第21話 ルナリアの守護者
再び玉座に鎮座したハラルド陛下は、寂しくなった光景をしばらく眺めていた。一つ頷き、徐に口を開く。
「先に告げる。貴殿ら殺戮勇者の名を知るか」
ハラルド陛下のお言葉に、私が代表し応ずる。
「名とは。奴に確かな名はありません」
「いや奴はずっと名乗っている。ほれ、ヒントもあった」
「どこにです……そういう話では」
「そこもとの隣におるではないか」
私の両隣はミーシャとアリス。まさか、王者を歌ったという古のミュージシャン。
「ベルト、なんとかベルトですか?」
「なんだそれは。アルベルト以外に何かおるのか」
「合っているのですか?」
「全然違う。逆隣だ。奴はずっと、名乗っているぞ」
うん? 逆隣はミーシャ……あいつは殺戮の勇者。……嘘でしょ、もはやそれは……。陛下が名前を挙げていく。
「ミーシャ、サーシャ、カーシャ」
「アナスターシャ」
「無理やりだな。アナスタシアだろう」
「つまり……ユーシャ」
「それが名だ」
「奴の実名」
「それは知らん。姓はない。あえて言うなら、ルナリアだと言っていた」
ルナリアのユーシャ。大胆不敵と言えないのが怖い。まさしくルナリアの守護者。或いは支配者、代表者。かくあるべしと奴は戦い続けている。
増上慢と言えないのが悔しい。
私はあの男に届くだろうか。
今のままではきっと届かない。
唇を噛み締める私に対し、ハラルド陛下は思い出すよう語りかける。
「実際会った感想は、人物評を聞かせよ」
「私はエストバル地方の北、聖ナルタヤにてユーシャと会いました。実際は遭遇したというべきでしょう」
記憶に焼きつく、奴のやり口。思い出すに苦労はしない。
「転生者をなぶり者にしていました」
「あの、それ女性じゃないですよね……」
ミーシャが躊躇いつつ口を挟んだ。アリスは両の手を握り締めていた。
「男性でした。じわじわとなぶり殺すよう、痛めつける姿は忘れられません。冒険者あがりのならず者、という印象です。ただただ強い」
――転生者の片足をわし掴み、持ち上げては叩きつける。「いい天気だ。洗濯日和だな」と言いながら。
「なぶっていたと、捉えるか」
「はい」
「誘っていたと捉えるべきだ」
「……私をですか?」
「それもあるが、転生者の仲間だ。助けに来るか確かめていたのだ。どうやら来なかったようだが」
そんな素振り一つも見せなかった。けれど言われてみれば、奴ならやりかねない。複数の転生者、或いは魔族や女神。まとめて相手にする気だったのか。
陛下は腕組みし頷く。
「それから先ほどのメッセージ、皆はどう思う」
これに、ゲッツア殿下が先んじた。
「事実やりかねん。そう思います。ただ、陛下には友情を持っている。それほどに陛下の力は印象に残ったのでしょう。ゆえ、怒りも大きい」
殿下は眉間に皺を寄せ、先々に思いを馳せているようだ。ハラルド陛下が即位したのは、冒険者を引退してから。以降ライン王国の守護者として君臨して来た。それが災いの元となるなんて、皮肉だ。
「あのぅ……」
「アリス、だったか。構わん申せ」
「はい」
アリスは小さな手を胸に当て、一歩前に出た。なんて成長ぶり。私、今猛烈に感動して校長の墓石を新調したい。校長も喜ぶだろう。墓石はいくつあっても困らない。大量の墓石が並べば、きっと校長も喜んでくれる。
「勇者というお方、所々ふざけてますよね?」
「ふむ、そう取るか」
「なんというか、陛下と凄く親しく感じます」
「実際親しかった」
「なら、心配しなくても助け合えるかも」
「それはない」
陛下にバッサリ切り捨てられ、アリスは肩を落とした。敗軍の将のよう元いた位置へと戻る。
「そつじながら、勇者の性格は読み解けます」
今度はミーシャが前に出た。
「どんなだ」
「殿下の仰るよう、陛下に親愛の情を持っているかと」
「愛し合ってなどおらん」
「いえ、そういう腐った何かではありません」
「そうか。誤解を招く、気をつけよ。続けろ」
陛下に先を促され、ミーシャは私に身体を向ける。間を置いて彼女は続けた。
「冗談が好きな男。かなりブラックユーモアですが」
「そうか」
「それに、あれはまるでアドバイスです。今後の指針を示すような」
「そうだろうな」
やっぱり、とミーシャは拳を握り締めている。
「先輩は恐怖の大王みたいに言いますが、実際は話せば分かる人物では?」
「あなたは会ったことがないからそう思うのよ」
思わず反論すると、
「でも先輩は女神についても聞いたんですよね。転生者の詳しい話とか」
「事実上拷問していたわ」
「先輩も今では転生者絶対殺すウーマンじゃないですか」
「転生すればいいのよ。迷惑だわ。殺すとは限らない。必要な情報を得た後どうしろと言うの」
「でも……」
ミーシャは口ごもった後、元の位置に戻った。
「裏切り者は絶対に許さない」
唐突、ハラルド陛下が口にする。
勇者の台詞だ。
あの気迫を思い出すと、寒気がする。




