第60話 ミステリーの時間
まず、残った騎士達七人に椅子を用意させ、議長席に対し横並びになるよう配置させる。それぞれ椅子に腰掛け、私は議長席にて彼らと向き合う。ラムダは私の隣、書記官の席に立ってもらう。
私から見て一番右にライン騎士の男。続いて病院騎士団員三名、そして神殿騎士団三名。中央にヴィクトル、左端にロイドと分かりやすく分かれている。
皆が席に着いたことを認め、声をかけた。
「皆ご苦労。仕事はまだ残っているが、一言労っておく」
騎士達が一斉に礼すると、まるで小さな部隊のようだ。当然だが、ラムダはなんの反応も見せない。気にせず先へと進める。
「我々が何をしているのかは明白だ。我々は常に問題意識を持ち、この調査に臨んだ。ロイド・ヴァレンシュタイン、今回の件における問題点を挙げよ」
指名された神殿騎士、ロイド・ヴァレンシュタインは静かに立つと、
「まずは閣下の死因になります。続きエーガー城側の初期、事後対応。続き検死解剖の是非。元はと言えばなぜ閣下はお亡くなりになったのか、という点に尽きるでしょう」
簡潔な説明だ。頷くとロイドは椅子に座り直した。改めて皆を見回し、私の見解を述べる。
「だからこそ我々は調査を続けたわけだ。そしてエーガー城側は終始、実に協力的だった」
これを聞き騎士達は苦笑いを浮かべている。残るラムダのみ顔をしかめるが、実際彼らは協力的だった、としていいだろう。
「なぜ協力的だったか。ヴィクトル・クーベリック、説明して欲しい。ちなみに立ち上がらなくていい」
「分かりました。私はミゲル様の指示と考えます」
ヴィクトルが腰掛けたまま応じると、
「それは違う。ミゲルとは限らない」
ライン騎士が疑義を挟んだ。ヴィクトルはライン騎士を一目確かめたが、反論するつもりはないらしい。敬称の是非を争う場でもない、だから私が整理する。
「実際は一族で話し合った。もしくは側近の助言というところだろう。誰の、となるとさすがに分からない。であるならミゲルの命令とするのは妥当と私は考える」
ライン騎士は口を曲げるが、一族の内情に詳しいなら話は変わる。その点をライン騎士に問いかける。
「グランバッハ一族の内情を把握しているの?」
「把握とまでは言いません。しかしこいつらよりは詳しいでしょう」
応じてから、ライン騎士は神殿騎士団と教会騎士団を指差してみせた。指された側は目を細めるが反論は出てこない。そう、これが一つ目の答えだ。もう一つと、話し方を自然なものにしてライン騎士に尋ねる。
「ごめんなさい、色々あってまだ名前を聞いていなかったわ、お名前聞かせていただけるかしら」
「必要ありません。ライン騎士と認識していただければ結構です」
ライン騎士はきっぱりと言い切った。これにはさすがのラムダも驚いている。口を開け、当のライン騎士を怪訝な顔で見る有り様だ。だが騎士達は全く違った。そう、彼らにとっては自然な話なのだろう。なぜなら、
「あなた、誰にも名乗っていないわね?」
「ライン騎士は私のみ。必要と仰るなら名乗りましょう」
ライン騎士は堂々と姿勢を崩さない。うん、こいつはこういう奴なのだ。終始この姿勢を貫いている。
「いえいいわ。あなたが色々やらかしてくれたので、私は自分の無知と世間知らずを思い知らされました」
この男の行状は常識ではあり得ないものだ。しかし彼は実行し、貫いた。たとえ相手がグランバッハの一族が相手であろうと。
「私も不思議には思ったけれど、すぐに気付いたわ。確かめるのが遅くなりましたが、グランバッハ領におけるライン騎士団の存在はとても大きい。そう、とてもという表現では足りない程、大き過ぎる」
言い切ると、ライン騎士の男は当然と頷いている。他の面々はやや不服そうだが、事実なので否定出来ない。グスタフですら諌めることが叶わない影響力とはどんなものか。想像するに容易い。軍事及び商業。加え農業、もしかすると行政まで。最悪、税の徴収までやるだろう。
「騎士修道会はなんでもやるものね。神殿騎士団にとっては面白くないでしょう」
ロイド達神殿騎士団に確かめると、
「問題ありません。こいつらのグランバッハ領内での存在感が異常なだけで、我々は他で充分儲けております」
ロイド・ヴァレンシュタインが、清々しい程俗物的な矜持を披露した。これには皆笑い、ライン騎士も満足そうに頷いている。ここまで開き直られては、私もラムダも同じく笑うしかない。騎士修道会とは一体なんなのかと問われれば、儲かることならなんでもやる連中と評するしかない。これが現実なのだ。
ただしそれぞれに違いはある。ライン騎士団はライン王国内に限られた勢力であり、他の騎士団は国境を越え南ルナリア全土に拡がっている。ライン騎士団はライン王国内で儲けるしかないのだ。そうすると自然、私の知らないことが出てくる。
「そうね。だから私にとってライン騎士団は縁の薄い組織です。私は前線に立つ存在。活動は国外が主。知らないのも当然だわ。グランバッハなんて、今回初めて来たのよ?」
自虐を交えるとやはり皆、苦笑交じりの反応をみせた。唯一ライン騎士の男のみ、
「これを機に、是非ともライン騎士団の名前と顔看板を覚えていただきたい。必要とあらば我が騎士団のイケメンを、総力を挙げ勢揃いさせてみせます。決して他の騎士団に劣らぬと自負しております。顔だけでよろしければですが」
皮肉なのか本気なのか、ハラルド陛下やゲッツア殿下みたいなことを言い出した。だから告げる。
「いりません」
端的に。ライン騎士の男はやはり笑ってしまったが、ほんとこいつどうしようもない奴だ。とても使える男なだけに、大目に見ますけど。




