第68話 解決編
グランバッハ領エーガー城を夕刻に出て、丸二日の道のり。我々は急ぎ旧王都レイラ・ノヴァを目指し、今はゲッツア殿下の居城、その執務室に待機している。
同席する面々はラムダ・フィン・クラウザー。
続き神殿騎士ロイド・ヴァレンシュタイン。
更に教会騎士ヴィクトル・クーベリック。
そしてライン騎士団からただ一人参加した男。
最後に私だ。
私とライン騎士が執務机の正面に立ち、ラムダは私から見て左手。ロイドとヴィクトルは右手に並んでいる。
小さく簡素な執務室は、恐らく控えとなる二つ目の執務室なのだろう。執務机や調度品も質素なもので、とても王族のものとは思えない。懐中時計を見れば午後七時を指しており、奥の小さな扉が開いた。夜半だが執務用の装束をまとったゲッツア殿下が入室し、席に着く。
「皆ご苦労。急ぎの用件らしいな。では始めよう」
ゲッツア殿下の合図により最後の会議が始まる。
もちろん主題は「アウグス・グランバッハ大公閣下の死について」だ。
私から見て左手、ラムダが書類を二通り取り出し殿下へと手渡す。ゲッツア殿下は書記官も連れておらず一人で参られた。護衛と言えばロイドとヴィクトルが務める形になるだろう。私やライン騎士の男も一応含まれる。
殿下は二通りの報告書を順に確認している。一通目に書かれているのは恐らく不審死についてだろう。原因不明の死について記す事柄はそう多くない。
二通目は当然ミゲルの自白である。ガジという植物の根を使い閣下を毒殺した。手段、動機共に記されたそれに目を通す殿下の表情が険しくなる。時間を使い報告書に目を通したゲッツア殿下は、徐に口を開いた。
「大公殿がお亡くなりになったことは先に報せが届いている。残念でならん。だがラムダ君、これはどちらが事実なのだ」
「どちらも事実としか言えません」
躊躇いながらもラムダは応じ、皆真剣な眼差しで見守っている。ただ一人、ライン騎士の男を除いて。そんなライン騎士など気にも留めずゲッツア殿下はラムダを問い質す。
「どちらもとはどういうことか。ミゲルは自白しておるではないか」
「証拠がありません」
ラムダの一言でゲッツア殿下の表情は更に険しくなった。皆を見回し、どういうことかと無言で問うている。誰も応じないのでやはりラムダが説明を始めた。
「今回の件、事件としますがそもそも我々には調査権、捜査権限がありません。閣下の薨去につき、特例として調査はしましたが出てきたのはミゲル氏の自白のみです」
「それでは足りんと諸君らは考えるわけだな」
「いえ、その判断は殿下が行うものと考えます」
ラムダが明言したことにより、ゲッツア殿下は状況を把握したらしい。確かに閣下は亡くなった。そしてミゲルが自白した。だが、それを事実として扱うか否かは殿下が決めることなのだ。
「自白では足りん不自然な点があるということか」
殿下の表情は明らかに曇っている。結論を記した報告書かと思えば、調査報告書に過ぎなかったことが判明したのだ。深いため息が零れ、
「諸君らが思う疑問点を挙げよ」
殿下はラムダに確かめた。ラムダは一つ頷き語り始める。
「まずミゲル氏が用いたという毒物ですが、恐らく実在しません」
これを聞き殿下の表情が更に曇る。我々を一瞥するが誰も異論は唱えない。諦めた殿下はラムダに続きを促し、彼は更に説明する。
「眠るように死ぬ、それは毒殺ではなく薬殺と呼ぶべきでしょう」
「薬物ならあり得ると言うことか」
「そうなります。しかし大量の薬物を投与せねばならず、それは異世界で言う安楽死と変わりません。そのような薬物はこの南ルナリアに存在しません」
ラムダの言にゲッツア殿下は前のめりになった。騎士達に鋭い視線を向け意見を求めている。だからロイドが応じた。
「まず個人的見解ではありますが、暗殺の類は我々神殿騎士団、そして病院騎士団の得意分野。病院騎士団三名に薬殺の可能性の是非を確認しましたが、殺人に至る薬物はあってもああはならないとのこと。我々も同意見です」
ロイドの説明を聞き、閣下は改めて二通の報告書に目を通した。閣下のご遺体がどのような状態だったか、その点を確認しているのだろう。
「眠るように亡くなった。しかしそれには大量の薬物が必要であり、そんなことはあり得ない。またそのような薬物は存在しない。つまり諸君らは、転生者の仕業ではないかと言いたいわけか」
ゲッツア殿下の眼光は今までにない程鋭くなり、我々を射抜いた。




