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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
2章最終編 華麗なる推理劇
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第72話 解決編5

 もはや事の経緯を説明する理由も乏しいが、それでも続けねばならないだろう。


「実況見分が済んだとは一体どういうことか。分かり切ったこととはいえ、絶対に見逃せないと私は考えました。実際いつ行ったのかはともかく説明を求めましたが、グランバッハ一族を始めエーガー城側は誰も応じようとしない」


 室内に存在する微かなざわめき。それはあの場に立ち会った皆の憤りと言って差し支えない。そして殿下も、その怒りをよくお分かりだろう。


「ここまで来れば我々も引くに引けない。私の護衛十名全てに、閣下のご遺体を確認するよう命じました。そしてミゲル氏に対し、私はあえて検死を要求します。それすら応じなかったので閣下のお背中、背面も確認するよう更に命じました。遺体を転がせと命じたのです」


 ロイドがため息を吐き、ヴィクトルは無言ながら眉間に皺を寄せている。思い出すだに腹立たしいのだろう。


「これにグスタフ氏が激怒しましたが、ラムダが諌めました。グランバッハの名を出し恫喝するグスタフ氏に、ラムダは王家の名代を差し出し冷静に応じます。王家、殿下の名代に対する侮辱が目に余ると。見事な対応と言わざるを得ません」


 そのラムダは目を閉じ苦しげだ。彼とてそこまではやりたくなかったろう。だが私が対応すればああはいかない、あれでは済まない。


「互いに侯爵家を代表し、更に王家の名代という責を背負っています。確認を終えた我々は部屋を変え、グランバッハ一族及びエーガー城関係者に更なる説明を求めました。事件当夜、更に早朝までに一体何が起きていたのかと。対応したのはやはりグスタフ氏でした」


 今となれば彼の役割に思うところはある。だがこちらにも背負うものがあるのだ。


「最後に閣下を見たという侍女、そして近衛騎士は何もなかったと主張しました。今更彼らを責めるつもりはありませんが、馬鹿にするにも程がある。あの場にいたのが我々でなくハラルド陛下やゲッツア殿下なら、全員に厳しい処罰が下っていたでしょう。最悪斬首になっておかしくない。一族への処罰すらあり得る。そんなお方の名代を彼らは軽んじたのです」


 ここで初めて、ライン騎士の男が不適な笑みを浮かべた。いや違う、我々ならもっと凄惨な処罰を下していた。そう言いたいのだろう。だが口にはしない、当然だ。


「エーガー城内における教会の有無はともかく、侍医も遺体は死後硬直が始まっており、死後二時間以上経過していると述べました。ふざけた話です。そんなことは言われずとも分かっている。もはや遠慮は無用、ここで我々は解剖の必要性を切り出します」


 説明を受け続けるゲッツア殿下は小さく、何度も頷き理解を表していた。


「これにエリザベート氏が強く反発しました。泣いたり喚いたりと忙しいお方でしたが、父親の遺体を切り刻めというのか、と。当たり前です。万が一にもあり得ない可能性ですが、エーガー城側が説明出来ない理由に対する根拠を求めたのです」


 静まり返る一刻が生まれ、皆でその空しさを噛み締める。その場にいなかった騎士達も後に話を聞き、その空虚さを味わったのだ。


「病死だと主張するエリザベート氏。検死と解剖の必要性を求める私とラムダ。ここで思いもしない伏兵が現れました。まだ十五歳の四男フリート氏です。彼は検死解剖の必要性を認め、兄グスタフ氏を挑発し場をかき乱した後、こう言いました。そんなことが出来る奴はそもそもいない、と。私の心象になりますが、危うい人物であり事実危ないところでした」


 危うくその場で、本当に殺しそうになってしまったのだから。人を見下し、自分の優秀さをひけらかすにも限度というものがある。舐めたガキだが、それこそが幼さの現れとも言える。


「フリート氏は検死及び解剖が事実上無理難題であり、不可能である旨のご高説披露します。皆が納得する形で。末恐ろしいと感じつつ、しかしその主張は正しい。場の主導権を奪われ、一杯食わされたと歯噛みする私に対し、ラムダはあっさりフリート氏を退場させました。このやり取りは記録として残るぞ、と忠告をしつつ」


 実にスマートなやり口だった。ゲッツア殿下がラムダを評価するわけだ。私とてかつての婚約者。秘密会議を除けばその仕事ぶりを初めて見たが、ここまで出来るとは知らなかった。思うところはあるが事件とは関係ない。だから続ける。


「以降、事実当夜と翌朝の対応、そしてエーガー城側とグランバッハ一族のアリバイを確認しました。当然何も出てこない。こうなればもはや手立ては関係ありません。私は今一度口にします。はっきりと言葉で伝えたのです」

「この調査報告書に記されている通りだな」


 ただ一人、私の独擅場と化していた執務室。そこにようやく殿下が割り込んできた。そして私に代わり、


「エルカ嬢、君は言った。検視を行ったのはたった一人の医師。現場検証もまともにされず、実況見分すら口頭で済ませる。正気とは思えない、と」


 殿下は落ち着き払いながらはっきりと、言葉という形にしてみせた。

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