第48話 エルカの調査3
ヴィクトルと病院騎士の二人が場を離れ、しばし待つ時間が出来た。
改めてこのエーガー城を見渡す。
城門の正面に居館があり、居館の廊下は城門側にある。廊下から中庭、城門と見ることができ、議事堂側の庭園も見えるだろう。このゲストハウス的な建物も同様だ。廊下から全てが一望可能であり、高さの違いこそあれ居館の廊下が視認出来る。皆、私の視線から気付いたらしく、応える準備は出来ているようだ。
「君達に訊く。居館の五階、昨夜から今朝四時前後までに、人の出入りはあったか」
彼らも交代制を取っていただろう。皆で確認し合った後ロイドが応じた。
「ありません。動きがあったのは早朝六時前。せいぜい六時の十五分程前でしょう。居館全体が騒がしくなり、出入りする者が増えました」
「あなたは起きていた?」
「はい。早朝五時頃から神殿騎士団員の三名でこの部屋の前におりました」
ロイドは姿勢を正し、同僚もまた同様だった。間違いはなさそうだ。だから一つ確認する。
「私はエーガー城の兵士達に監視されていたわよね」
「恐らくは。我々の様子を窺っていたのは間違いありません。ラムダ殿も同様に監視されていたでしょう。我々は常に三名が裏手、エルカ様の部屋を警護しておりました」
エーガー城側の対応が聞けた。まあそうだろう。誰が相手でもそうするだろうが、私の場合は警護でなく監視になる。この騎士達と変わらない。だが結果、私のアリバイが成立してしまう。普通にぐっすり眠っていたのだから。顔が分かるならそいつらを捜し、こちらに有利な証言者とするか。
さて、二人は今頃どこだろう。窓際から確認するが、中庭には姿が見えず、居館の正面玄関で押し問答なども起きていない。騒然としていたエーガー城は今、微かなざわめきだけが流れている。
「二人が着いたら合図を送るように言えばよかったわ」
小さく零し、続けて、
「これだけの騒ぎがあっても城からの出入りは見えないわね」
皆に問いかける。これに、残る八人と一人は異なった反応を見せた。私の傍にいたから把握出来ていないのだ。彼らの役割は常に私の警護と監視である。だから応じたのはラムダだった。
「今出入りするとしたら裏門だろう」
「そうよね。城下町がないとしても、こっそり出ていくわよね」
そうして私は溜め息をつく。皆、閣下の急死を報せる為使者が出ていくと考えているだろう。城代達や重臣に報せ、皆を参列させる。葬儀もあるが、善後策を話し合わねばならない。けれど違うのだ。
この城には閣下のお子達しかいない。
親族どころか夫人すらいないのだ。
私が知る限りは。
これだけお子がいて夫人が勢揃いすれば、いがみ合いは一つや二つで済まないだろう。しかしいないので起きようがない。一方お子は勢揃いしている、私の知る限りは。そして閣下の親族も紹介されていない。
この城の血縁関係者は、肩書きを含め巨大な相続権を持つ子供達のみになっている。
さて、いっそさっさと帰途に着くべきか。妙な揉め事に巻き込まれたくはない。威勢のいい啖呵を切っておいてなんだが、ずっと嫌な予感しかしていなかった。なぜお子達しかいない。我々が知らないだけなのか?
もしかすると、と思い口を開こうとした時のことだった。
「ロイド、あれヴィクトルじゃないか」
唯一ライン騎士団から参加している男が、窓から居館の五階を眺めている。皆一斉に視線を同じくするので、ロイドだけが私の傍に張り付いた。出来ると思ってはいたが正直感心してしまう。ふっと視線をラムダに向けると、私達二人を生気の感じられない目で眺めていた。
どういう感情なのか私には分からない……。
ロイドは護衛で、皆が一瞬油断したからこうなったわけで。誤解されては困る……いや、別に困らないな。全く困らない。せっかくだしとロイドの手を取り、あてがわれたゲストルームへと向かう。
「ラムダ、何がしたいかは分かるでしょう。あなたも自室に入ってみて」
声を掛けると、ラムダはうんざりだと顔に出し自室へと足早に戻っていく。
「あの、エルカ様、これはラムダ殿に気の毒……」
意外にもロイドが狼狽えた言葉を口にするが無視し、
「皆はそこで待機。私達二人は室内にいる」
皆に告げさっさと部屋に入り、扉は自分で閉める。まるで逢引きのようだがそんなわけはない。それから顔をゆっくりと近づけていく。互いの手は繋がれたまま、まるで麗しの姫君が愛する王子様にするように。そうして、ロイドが更に狼狽えたところへ、
「おい……いいかよく聞け。徹頭徹尾一番気の毒なのは私であり、私以上に気の毒な女はこの国に存在しない。覚えたならその軽い頭に叩き込んでおけ」
ドスの利いた声色で教育する。さあ、始まりの時間だ。




