第20話 絶対
「問題は跡目。お前は子が多すぎる。此度の計略で諸侯の力は削ぎ落とせた。だが、諸侯の跡目争いも始まる。王家まで乱れては元も子もない。エルカ、貴殿はどう考える」
「腹が立っていますわ」
「なんだと。お前が王となる気か。それもよい。殺戮の勇者を考えれば、国の変容は伝わりやすい」
「誰がそんな話をしました」
後ろ楯となってくれたゲッツア殿下には申し訳ないが、私はそんなことの為に来たのではない。
それでもひげを撫で、ゲッツア殿下は私に問いかける。
「何が気に入らん。王家にも体面がある。禅譲はやもすれば殺戮を生む。貴殿はそれが望みか」
「私の体面はどこへ行った……」
「貴殿の顔はもう立っている。望みがあれば申せ。全て叶える。いや、全ては無理か。出来る限り支援するぞ、戦う者よ」
ゲッツア殿下の認識は正しい。ただ一点を除いて。
「私の話を聞いていましたか?」
「最初から聞いていた」
「私の望みをお分かりでない?」
「慰謝料という気か。それはいくらだ。莫大であろう。支払いの分割は利くのか」
何を、一括に決まっている。だが違う……。
怨讐を込め、私は分からせる。
「……テンプレ展開は絶対だ。追放を実行しろ。悪役令嬢のざまあこそ至高。無双なtsがチートな乙女ゲーを異世界とする! もう遅い!」
「貴様、転生者に操られているのか!」
殿下は驚き飛び退いた。しかし、陛下は悠然とそれを受け取っていた。呟くようハラルド陛下は零した。
「そうか……追放か」
「そうだ、追放だ」
「なるほど、だから追放なのか」
「そうです、だから追放なのです」
「しかし追放とは」
「ですが追放です」
「お前ら、何を言っている?」
飛び退いた殿下が、平静を取り戻し口を開いた。
「叔父上。追放しなければまずい」
「転生者、スズキ・マイケルの力はそんなにも強いのか。だが、実行されれば力を増す。そう言ったではないか。それでいいのか」
「このボロ布が雑巾になったところでどうだと言うんです。叔父上、追放を演出しなければならない」
甥の言葉に、ゲッツア殿下はすぐに悟った。そうして頭を抱えている。
「そうだった……。情報戦はエルカ殿の得意分野。だから追放を望んでいたのか」
「それもあります」
素早い切り返しに、殿下もすぐさま切り替えた。
「他の理由は」
「叔父上は一人の女を愛する者。それが分かりませんか」
ハラルド陛下が呆れを含ませ問いかける。
ゲッツア殿下はまたも渋面を浮かべていた。
「もう年だ。夫婦仲は冷え込んでいる」
「そういうのはいいです」
「そうか。しかし君は……まさか、それだけの為に……」
若き日を思い出したか。
「操立てのつもりか。確かにラムダ君は嵌められた。だが、ハメてもいる」
「下ネタもいいです」
「ではなぜだ」
「知っていて止めなかった。訊かれずとも、説明は出来ました。私は彼をずっと利用し、裏切ってきた」
あなたのお陰と言えないから、私はラムダに伝えられなかった。住む世界が違うなら、そもそも婚約は成立し得ない。
「よくよく理解した。叔父上、跡目を決めねばならない。偽りの玉座、長くは持ちません」
「それはいい。そう話していた。だが諸侯に有力者、教会への対応と問題は山積するばかり。殺戮の勇者が来る前に、我が国が割れる」
「それをまとめるのが叔父上、あなたの仕事」
「玉座に座れというか! 私は宰相、片腕がお似合い。分は弁えている!」
ゲッツア殿下がこんなに慌てるなんて。おじさまも可愛いところがある。
「どうもいかん。叔父上は上に立つ器ではないらしい」
「知っている。追放したくば、私を追放すればよい」
「なんの為です。ご冗談を。民と王国の為、最期まで尽力していただく。お恨みあるな、叔父上」
陛下は踵を返し玉座へと向かう。
我々もならい、玉座の前へ歩を進める。
私とミーシャ、アリスと最近夫婦仲が冷え込んでいるらしいゲッツア殿下が並び立つ。最後はこちら側で迎えるのか。
律儀な方だ。なんと美しい立ち振舞い。いずれ、この日の非礼を詫びる時が来ると信じたい。私が信じるものを貫く為にも。




