第47話 エルカの調査2
先程の説明は、ラムダに話してもらうことにした。彼らは殿下の指示により私の護衛を勤めている。であるなら、ラムダとは同僚に近い立場と言って差し支えない。情報の共有を図り、互いの信頼関係を構築することも出来る。これから私がすることは、グランバッハの一族に宣告した通りの調査である。それに彼らは欠かせず、同時にラムダも外せない。
部屋を訪れ、話し合いの内容、経緯を語るラムダは終始淡々としていた。閣下の前では慌てる姿も見せていたのに、登城を拒まれてからは人が変わったよう大人しくなってしまった。閣下の死にも動揺せず、グランバッハ一族を前にしても泰然としていた。今も落ち着き払い仕事に徹している。
「――内容としては以上だ。一応付け加えるとエルカが最後、グランバッハの面々に喧嘩を売ったが、君達には関係ないだろう」
そう言ったラムダはやはり淡泊な男に見えた。約二週間前、あれだけ嫉妬に狂っていた男とは思えない。お仕事モードは全然違うのね。
「では失礼する」
踵を返し立ち去ろうとするラムダに、
「今のあなたの肩書きは何?」
端的に問いかけた。ラムダは立ち止まり、再びこちらを向く。
「ただの使者だ」
それ以上触れるなと彼の目は語っていた。それはそうだろう。諜報部特別調査官の肩書き、外部に知られたくはあるまい。もしかするとこの護衛達にも。それと、一つ気になっていたことがあった。
「ラムダ、あなた書記官はいないの?」
公式な使者であるラムダに書記官、或いは部下の一人いても不思議ではない。ラムダは呆れたと顔に出し、今日初めて感情を表現してみせた。
「僕に書記官は必要ないし、部下もいない」
「護衛はどうしているの?」
「これでも多少腕に覚えはある。君達程ではもちろんないだろうが」
そう言った彼は少し自嘲気味だった。護衛達と私を前にしては、自嘲もしたくなるか。確かに、この面子だけ見れば「暴力団」と呼んでも差し支えはない。異世界日本という国のそれとは、随分異なるだろうが。軽口は心の内に仕舞い、
「ラムダ、あなたの意見を聞かせて欲しいの」
「なんのだ」
「昨日今日起きたこと、全て」
「断る。理由は言わなくても分かるだろう」
肩書き、特別調査官か。書記官がいないのも納得だ。情報は全て頭に叩き込め、ということであり文書に残す機会は限定される。例えば報告書。それ以外に記す機会があるならば、偽りの情報をばら撒く時だ。私はそういう人達と協力し今ここにいる。よくよく知っている。お陰でこんな羽目になってはいるが、辛い役割と言えよう。
だから手を差し伸ばす。
「条件を提示するわ」
するとラムダは、無言で瞼を閉じた。今から何が起きるのか察したな。
「こちらは護衛力を提供します。彼らは騎士団の精鋭。仮にエーガー城内であなたに不逞を働いた者が出た場合、その報いはグランバッハ全土に拡がると確約します」
最後の文言に反応し、騎士達が一斉にこちらを見ている。そこまで驚かれると、芝居のし甲斐があるというものだ。
「そこまでするな。いや、脅しのつもりか」
「はっきり口にするのね。どうとでも。この調査、あなたにとっても悪い話ではないと思うわ」
「そうかな。君はただ自分の意見が通らず顔を潰され、あの少年に腹を立てているだけではないのか」
鋭い指摘。と言いたいところだけど、それでは理屈が通らない。
「ラムダ、あなたが煽ったんじゃない。僕はそれでも構いませんが、君はどうなんだ。ってね」
ミゲルが話を終わらせようとしたのに、わざわざ確認したのは私がどう動くか読み解けていたから。あれは事実上の合図、だから乗った。恐らくではあるが、ラムダも彼らに含むところがあると見た。フリートか、それとも一族郎党全て気に入らないか。もしくは詳細な情報を必要としている職業的特性が芽生えてきたのか。
そしてラムダは今、私の護衛達に事実上取り囲まれている。あの秘密会議のお返しと言わんばかりに。
「分かった、仕方ない。何を話せと言うんだ」
今日二度目、ラムダから感情の発露が見て取れた。諦めであることは残念だが、些かざまあな様ではある。それでも交渉は成立した。急かすラムダに、
「それはまたもう少し後。それよりも、先に一つ確認したいことがある」
言い聞かせ騎士達に告げる。
「誰でもいい。我々はここにいるから、居館の五階から大声を出してくれ。内容はなんでもいい、好きに叫んでくれ。なんなら窓ガラスを割っても構わない」
ぽかんとする顔が並ぶ。それでも素早く意図を察した者がいた。ただし、どう見ても貧乏くじ。それでもヴィクトル・クーベリックはくじを引いてみせた。教会騎士団に負けじと病院騎士団の一人が名乗り上げる。なかなかの忠誠心、ぜひ報いたい。




