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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第2章 侯爵令嬢の華麗なる推理劇
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第33話 閣下曰く

 私の言にラムダは眉をひそめている。だが大公閣下はソファの背もたれから背を離し、前のめりにじっとこちらを見つめてきた。たじろぐわけにもいかず、凛と姿勢を正す。閣下が改めて口を開いた。


「ご令嬢は先だって、王宮で随分活躍されたそうだな」


 その口調は明朗で、非難の色は見て取れない。当然こちらも、日和見を決め込んだグランバッハ大公に非難されるいわれもない。かと言って今更非難するつもりはないし、波風立てに来たわけでもない。

 ラムダから些か負のオーラを感じるが、わざわざ私が来たのだ、この話題避けるわけにはいかないだろう。


「それほどのものでは。結局、大人達にしてやられてしまいました」


 思うところはあるが、本音も交え素直に吐露する。


「大人達と。陛下と殿下か」

「左様です。どちらも食えぬ代物と痛い目をみました」


 少しの間の後、これはいい、と閣下は破顔し手を叩き始めた。笑わても仕方ないが、そんなに喜ぶことないのに。あえてついっとそっぽを向くと、次に閣下はラムダに尋ねようとした。


「貴公もあれだ、随分と……」

「閣下、その話はどうかご容赦下さい」


 ラムダは瞬時に遮り頭を垂れている。その頭は本来私に下げるべきでは? という私の内心はともかく、そんなラムダを見て大公閣下は顔をしかめかぶりを振った。


「貴公、これは一生ものだ。避けては通れん。まだ二週間、昔話と割り切ることは出来んだろうが笑い話とせねば王宮で生きてはいけん。何、いずれ過去になる」

「それは、理解していますが……どうかご容赦下さい」


 言葉に詰まるラムダを見てやはり哀れに思った。一方、なんとなく閣下お人柄が窺い知れて好感を覚える。


「そもそも転生者、だったかな。それが悪いのだ。確かに貴公にも落ち度はあろう。しかしこれからも被害は出る。貴公が自分を責めるなら、以降想定される被害者達も自身を非難せねば道理が通らん」

「いや、そんなことは……!」


 ラムダは抗弁しようとしたのだろうがやはり言葉が出てこない。閣下の言葉は理屈では分かる。しかし人の心情はそう簡単に割り切れない。ラムダはまだ若くプライドも高い。仮にも侯爵家の令息が利用され弄ばれたのだ。先日の会議、そして今ここにいること自体ある意味感心するほどだ。立ち直りが早過ぎる。もう少し落ち込んでいいんじゃないかと正直思う。

 私という女性としてもライン屈指、三本の指に入る婚約者を失ったのだし。

 致し方ない助け舟を出すとしよう。


「閣下は転生者をご存じなのですね」


 割り込むと、閣下はしかめ面のまま静かに頷きそして応じた。


「無論である。我が領土はギルド領とも近い。冒険者共の噂話などすぐ耳に入る」

「ではなぜ、私という存在を黙殺したのですか」


 ラムダがすぐさま反応し制そうとする姿を、逆に閣下が制した。ただ視線だけでラムダは居ずまいを正し素直に従っている。明るい人柄から一転、グランバッハ大公から威厳が醸し出される。そうして、


「ご令嬢は派手にやり過ぎた。我々にも都合というものがある」


 答えになっていない言葉を発した。こちらは努めて冷静に応ずる。


「把握されていたことはお認めになるのですね」

「当然だ。さすがに殺戮の勇者と接触したことは知らなんだが、あちこち派手に飛び回っていたそうではないか」


 頷き、それが何か問題なのかと居直る。過去は変えられないし、私の行いを間違いだとは言わせない。なんの手立ても用いないことが正解だと、言わせてなるものか。努めて冷静にとは思うが少し態度に出てしまったかもしれない。それを、


「いや構わん。実際我が領地では何もしていないのだ、責めるつもりはない」


 閣下は鷹揚に受け止めた。

 そう、アウグス・グランバッハ大公は大物過ぎて私から接触出来る存在ではなかった。気づいてくれと願いはするが、閣下の領地で不逞は働いていない。功績を残すことも出来なかったが。

 大公閣下は静かに告げる。


「貴公らも知っていようが、二週間前のあの騒ぎ以降ライン王国は不安定な状態にある。無論、理由は知っておろう」


 二人して頷き聞き入る。


「だが、恐らくこの状況長くは続かない。その理由も知っておろう」


 再び二人して頷くと、閣下は徐に口にした。


「処刑を恐れていた諸侯が、代替わりの処分で済まされているからだ」

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