第34話 使者と大公
――よろしいならば極刑だ。
私は何度もそう告げ、諸侯を戦慄させた。だが実際、私にそんな権限はない。スズキ・マイケル辺りは「お前皆殺しにするつもりだろうが!」と派手に勘違いしていたが、私にそんな力はないのだ。力があったらやるのかと問われれば、やったかもしれないが。
私の内心は当然考慮されず閣下は続ける。
「まあ全員が全員お咎めなしというわけでもなかろうし、いっそ反旗を翻そうと企む輩がいてもおかしくはない」
三度私達は頷いた。ライン王国の政情不安は今一時的に治まっている。理由は先に挙がった一つ、寛大な処分。もう一つは言うまでもなく王家への忠誠という名のハラルド陛下への恐怖だ。私もまだ国内にいて、わざわざ逆らう馬鹿が果たしてどの程度いるのか。いたとしてせいぜい教会辺りだろうが、いかんせん実働部隊の騎士団を抑えられている。あの日から騒然としていたライン王国は今大半が安堵している状態なのだ。今のところ諸侯の動揺は収まりつつある。あくまで今は、だが。
閣下が徐に口を開く。
「とはいえ王家も代替わりするのだ。先々が不安ではある」
「ですので、お早い登城を」
素早く告げ、屈指の実力者グランバッハ大公の登城を促す。私の役割ではない気もするけれど、ラムダが黙り込んでいるので仕方ない。閣下はじっと私の目を見て、
「無論そのつもりだ」
明言した。よかった、これもしかして今日中に帰れるんじゃ? と思った矢先それは告げられた。
「まず息子のミゲルを登城させる」
唖然、言葉を失うとはこのことだ。ラムダも同じ有り様で、突然の言に愕然としている。そんな、それじゃ私今日中に帰れなくなる。不意を突かれ重くなる口を無理やりこじ開け、
「なぜご子息なのです? 殿下はグランバッハ閣下の登城をお望みです。言ってはなんですが、早い者勝ちのようなものです」
確かめると、閣下は苦笑交じりで腕を組んだ。
「ミゲルは跡取りだ。いち早く王都に参じさせこちらの継承を確かなものにする、ということだよ」
閣下は組んでいた腕をほどき軽く手を挙げてみせた。笑みを交え手の内を明かしていると言わんばかりだが、果たしてそれが認められるのか?
「しかし閣下、殿下の意向に反します」
固まっていたラムダがようやく割って入ると、閣下はしっかと首を縦に振った。
「これからのライン王国、いや南ルナリアがどうなるかの一大事。ミゲルには王宮で働いてもらう。自領に引きこもっていても何も得られない。ラムダといったな、君なら分かるはずだ」
明瞭な言い分、大公閣下は意図を明確にされている。確かに、ラムダは今中央での出世争いに身を投じている。それは出世栄達、自己保身であり汚名を返上する為だ。これからは中央集権化が進むと閣下は睨んでいる。それはつまり……、
「大戦を目論む輩が南ルナリアに南下してきた以上我らも覚悟を決めねばならん。何せあの殺戮の勇者なのだからな」
戦支度。閣下は殺戮勇者の影響をここまで警戒していたのか。
ここで閣下は、そういえばもてなしもしていなかったと小休止を挟んだ。侍女達を呼ぶ為一度席を外し、奥へと消えていく。
また二人きりになった。ただし先ほどとは状況が違う。ラムダは唇を噛み私も髪をかきむしりたいぐらいの心境だ。
「もう、今日中に帰りたかったのに!」
思わずぼやくと案の定ラムダが噛み付いてきた。
「何を言ってるんだ。僕らはゲッツア殿下の使いで来てるんだぞ」
「知らないわよ。書簡の中身も知らないのに、私に何をしろというの?」
言い返すと、まるで自覚の足りない無能を見るような視線を向けられた。よくも元の婚約者をそんな目で……まあ、散々なじられた二週間前に比べればマシかもだけど。いや違う、やっぱり認めない。
睨み合う状態の中、閣下が侍女達を連れて戻ってきた。「相済まない」と、とてもグランバッハの大公閣下とは思えない台詞と共に。当然睨み合ってる場合ではない。
テーブルにティーカップが並びお茶菓子まで並べられた。
侍女が去り、私はカップを手に取り紅茶をいただくがラムダは口もつけずに口を開いた。
「閣下、殺戮勇者の件も含め早急に登城せよと殿下はそう仰っているのです」
急かすラムダに閣下は平然と紅茶とお茶菓子を勧めている。まあ落ち着けと言わんばかりだ。勧められては断れない。焦り急くラムダがやむなくカップを手に取ったその時、
「君達は北ルナリアが今どういう状況か把握しているのか」
唐突に閣下は告げた。南ではなく北ルナリア?




