第55話 エーガー城調査3
ラムダという緩衝役がいるからか、グスタフは私も咎めなかった。近衛達には不満もあろうが、ライン騎士のそれすら見逃した。つまりグスタフは、
「終始そちらの言い分は一方的過ぎた。あまつさえ王家の威光を笠に、脅迫紛いの行動に出た。そんなことをすればどうなるかぐらい想像出来たであろう。皆怒り心頭だ。心証は地に落ちている。貴様らが未だエーガー城に居座っていること自体奇跡的と言っていい」
――このように、言葉とは裏腹に交渉したがっているのだ。名誉よりも実利を取る。今はその時だとこいつは判断した。エーガー城側の思いを双肩に、グスタフは続ける。
「しかし話し合いの余地はある。そちらの立場も理解はしよう。手ぶらで帰れなどとは言わない」
「では協力して下さると」
ラムダの言葉に、グスタフは殊更自分を大きく見せるかのよう、背もたれに身体を預けた。
「そう、協力だ。邪魔立てするな、などと二度と口にするな。城内で何が起きても我々は関知せんぞ」
どうやらグスタフも駆け引き、押して引いてを実行しているつもりらしい。分かりやす過ぎて笑みが零れそうだ。せめて参謀役がいれば話も違ったろうに。まあ二十歳の若造ならこんなものか。いや、そう参謀だ。こいつもやはり一人で来た、アウグス閣下同様。近衛騎士こそ十人いるが、側近を用いないのがグランバッハの流儀なのか?
思うところはあるが全ては優先度。我々には為さねばならぬことがある。だからこそ、心の中の小さなこだわりをそっと仕舞う。
「お叱りごもっとも。全てこちらの落ち度、どうかお許し下さい」
頭を垂れると、その場にいた全員が一瞬動きを止めた。驚きいったのか、固まったまま動かない者までいる始末だ。ラムダもグスタフも同様であり、呆気に取られ開いた口が塞がっていない。
皆が皆、想定外と顔や態度に出ている。異変に備え姿を隠し、待機している近衛騎士達も同様であろう。全ての者が、私の簡潔な謝罪で頭と心が震撼してしまったのだ。
ただ一人、ライン騎士を除き。
「ですが議論の余地はあると、それでよろしいでしょうか」
「む、無論だ。当然、話し合うことは、はあろう。わ、わざわざ王都から来たのだ」
グスタフは動揺を隠そうとするが噛みまくってる。さすがに若いな。まあいい、皆安堵したのだ。これで「聞き取り」がしやすくなった。
「畏まりました。さて一つお尋ねしたいのですが、エーガー城は通常どれ程の兵士を備えておられるのでしょう」
またもや想定外の出来事だったのだろう。グスタフは前のめりになり、怪訝な顔で私を見つめ停止した。近衛達にも油断が見られ、皆言葉こそ発しないが目で語り合っている。これで分かった。まず間違いなく、こいつらはグランバッハ大公家、またエーガー城の精鋭ではない。飾りとまでは言わないが、愚鈍過ぎる。
頭を切り替えたのかグスタフが口を開く。
「兵力の話か?」
「はい。いかほどでしょう」
「それは……必要な事柄か」
戸惑っているな。だが知らん。必要なければ問うていない。
「いずれ必要と理解していただけると思います。いかほどでしょうか」
グスタフはひと思案した後、
「三千。これで満足か」
短く告げた。偽りは述べていない、と態度で示したいのだろう。周囲の目もある。
「そうでしたか。平城に三千の兵。男ばかりで暑苦しくありませんか?」
「いや、私は普段この城にはいない」
ぼそり呟くような物言い。ただ事実を吐露した、というところか。しかしこれは後でよい。
「そうでしたか。しかし城下町も存在しない平城に三千の兵では、些か心許なく感じませんか?」
「全く。これで充分だ、兵糧の問題もある。攻め手となれば三千の兵は機動力に富む。それが父の方針だった」
ようやくきたな。父親のことを話す気になったか。しかし三千の兵しかいないと言っておきながら、三千で打って出るのはどうかと思う。まあ理由は聞かずにおこう。
「そうでした。このお城には教会がありませんでしたわ」
「先程も話した通り、父の方針だ」
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由か……」
グスタフはそう呟くと、虚空を見つめている。彼が何を考えているかは知らないが、父親の方針の意味を理解していないのか。それとも話すべきか躊躇っている。近衛もいるしな。時間をくれてやると、グスタフは顔を下げ語り出した。
「父は教会との関係に苦慮していたのだろう。あまり関わりたくない、いや嫌っていたのかもしれん」
「まあ、それはわたくしと同じではありませんか。とても共感致します。だからこそ残念でなりません。もっとお話ししとうございました……」
芝居染みてこそいるが、私は事実を述べている。グスタフはどう捉えるか迷っているようだが、素直に受け取ればいいのだ。亡き父親の方針と共に。




