第67話 ミステリーの時間8
だがそのライン騎士はいない。
ラムダは更に説明を求めたいだろうが、ミゲルの姿が痛々しく口を開こうとしない。時間をかけるつもりなのだろう。だが私の考えは違う。だからこの時間を少しばかり利用させてもらおう。
「ミゲル様の苦悩、このエルカ・ライン・アールブルト、これ以上ない苦しみであったと拝察します」
「あ、ああ……。すまない、うまく説明出来たろうか」
話すのも辛かろう。だが、ミゲルのそれは慟哭に至らない。当然だ、彼は次期当主である。無力感に苛まれても、悲しみに明け暮れることは許されない。だから問う。
「まだ、いくつかお聞きしなければならないことがあります」
この言葉に、ミゲルは乱れた感情を必死に立て直そうとした。そしてそれは、ある程度うまくいったらしい。彼は呼吸を整え、こちらを見据えた。
「分かった。エルカ殿の問いとあらば、喜んでお答えしよう」
「感謝致します。早朝、閣下がお亡くなりになったと第一発見者が見つけた際、ミゲル様への連絡があったと推察します」
「当然そうなる。まさか今日なのかと、動揺したよ」
そんなことはどうでもいい。が、本心と受け取っておこう。
「その際、現場の状況はどのようなものでしたか」
「現場か……」
ミゲルはひとしきり考えた後、
「皆動揺し動転していた。繰り返すが、情けなくも私自身動揺していた有り様だ」
「今少し詳しく。侍女や衛士、閣下の様子はいかがでしたか」
「父上?」
怪訝な顔で見つめてくるミゲルに真顔で応じる。彼は戸惑いつつ口を開いた。
「先に述べた通り、眠るように死んでいた」
「つまり部屋そのもの、デュベやシーツ、着衣に乱れはなかったのですね」
無言で頷くミゲルに今一度確認する。
「全くなんの異変も感じられず、事実眠るようにお亡くなりになっていた閣下がいたと」
「そうだ。早朝、最初の報告から切迫感があり私は確信した。ああ、酒を口にしたのだなと」
まあ、それはそうだろう。閣下とて酒ぐらい嗜む。
「以降立ち会ったグスタフ様、フリート様、及び回復魔法の使い手らも、一目確かめ時既に遅しと判断された」
「そうなる」
「第一発見者、侍女や衛士に不審な点はありませんでしたか」
「特に、いや全くない。君達が見た光景と何も変わらないのだ」
それならそれで構わない。あくまで確認しているだけなのだから。さて次である。あまり長くなるとラムダの邪魔になる。
「グスタフ様よりお聞きしました。閣下は教会との距離感に苦心していたと」
「そうだな。ライン騎士団を重用すると他の顔が立たない。だが情報の漏洩を防ぐ為にはライン騎士団が相応しい。先に述べた通りだ」
「失礼ながら、閣下の第一夫人と第二夫人は既にお亡くなりになっているとお聞きしました」
「ああ……第一夫人が私の母で、第二夫人がエミールの母親になる」
「死因をお聞きしてもよろしいですか」
この問いかけに、ラムダが一瞬こちらを見た。だが割って入るつもりはないらしい。ミゲルも問われたことは全て応じる姿勢をみせている。
「二人共に病死だ。私の母は十年前。エミールの母親は五年程前になる」
「失礼致しました。もう一つ、ミゲル様及びグランバッハ一族の方々は、魔法の使い手でしょうか」
魔法、と呟いた後ミゲルは首を捻りつつ応じた。
「グスタフはハンターだ、言うまでもないだろう。クリスティアンとフリートも使えはする。エミールやエリザベートは使い手ではない。幼い弟妹達はこれから分かるだろう。私は全くダメだ、基礎技術すら習得出来なかった」
「閣下はいかがです」
シンプルな問いにミゲルは苦笑した。
「父は大公となったが、元は官僚であり文官出身だ。私同様魔法は使えない。エーガー城内では護衛も付けず歩き回っていたが、外に出れば物々しい限りだよ。私に魔法の才がないのは自分譲りだと、父はよく言っていた」
そうか。では最後だ。
「最後になります。ミゲル様は殿下からの書簡の中身をご覧になりましたか」
「いや、実物は見ていない。だが急ぎ登城せよと記されていたのだろう?」
ミゲルに水を向けられたラムダは、
「そのようです」
簡潔に応じた。話が落ち着き、ここからはミゲルが問いかける方向となった。
「ラムダ君、いやラムダ殿。本来は私が人質として王都に赴く予定だった。だがこの有り様だ。それでも私が行くべきと考えるが、どうすればよいと思う。殿下のお気持ちが知りたい。陛下はどうお考えだろう」
ミゲルの本題はこちらだな。切羽詰まった感がある。もう私に出来ることはない。後は二人で話し合うことだ。一応最後まで付き合うが、殿下にどう報告するかを考えねば。
これは工夫が必要だ。
最悪、ハラルド陛下を激怒させかねない。
事を慎重に進めるか、つまびらかにしてしまうか。
それが問題だ。




