第65話 ミステリーの時間6
ミゲルの発言に熱が帯びる。
「エストマ三国に精鋭部隊を送り込めば、グランバッハ領内は手薄になる。こうなるとライン騎士団に頼るほかない。彼らの増長は目に余るがそうはいかない、次は彼らの番だ。君達は知らないかもしれないが、ライン騎士団までエストマ三国、魔族との戦いに狩り出された」
目の前の男の真剣な語り口に私は目を細めていた。ライン騎士団もエストマ三国で活動していたのか。ラムダは知っていたのだろうか。表情からは読み取れない。ミゲルは更に続ける。
「こうなるともう手に負えない。どれだけ彼らに借りをつくり、どれだけ血を流せば済むというのだ。私は父を何度も諌めた。国王陛下の知るところとなれば、いかがするのかと。陛下だけではない、殿下とて私的外交を許しはしないだろう」
確かに、見方によっては私的外交だ。だがそうと分かる形は取らないだろう。
「確かにあくまで傭兵団だ。簡単に露見しないと父は高を括っていたが、見込みが甘いと私は考えたよ。王家、特に殿下の情報網を甘く見過ぎだ。そもそも王都にある諜報、防諜組織をつくり上げたのは殿下と父だ」
ミゲルは自嘲し顔を歪ませた。閣下と殿下が共に国政の中心にいたのは十年以上前。その頃から準備していたのか。そしてラムダは、今その一員となっている。ラムダは応じ辛いだろうな。
「しかし事の本質はここではないのだ。問題はこれらではない」
「と言いますと」
短く静かなラムダの問いに、ミゲルは苦しさを隠そうとしない。苦悶の表情を浮かべ、それでも彼は覚悟を決めた。
「傭兵団はどこまでいっても傭兵団だ。確かに欺くことは出来るかもしれない。仮に露見しても、言い繕うことは可能だろう。それが、エストマ三国への隠された支援であるならば、な」
彼の言い分を理解し、ラムダは天を仰いだ。私の視線は揺るがずミゲルを捉えている。ラムダが姿勢を整えると同時、
「我がグランバッハの傭兵団はエストマ三国へ侵略行為を続ける、魔族の勢力にも派遣されている」
ミゲルは結論を述べた。重い荷物を下ろすよう告げられたそれが、意味することは大きい。事実ならアウグス閣下は、魔族に肩入れしていたということになる。
戦争は金を生み、戦争は金になる。
魔族との争いを商機と見たアウグス閣下は、同盟の有無など勘案せずエストマ三国及びアルタニアに手を出した。無論、たかる為だ。
一方侵略者である魔族と転生者、そしてそれに追従する国家にも傭兵団を送り込んだ。
なんのことはない、金にさえなればそれでいいと。
仮に傭兵団の同士討ちになるならば、片方が逃げ出すか寝返ればいいのだ。
したたかな策士、そして金の亡者。
ミゲルは全てを吐露したと、その表情が語っていた。
もはや苦痛に歪むそれは見えない。
「だから私は決意した。もう父を排するしかないと」
大公家の跡取りは、疲労感残る顔つきながら流麗に述べる。
これが事の真相であり事実であるのだと。
ミゲルの視線が私を捉え私の視線と絡み合う。
気の毒な立場は慮ろう。その苦悩は並大抵のものではなかっただろう。私の権限で片を付けていいならば、今日中に片は付く。しかし正式な使者はラムダであり、私は同行者に過ぎない。二人に任せる為、私は口をつぐむことにした。
だからラムダが口を開く。
「事情は理解しました。その上でお聞きしたいことがあります」
「了承した。なんでも聞いてくれ」
「いかなる殺害方法を用いたのです」
ラムダの眼は凍てつく程に冷たい。そう、動機の程は理解した。ならばどうやって殺したのか。
いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように行ったかの説明が為されていない。ミゲルはここで初めて苦笑してみせた。
「確かに、父の遺体からすれば不自然極まりないか」
「そう思います」
ラムダとて現場に立ち会ったのだ。閣下のご遺体は彼も確認している。ラムダの問いかけにミゲルは口元を歪ませ、告げた。
「毒殺だ。ただし、昨夜死ぬとは思わなかった」
「というと」
「父は就寝前に酒を飲む習慣がある。ただし絶対ではない」
「つまり、ワインや酒の類にあらかじめ毒物を仕込んでいたと」
ミゲルは小さく頷き、テーブルの上で両手を組んだ。
「無味無臭。その毒物は体内に入ればまず助からない。どんな回復魔法も意味を成さない。そしてその特徴は……」
一つ間を置き、
「眠るように死んでしまうということだ」




