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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
大公城事件編
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第52話 騎士修道会の勢力図

 彼らが戻ってくるまでの間、もうしばらく時間がかかるだろう。私が口を閉ざしたのでラムダは廊下へと出ていった。ライン騎士だけが残り、私は二人の会話を今一度反芻する。

 閣下には親族がいないだと……。

 家族を捨てた、或いは捨てられたということか。いや、孤児院育ちという線もあるだろう。家族と縁を切る何かがあった。もしくは一族に不幸があった……。


 俯いていた私が顔を上げると、ライン騎士は周囲を警戒しており、やはり飄々とし余裕が垣間見られる。私の視線に気付くと、彼は一つ頷いてから廊下に視線向けた。気負いのない騎士だ。

 理由は定かならないが、閣下の親族は恐らくいない。夫人は既に二人お亡くなりになっており、他の夫人は領土内にそれぞれバラけている。一見すると揉めようもない。閣下亡き今、どうなるかは分からないが。

 そう、もう一つ確認したいことがあった。だからこそ今は待つべきである。行動に移すその時まで。


 あれから護衛達が戻って来るのに、さして時を要さなかった。

 皆特に怪我もないようで、ゲストルームに整然と並び立つ。ただ一人、私への熱狂的支持を表明した病院騎士だけは落ち着きがない。目が泳ぎ、こちらもまともに見れないとみえる。そんなに私は可愛いのか。知ってるけど。

 さてと、一呼吸置きラムダを横目で見てから皆に告げる。


「ではこれよりエーガー城調査を開始する。目的はもちろん、亡きアウグス大公閣下不審死の原因を特定する為だ」


 これに早速ラムダが反応した。


「エルカ、それは解剖しないと無理ではないのか。君自身がそう主張していたじゃないか」


 確かに。率直な疑問に囁くよう声を落とす。


「確かに……だけれど、一つだけ可能性が残っている」


 聞き取る為だろう、皆近づき耳を傾けている。

 だから告げる。


「転生者よ」


 常に考慮されるべき存在。今朝方からグランバッハ一族と議論を交わしたが、誰もこれには触れなかった。不審死、原因不明の死に何かしら理由があるとしたら? 奴らの存在なくして南北ルナリアの混乱はあり得ない。その転生者を考慮しないでは閣下も殿下も、そして陛下も殺戮の勇者すらも納得しないだろう。むしろなぜ、今まで誰も触れなかったのか不思議な程だ。

 それでも、静かなざわめきすらこの場には存在しない。静寂に包まれている。皆当然考慮していたのだろう。


「しかし、だとしてももう逃亡しているのではないか」


 ラムダは疑義を挟むがそれと調査は別の話だ。

 改めて全員に告げる。


「城内をくまなく調べる。ただし別行動は取らない。君達の任務に支障は出ない形を取る」


 ロイドは小さく頷き、対照的にヴィクトルは深々と頷いてみせた。他の者も納得したらしい。これではラムダも受け入れるしかないだろう。渋々だったとしても。彼は案の定肩を落とすが、それでも口は閉ざさない。


「くまなくか……エーガー城は広いぞ、エルカ」


 無論承知の上と今度は私が頷いてみせた。

 まず、城の詳細な見取り図が欲しい。これにはロイドが名乗り出た。


「我々が適任でしょう。教会騎士団と病院騎士団は、今は無理ですね」


 そうして名指しした彼らを眺め、肩を竦めてみせた。渋面を浮かべる者もいるが、現状教会、病院騎士団の六名は受け入れるしかない。やらかした同僚がいるんだ、連帯責任と城兵も見るだろう。それからロイドは、どうやってという点も簡潔に説明してみせた。


「まあ同僚と言いますか、伝手はあります」


 皆似たようなものらしく口を挟まない。騎士団は各地に支部を持っている。グランバッハ領内とて同様で、各都市に存在するだろう。競い合うよう設立された騎士修道会には大きく三つの勢力がある。


 普遍派、ジョルダード教系、神殿騎士団。

 正統派、ルナリア教会系、教会騎士団。

 独自派、ライン教会系、ライン騎士団。


 これに中立的な病院騎士団が加わり、ライン王国の騎士修道会は構成されている。一部小勢力は存在するが、規模が小さ過ぎる。

 彼らの役割はもちろん軍事行動なのだが、商隊の護衛など活動は多岐に及ぶ。冒険者ギルドが大きな顔をしていられないのは、国力と彼らの存在があるからだ。ならば当然横の繋がりもあるだろう。


「では見取り図はお願い。さあみんな、エーガー城をまる裸にしてやりましょう」


 宣言すると、ラムダ以外の騎士は敬礼をもって応じた。ラムダは反応を見せず、どうぞご勝手にという態度を貫くらしい。それでいて責任を取りたくないと顔に出ているのが、少し愉快だった。

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