第56話 エーガー城調査4
しかしこの男、私の発言を理解しているのだろうか。
私は兵力を確認し、理由も説明せず突然教会の有無について言及した。それに全く疑問を持たないとは、どう考えてもまともな状態ではない。もしくは、ただただこの場をやり過ごすことしか頭にないか。
小突き回す形にならないよう、気を配りながら重ねて尋ねる。
「私が言うのもなんですが城内に教会、もしくは聖堂の一つもないのは本当に閣下のご意向なのでしょうか」
「まあそうなる。議事堂があるだろう。父上は宣託より適宜合議制を重んじるお方であった」
「適宜。つまり、最終決定権はともかく活発な議論をお望みであったと」
「そうだ」
グスタフは言い切るが、僅かに首を捻っていた。私の意図するところが読み取れないのだろう。
「しかしそれでは、各教会の顔が立たないのでは?」
ここでようやく、彼はその意図を察したらしい。そういうことかと頷いている。
「先に説明した通り父は教会との距離感に苦慮していた。また今朝方話したよう各教会は領内に数多ある。これが父の方針であり政策だ」
グスタフの言い分は一見明瞭である。だが、肝心の部分は疎かと言わざるを得ない。
――なぜ、教会との距離感に苦慮していたのかという点だ。
まあいい、小突き回して得るものもなかろう。
「ところでご夫人方、グスタフ様のお母上はどちらにおられるでしょう」
話を変えると、グスタフは露骨に表情を曇らせた。コロコロ話を変え過ぎだと言いたいのだろう。加え、血縁者の話はしたくない。そんなところか。それでも彼は応じる。
「私も含め兄弟姉妹、皆領内に領土を与えられ居を構えている。親族は皆そこにいる」
「閣下にはご親族がおられないとお聞きしました。ご存じでしたか?」
今度は呆れたと顔に出し、グスタフはうんざりといった感を隠さない。
「その通りだろう。父は一代で事を成した」
「閣下のご血縁に関して把握されておりますか?」
あまりに配慮ない問いかけに、グスタフよりも背後の近衛騎士達が憤ってしまった。近衛の変化に、グスタフも気付いてはいようが、諌めることもなく溜め息一つ応じ続ける。
「知らん。兄ミゲルや姉エミールなら知っているかもしれんが、俺は知らされておらん」
どうやら彼にとって突かれたくない話題であったらしい。「俺」と一人称が変わっている。だからと手を緩める理由はない。必要だから確認しているのだ。
「失礼いたしました。では本題へと入ります」
この場で二度目、頭を垂れると近衛騎士も含め微かだが怒りが軽減されたらしい。ただし、ラムダは最初から本題に入っておけと呆れているが。
「私がお聞きしたいことは大きく三つあります。まず、ご子息ご息女のほぼ全員がこのエーガー城に参集された理由、経緯をお聞かせ下さい」
こちらは至って真面目に尋ねている。そしてどうやら、グスタフにとってそう難しい問いではなかったらしい。
「父の意向だ」
即答し彼は腕を組んだ。
「どういう意向でございましょう」
「さあそこまでは。と言いたいところだが、君達のせいだろうな」
そうして苦笑してみせた。私もそう思うので頷き応じる。
「君達が二週間前王宮で起こした騒動はライン王国を震撼させた。今は落ち着きつつあるが、この先どうなるか保障はない。そこに君達が来訪すると報せが飛んできた。いくら父とて身構えはするだろう」
そうだろうな。しかし、ご子息ら全員が勢揃いした理由としては弱い。むしろ不自然だ。そしてあの夕食会、あれは実質的に接待だ。こちらにとっては嫌がらせ同然でも、饗応として豪華過ぎた。内心はともかく更に尋ねる。
「その為にわざわざ皆様が揃ったのですか?」
「偶然もあるだろう。まさか小さな弟妹まで全員揃うとは思わなかった」
全員だったのか。つまり十人のご子息ご息女で間違いないと。幼子まで紹介して、閣下は何がしたかったのだ。グスタフの言う通り偶然なのか?
「将来的なことを話し合う為ご一族の皆様を集め、その最中王都から使者が訪れる一報が届いたと」
「そうだ。結果……いや、君達は悪くない。全て巡り合わせが悪かったのだ」
そうしてグスタフは口元を固く結んだ。見ているだけで痛々しく気の毒な様は、常人ならば同情もするのだろう。彼の解釈とて理解もしよう。定めであり、運命であったと考える心情も理解出来る。しかしそれでは困るのだ。なぜならこの私は運命論者ではなく、であるからしてここに存在するのだから。




