に確認済みです」


 閣下は偽りを述べたわけではない。ただラムダがいたので言えなかっただけだ。そもそも、この経緯はライン騎士団が私に漏洩すれば一瞬で露見する。


「閣下は登城にはなんの差し障りもないと仰っていました。ですが一方で、明らかな時間稼ぎを行ってもいます。これはミゲル氏が言うよう、王家と駆け引きするつもりだったと見ていいでしょう」


 殿下の表情から疑問が見て取れた。確かに殺人事件の話からは逸れている。


「では話を戻します。会談後大公閣下はミゲル氏と話し合いの場を持った。その後残るご一族、ご子息ご息女とも話し合われたでしょう。これは夕食会の前になり、ミゲル氏はここで殺害を決意したと証言しています。ですが無理ですね、お話になりません」

「一ついいだろうか。本当にガジという植物に毒性はないのか。そんなものは存在しないと言い切れる理由はなんだ」


 ゲッツア殿下の疑問にラムダは沈黙をもって応じた。皆も同様だ。だから私が答える。


「意味がないのです」

「意味?」


 頷き話を進める。


「夕食会が終わり、我々はゲストハウスへと移ります。そこで閣下はミゲル氏を人質に出すつもりなのだと、ラムダから説明を受けました。その後二人共、用意された部屋に入り就寝と相成ります。そして明朝、閣下はお亡くなりになっていた」


 ここまでの流れは報告書に記載された通りだろう。問題はここからだ。


「早朝から居館は騒ぎとなっており、勘付いた私達は入口のみ強引に突破しました。私が来訪した途端閣下の身に何かあったとなれば、まず私が疑われるでしょう。それは避けたかったというのが本音の一つです」


 殿下はむべなるかなと首肯している。


「ですが強引に突破したのは入口だけです。それ以外は全く阻止されることなく閣下の寝室にたどり着けました。これは私だけでなく、ラムダも同行した護衛十名も同じです」


 多少揉めたとはいえ、結局たどり着けたという事実が重い。殿下とて気付いているが黙して語らない。


「私が最初に見たのは閣下のご子息ご息女。廊下に長姉エミール氏と次兄グスタフ氏。そして三男クリスティアン氏に四男フリート氏。寝室の中ではミゲル氏が青い顔で呆然としておりました」


 誰も口を挟まない、これでは独擅場だな。そんな他愛ない思考は捨て去り続ける。


「ミゲル氏と侍医が出迎えてくれたので、状況の把握はすぐに出来ました。閣下がお亡くなりになっている事実を受け入れる時間は必要でしたが」


 簡潔かつ不自然な説明に、殿下の顔つきが明確に変わった。やはりその意味を理解している。


「続きロイドとヴィクトルが現場に到着し、閣下に持病はあったかとミゲル氏に確認しました。侍医が何もないと言うので、私は閣下のお身体を拝見したいと申し出ます。ここでラムダが到着しました」


 聞き手に徹する殿下は名前が挙がった三人を眺めるが、特に言うこともなかろう。


「問題はここからです。ミゲル氏の許可を得た我々四人は大公閣下の遺体を確認させていただきました。検死の経験こそありませんが、グスタフ氏の言葉を借りるなら私達とて専門家ではあります。そして一目見て、私は感心してしまいました」

「何に感心したのだ」


 疑問に満ちた殿下の問いに、


「あまりの隠蔽技術に感心してしまったのです」


 率直に応じる。あれは実に見事なものだった。


「魔法、正確には聖魔法による痕跡の隠蔽技術は私も見たことがありません。先に述べた通り、隠蔽していることは分かってもそれがなんなのか咄嗟には判別出来ない。そもそも目にしたことがありませんから」


 あの瞬間の衝撃は忘れられない。聖魔法とはかくも有用かつ多機能なものなのかと、見惚れてすらいたのだから。


「最大の問題は次に起きます。下履きも剥ぎ下半身を含め全身を確認したいという私に、グスタフ氏が激怒しました。私は言います。実況見分です、不要と仰いますか、と。すぐさまグスタフ氏は応じました。既に済んだ、無用だと」


 演技がかってもいない再現に、初めて殿下の表情が明確に揺らいだ。その意味を正確に理解したと、その眼で雄弁に語りながら。

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