第59話 議事堂2
議事堂の正面玄関をくぐり中に入る。今回は廊下ではなくそのまま議場へと向かう。ぞろぞろと連れ歩き、本会議場の扉の前にたどり着く。重い扉が開くと徐々に本会議場の内部、その輪郭が明確になっていく。
私はしばし入口でその様を確認していた。昨日はお目にかかれなかった議事堂内部、本会議場はこうなっていたのか。
正面奥手に大公席があり、その後ろにグランバッハを表す巨大な旗が飾られている。大公席の手前が議長席、左右に書記官の席が用意されている。議長席の正面に長テーブル、真っ直ぐこちらに向かい伸び、二手に分かれる形式なのが見て取れた。対面での議論を行う、その為に用意されたのだろう。
その後ろ、我々から見て左右に多くの席が用意され、私のすぐ傍にも席は連なっている。左右が議席、もしくは関係者席でこちらは観覧席、そんなところか。
私が動かないものだから皆も足を止め、グスタフもそれに付き合う形となってしまった。大した眺めだと感心しつつ、騎士達に指示を出す。
「余すところなく調べよ」
私の言に従い護衛の騎士達が本会議場へと踏み入る。そして彼らは文字通り、余すところなく調査していくのだ。
ラムダを見る。視線に気付いたのか溜め息一つ、それから腕組みし、ただ皆の様子を眺めていた。
続けてグスタフを見る。見下ろすよう騎士達を見ているが、感情の動きは見て取れない。
ではグスタフの護衛と側近と思しき人物らはどうか。目が合うとこちらを睨み付けていた。どうやらまだ立場が分かっていない者がいるらしい。ここまでくると、グスタフの人物評も定まってくるというものだ。
「立派な本会議場と、感心しております」
「そうか。まあ私は普段この城にはおらん」
他愛ない会話が成立する。気の毒に、敵意を剥き出しにしていた側近達の立場が消え失せそうだ。気に留めず続ける。
「では、私も拝見させていただきます」
グスタフは何も言わず視線を逸らすのみだった。
騎士達同様、一つ一つを確かめていく。テーブルから椅子、調度品に筆記類。壁一面ぐるりと確かめ、窓は一つもないと認識した。全ての扉も含め近づき確認した。
それから議長席に立ち本会議場を改めて眺め、全体を把握した。最後に天井を見上げる。ここではどんな議論が交わされていたのだろう。議事堂とはこういうものか。異世界の議事堂も、こんな風に向き合う配置をしているのだろうか。思考に耽っていると、
「エルカ様」
ライン騎士の声が耳に入った。背後から聞こえたそれに反応し振り返る。ライン騎士はグランバッハの紋章が描かれた巨大な旗の傍におり、私に頷いてみせた。話がある、という意味を認め彼の下へ歩みを進める。
すぐ傍に近づくと、彼は耳元で囁いた。
「こちらの旗ですが、北ルナリア製と思われます」
北ルナリア……南ルナリア北方の勘違いでは? と顔に出すが、
「北ルナリアのどこ、と断定は出来ません。しかし南ルナリアにここまで精巧な織物は存在しません」
ライン騎士の顔つきは至って真剣であり、遊びはない。そうか、そういうことだったのか……。調査した甲斐があった。やはり意味はあったのだ。私ですら見落としていたものを、見つけてくれたのだから。どうやら本当に、全てを把握したらしい。
グランバッハを表す巨大な旗を一瞥し、亡き大公閣下に哀悼を捧げ、そうして振り返った。
騎士達はまだ確認作業を続けていたが、一番遠くにグスタフの姿が見える。広い議場だ、随分遠くに思えた。彼には気の毒なことになる。だが我々にこそ、この本会議場は相応しく必要なのだ。
意を決し声にする。
「皆注目」
大きく告げると、皆の注目はこちらに集まった。集まる視線に呼応するよう続ける。
「これより我々はこの本会議場にて会議を行う。グランバッハ一族、及びエーガー城関係者はご退室いただきたい」
私の一方的な宣言に、騎士達は一斉にグスタフを確かめた。グスタフの側近達は私が何を言っているのか分からなかったのだろう。困惑しこちらを凝視していた。だが、すぐに切り替え抗議の声を上げ始める。
しかしそれを制したのはグスタフだった。彼は落ち着きながらもはっきりと応じる。
「これ以上の勝手は受け入れられん。控えられよ」
「では強制排除とする。病院騎士、諸君らはこれにあたり彼らを議事堂から排除せよ。相手はグランバッハの一族である。礼儀は忘れるな」
すぐさま言い渡し、一歩も譲らないと姿勢を示す。我々はこの場から動く気はない、と。遠く向かい合うグスタフの表情は、冷静さを失わない男のものだった。よくよく理解した。だから受け取ろう。
「病院騎士団、丁重にお見送りし、許可があるまで決して議事堂に入れるな。三名で対応せよ。即時行動に移せ」
使命を受け、反応した病院騎士達はすぐさま行動に移す。会議場の入り口に三名が向かうと、当然ながらグスタフの側近は激怒し再び抗議の声を上げ始めた。しかし、当のグスタフは病院騎士がその場にたどり着く前に、あっさり踵を返してしまった。そうして自ら扉を開き議場から去っていく。置き去りとなった側近達は再び困惑を深めたが、主を失っては抵抗のしようもない。病院騎士団に促され足早にグスタフの後を追う。
最後に病院騎士三名が振り返り、一礼を残し退室する。
こうしてグスタフとその側近、そして病院騎士団員は去っていった。
もうここには、我々しかいない。
神殿騎士団三名、教会騎士団三名、ライン騎士団一名。
そして私とラムダ。
グランバッハ及びエーガー城関係者が一人もいない本会議場。
では始めよう。
ミステリーの時間だ。




