第64話 ミステリーの時間5
地下三階、奥まった場所に扉がある。蝋燭に灯され影が揺れ動く様は地上とは対照的だ。案内してくれた二人の衛士が扉を開くと、明るい光が目に飛び込む。どうやら大量のランタンと蝋燭で照らしているらしい。
「では失礼します」
衛士の一人が言い残し、二人は去っていった。
開かれた地下室にまずラムダが入り、私はそれに続く。
招かれた地下室は当然広くない。簡素な造りで蝋燭が置かれた木製のテーブルが一つあるのみ。
その向こうに彼がいた。
「すまない、わざわざ来ていただいて」
黄金色の髪をした、ミゲル・グランバッハがそこにはいた。
我々の為に椅子を二つを用意してくれていたらしい。ミゲルに促され、左右に分かれそれぞれ腰掛ける。ミゲルはひと息吐いてから口を開いた。
「調査はどうだったろう。私は報告しか聞いていないんだ」
「特段支障はありません。こちらの無礼が目に余り、事後処理にあたる者が気の毒な程です」
ラムダの返答は私への嫌味のつもりだろうが、ミゲルには笑えなかったらしい。唇を噛みミゲルは告げた。
「恐らくだが、どれだけ調査しても証拠は出てこないだろう。父の遺体こそが証拠なのだが、検死や解剖はやはり出来ない」
淡々と彼は続ける。
「これ以上お二人に負担はかけられない。城の者も同様だ」
「いえ、我々はもう調査致しません。形式だけ確認させていただければ、帰途に着きます」
ラムダは明言した。そう、形式だけと開き直るのね。確かにこれ以上は意味がない。それを聞いたミゲルは、夕食会の時とは異なる薄い笑みを浮かべてみせた。疲れ切った色合いが強い。
「形式か。そうだな、それなら不満もないかもしれない。だがもう必要ないのだ」
吐き出すよう述べられた言葉に、テーブルに一つ置かれた蝋燭の灯りが揺れる。
「君達は父の死に不審な点があると判断しているんだね」
ミゲルの言葉に、ラムダは私を一目確かめた。ラムダが応じないなら私が答えるべきだろう。
「事件性ありと判断しています」
端的に応じると、ミゲルは小さく頷いた。しばしの時間が経て彼は徐に口を開く。
「父は殺された。これは間違いない」
沈痛な面持ち、ミゲルの姿は痛々しく見ていられない。それでも私達は向かい合うしかない。
「証拠、もしくは証言や証人、目撃者がいるということですか」
ラムダの問いに対しミゲルは首肯する。
「証拠はないだろう。だが証言は得られる。証人もいる。目撃者は……」
ミゲルはそう言った切り俯き黙り込んだ。思うところがあり、心の整理が必要なのだろう。私は口を閉ざし、ラムダもまた同様だった。どれくらい時間が経ったか、ミゲルがようやく顔を上げた。
そして、
「犯人は私だ」
はっきりと告げた。
いっそ楽になったと、ミゲルから力が抜けていくのが分かる。こうなるともはや躊躇いはないらしい。彼は饒舌に語り出す。
「父はやり過ぎたんだ。挙げ句時勢を読み間違えた。君達、いやエルカ嬢が来ると知り私は心臓が飛び出る程驚いたよ。ハラルド陛下のお怒りはそこまでなのかと」
肩に力を入れ彼は続ける。
「だがこれからのライン王国を執り仕切るのはゲッツア殿下だ。これは間違いない。追放か否かはともかく、陛下御自ら殺戮勇者と談判に及び、南ルナリアの命運を賭けた戦いに馳せ参じるのだ」
静かに首肯し、そうなるだろうと同意する。
「それでも未だ、ハラルド陛下はこの国の国王だ。残されたゲッツア殿下の為にも地ならしは怠らないだろう。次代に繋ぐ為にも、ライン王国の為にも。そうして君達が来た」
ミゲルの視線は私、ラムダと移りいく。
「しかし父は、してやったりと手を叩いて喜んでいた。私には意味が分からない。だからあえて尋ねた、何が喜ばしいのかと。父は言ったよ、ハラルド陛下は私の価値をよく理解されている、と」
苦渋を滲ませ彼は更に続ける。
「父は自分の行いが評価されたと勘違いしていた。違う、私からすればあれは蛮行だ。無許可で同盟もない他国の争いに介入するなど臣下の道にもとる」
なるほど、話が見えてきた。
「もう言わずとも分かるだろう。父は魔族との戦いが続くエストバル地域、エストマ三国に傭兵団を送り込んでいたのだ。それも、グランバッハの精鋭部隊をだ」
・こちらに65話投稿していたので修正致しました。




