第62話 ミステリーの時間3
今の今まで話し合っていた彼らに告げる。犯人はここにいると。しかし、反応したのはラムダだけだった。眉根を寄せ、私と騎士達の様子を窺っている。
再び沈黙が続くかと思われたが、
「エルカ様、それはあり得ないかと」
ロイド・ヴァレンシュタインが平静と応じた。理由を聞かせてもらおう。
「まず我々が犯人だとすると、どうやって殺害したのかが焦点になります」
確かに。沈黙をもって続きを促す。
「閣下は十一時に寝室に入られた。仮に我々だとしても、どうやって居館の寝室にたどり着いたのか、という問題が発生します。エーガー城の兵士とて無能ではありません。特に閣下の護衛となれば腕利きでしょう」
そうかもしれない。頷き更に促す。
「居館に入る、忍び込む。もしくは居館の外壁を登る。どれも目立ち過ぎます。結局居館周辺を見回る兵士、各階の衛兵、何より寝室の前にいる選りすぐりの衛士の目に留まる」
「つまり、事実上不可能であると」
「はい。そして一番の問題は、閣下の死因と我々のアリバイでしょう」
納得のいく話である。私は何も、彼らを犯人と決めつけたわけではない。可能性の一つとして挙げたのだ。
「エルカ様はご自分も含め、可能性として考慮しろと仰るわけですな」
「そうなります」
ライン騎士の問いに答え、私はラムダを見やる。ラムダは自分に視線が集まる意味を理解し苦笑した。
「エルカ、僕が閣下を殺したというのか?」
「そうかもしれない」
「かもしれないか。要するに、転生者について考えろと言っているわけだな」
さすがに答えが早い。ゲッツア殿下がラムダを評価したのはこれが理由かもしれない。
「また僕が操られた、或いはこの騎士達が操られ実行した。その可能性も考慮しろと」
頷き、その通りだと認めた。しかしこの想定には無理がある。アリバイはそれぞれが保証し、我々の保証にもなっている。彼らは夜間も警護を続け、私とラムダは眠っていた。これはエーガー城の兵士も認めるだろう。
「となると可能性として残るのは、やはり転生者辺り」
ライン騎士の言葉に私は口を閉ざした。皆はどう思っているのだろう。
「考慮出来なくはない。異様な能力を持つ者はラムダ殿が経験済み。可能性として捨てられない。だからこそ検死と解剖が必要と考えるが、これは無理である。参りましたね」
ロイドはうんざりした顔をして、お手上げと態度でも示した。一方ヴィクトルは腕組みしたまま考え込み、口を開かない。ライン騎士はというと、こちらに視線を向けかぶりを振っていた。
さすがに無理があるか。
「そう、こういうものは成立しません。推理とも言えません。無限の可能性を考えろという無理筋な話です」
種明かしし、私もお手上げと両手を広げる。
「捜査権限が我々にあれば話は変わるのですが、私達はゲッツア殿下の使者に過ぎない。無理やり調査はしましたが、これ以上核心に迫るのは困難でしょう」
「聴取を行うというのはいかがでしょうか。初期対応にあたったエーガー城関係者の取り調べとなりますが」
ヴィクトルはそう言ってみたものの首を傾げている。ミゲルやグスタフの取り調べは非現実的で、となると部下も不可能と考えるべきだろう。
「仮に犯人が転生者だとした場合、恐らく我々の手には負えません」
静かに告げると皆、思案気な表情を浮かべている。恐らく答えは一致していると思う。
「そう、もしいたとしたら、とてつもない能力を持つ転生者ということになります。ハラルド陛下に対処していただくしかありません」
「つまり考えるだけ無駄ということですな」
無駄と言い切ったライン騎士を見据え応じる。
「というより、こちらもまずあり得ないという話です。一つ問題点は浮かび上がりますが」
「とてつもない暗殺術、もしくは能力。現状聞いたことはありません」
「しかし魔法であればどうだろう。転生者を除外すれば、残るは魔法や魔術辺り」
ヴィクトルの言葉にロイドは応じたが、やはり皆の反応は薄い。ロイドは頭を掻きつつラムダに視線を向けた。
「我々が魔法を使えるのは自明の理。ラムダ殿はどう考えます」
「僕に魔法の話をしろというのか」
「そうなります」
「僕とて魔法は使える。ただし二種類。五つの系統から二種類しか使えない。加えて言うが僕は君達より遥かに格下だ。僕に言えることはない」
ラムダは投げやりに終わらせようしたが、ライン騎士が反応した。
「それは妙ですな。私の知る限りラムダ殿は火、水、土、風、雷の基礎魔法、全て習得されているとお聞きしております」
「だから基礎だ。というか五番目は氷だ。ライン騎士団とは違うんだろうが。僕からすれば魔法より暗殺の方がよっぽど現実的に思える。もちろん、どちらも困難だとは思うが」
転生者の特殊能力、もしくはかなり高度な魔法。どちらを考慮しても難しいものは難しいか。皆頭を悩ませているので私はあえて口を開かなかった。
ーーなぜなら、私はこの事件を既に把握しているからだ。
だが、それはゲッツア殿下にご報告するもので彼らには伝えられない。ゲッツア殿下への報告は正確性が必要であり、私一人では調査自体困難だった。彼らが空白を埋めてくれたのだ。
これ以上皆で空理空論を並べても仕方ない。だから私は背後にある旗を指差した。皆つられ、グランバッハの旗に目を向けている。
「これが一つの答えであり調査からは多くのことが判明しました。皆さん、以降調査の必要はあると考えますか」
唐突な切り出しに七人の騎士の反応は異なった。ロイドとヴィクトルは調査継続に乗り気ではないらしい。ライン騎士に至っては、
「もう帰りましょう」
と急かす有り様だ。他の面々はまだ頭を悩ませているがラムダだけは、
「ここまでやったんだ、最後までやるべきだろう。かなり難しいとは思うが」
意思を鮮明にした。それはそうだろうと私も思う。ここで調査を打ち切ると彼の報告書には片手落ちと記すも同然だ。だが私の意思は変わらない。
「ラムダ、ここで終わりにします」
なぜなら、私の報告書は頭の中にもう出来上がっている。そして何より、ラムダの中央での保身と出世争いなど私には全くの無関係。本当に心底興味がないのです。




