第69話 解決編2
初めて見る殿下の威圧感。それでもここにいる一同は動じなかった。
「それはないと我々は考えます」
「どういう意味だ」
声を上げたヴィクトルを睨みつけ、殿下は結論を求めた。
「そのような転生者は未だ確認されておらず、また動機も不明瞭。仮にいたとするならばミゲル様の証言と噛み合いません」
堂々と述べるヴィクトルを見て、私だけでなく殿下も感心したらしい。
「考慮するだけ無駄と。それでは前後が噛み合わないということだな」
「そうなります」
転生者を考慮に入れると矛盾点が浮かび上がる。そしてやはり、動機が分からない。スズキ・マイケルと同様の力を持つ者がいたとしても、無理なものは無理なのだ。
殿下は腕組みし背もたれに体重をかけた。
「なるほどよく分かった。ではミゲルは偽りを述べた、或いは誰かを庇っているということか。いや違うな、そもそも死因が全く分からない、そういうことか」
殿下の問いかけに皆無言をもって応じる。
「では一つ目の自然死、不審死とするしかないのか」
これには皆、全く同意の意を見せようとしない。静かな室内に緊張が走り、殿下の苛立ちが伝わってくる。
「諸君らに改めて問う。諸君らは答えを持っているのか」
この問いにラムダは俯き、ロイドとヴィクトルは私を確認している。ライン騎士は特に興味もなさそうだ。だから殿下は私を指名した。
「エルカ嬢、これは一体どういうことだ。一体何を調査していた。報告書もなく手ぶらで帰るとはいかなる了見か」
「時間がありませんでした。調査はつつがなく、特に問題はありません」
「ならば君はこの件をどう考える。見解を述べよ」
「死に化粧が施されておりました」
短く告げたそれに殿下は眉根を寄せた。皆に視線を巡らしどういう意味かと説明を求めている。それでもやはり、誰も応じようとはしない。致し方なく殿下が先に口を開く。
「ラムダ君の報告書には死に化粧などと記されておらんぞ」
「そうでしたか。ですが死に化粧が施されておりました」
「それはいつの話でどのようなものだ」
殿下は無駄がお嫌いらしい。急かす殿下に、私あえて時間を置き答える。
「お亡くなりになったのはアウグス大公閣下のみ。死に化粧が施されておりました」
執務室に再び緊張が走る。私の返答は答えになっていない。それでもなお私は告げてみせた。埒がいかないと判断したか、ゲッツア殿下は同席する騎士三名とラムダに確認した。
「騎士諸君そしてラムダ君、死に化粧とはなんだ。諸君らはそれを見たのか」
「見ましたね」
ライン騎士が無礼極まりない態度であっさり応じ、ゲッツア殿下はそれを睨み付ける。しかし、
「私も確認致しました」
「同様に。しかとこの眼で」
ロイドとヴィクトルが続いたことで状況は変わる。確かめる為殿下は再び報告書に視線落とし、
「ラムダ君、二つの報告書には死に化粧などと記されておらん。これはどういうことか」
詰問染みたそれにラムダは沈黙した。それを見た殿下は報告書を執務机に放り出し、私に厳しい視線を向けてくる。
「エルカ嬢、迂遠にも程度というものがある。時系列で説明せよ」
「分かりました」
ゲッツア殿下が仰るなら仕方ない。一つ息を吸い、
「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように行ったかを説明致します」
頷く殿下に、努めて冷静に真相を告げる。
「いつ、我々がエーガー城を訪問した日の午後十一時以降の深夜。どこで、議事堂本会議場にて。誰が、犯人が。何を、殺害を。なぜ、大公家の地位を守る為など複数の要因から。どのように、限りなく凄惨に。無論全て、大公閣下を殺害する為に実行されたものです」
時系列ではないそれを聞き、それでも意味するところは伝わっただろう。ゲッツア殿下は驚きと共に、素早く皆の表情を確かめた。そして今一度私に確認する。
「待て、つまり殺人事件と断定出来るのだな」
「はい、死に化粧が施されておりました」
何度目になるのか、死に化粧という言葉に殿下の苛立ちは怒りへと変わろうとしている。だが事実なのだ。だからこそ、私は真実を述べねばならない。




