第63話 ミステリーの時間4
本会議場が静けさに包まれる。
終わりという言葉を聞き、騎士達は内心安堵しているだろう。かつての同僚など、エーガー城内には彼らの知り合いがいる。その伝手を使い見取り図を用立ててもらったのだ。これ以上継続するなら彼らと対立しかねない。
沈黙は透き通るよう静謐を運び、事の終わりを告げていた。
長く静かな時間。
だが、いつまでもこうはしていられない。
「ヴィクトル、一つお願いしていいかしら」
沈黙を裂き、教会騎士ヴィクトル・クーベリックを見て取る。当初優男に見えた彼は今では頼もしく思えた。丁寧な所作で立ち上がる彼に、
「居館で叫んだあれなんですけど、本心と受け取ってよろしいですか」
騒ぎの発端となった、あの所属騎士団に対する愛の発露を確かめた。彼はらしくもない笑みを見せ、
「はい。教会騎士団には私の愛する仲間がいます。永遠であれと、心から思います」
誇らしげではあるが、どうやら照れているらしい。そうか本心だったか。では一つ頼み事といこう。
「あれ、もう一度ここでやってもらえますか」
「はい?」
途端、ヴィクトルは怪訝な表情を浮かべ戸惑いを隠せずにいる。それでもお願いする。
「最後に、これにて会議を終了する、と付け加え再現していただきたいのです」
無理な頼みは承知の上。さすがに皆苦笑してヴィクトルに同情を寄せている。ラムダだけは興味もなさそうだが、
「やれよヴィクトル。教会騎士団は最高で最強なんだろ」
ロイドにからかわれ、
「会議の締めを任せられるとは羨ましい。次はライン騎士団が受けもとう」
ライン騎士に背中を押された。
ヴィクトルは露骨に顔に出すタイプではない。そんな彼が口を真一文字に結ぶ姿はとても愛らしく思えた。溜め息一つ吐き、彼は首を縦に振った。
「エルカ様のお望みとあれば、今一度ご披露致します」
恨み節も込められたそれを見て、やはり可愛いと思ってしまうのは仕方がないことだろうか。女性が私しかいないのが残念だ。話に花を咲かせたかった。
皆が耳を塞ぐ仲、大きく息を吸いヴィクトル・クーベリックは心からの叫びを声にした。グランバッハの旗の下、これで会議は終了となる。
正面玄関が開くと、朱色の空が広がっていた。陽の傾きは激しく夕暮れが始まりつつある。警備を任された病院騎士団員三名が出迎え、
「問題ありませんでした。グスタフ様が早々に立ち去られたので、誰も手出しは出来ません」
唯一まともと思われる病院騎士が告げ、外の様子を報告してくれた。礼を言い、話し合いの末調査は終了と決まった、そう告げると彼は周囲を窺いながら声を潜めた。
「待ち人がいます。居館入口をお確かめ下さい」
言われた通り視線を向けると、遠くにフリートの姿が見て取れた。あのガキ……今更なんの用だ。もう終了と決まった、話すことはない。まあいい、と小さく嘆息し病院騎士団員三名に確認する。
「本当に何も問題はありませんでしたか」
三人は顔を合わせ、それから皆で首を縦に振っている。そうか、何もなかったか。些細なことが一つも。
「エルカ様、私が先導致します」
ロイドはそう告げ居館の入口へと歩み始めた。残る者は私の周囲を固め警護という名の監視を実行する。庭園を横に私も歩を進める。朱色に染まるエーガー城は美しいだろう。だがそれを愉しんでいる場合ではない。徐々に居館の入り口は近づいてくる。
入り口には衛兵がいなかった。どうやらフリートが追い払ったらしい。何もこんなに目立つ所で待たずともいいだろうに。互いの距離が縮まると、ロイドとヴィクトルが私の前に立ち遮る姿勢をみせた。グランバッハ一族との話し合いの内容は彼らも説明を受けている。これ以上のいざこざは困るということか。
そのフリートに表情はなかった。我々を手玉に取ったあの姿からは想像が付かない程、普通の少年に見える。関わりたくもないが仕方なく声をかける。
「何か用ですか」
「はい。居館の地下室にてお話ししたいとのこと。案内は衛士が行うので、そちらに従って下さい」
無表情な少年はそう告げ頭を下げた。そして姿勢を戻し続ける。
「エルカ嬢、ラムダ殿のみで入室下さい。騎士の皆々様はここでお待ちを」
彼は入口に腕を伸ばし、自然私と目が合った。揺るがない視線から、偽りではないことが読み取れる。
どうやら本当に待ち人がいるらしい。
ラムダを確かめると目を細めていた。いかにも訝しげだ。
騎士達は私に判断を委ねるらしい。動揺は見て取れない。
ならばお誘いに乗るとしよう。
「役目ご苦労。案内させよ」
フリートに告げ私から居館へと向かう。ラムダが続き我々は再び居館の内部へと入った。




